第十三章:アジト襲撃
俺たちは何とか警官を振り切りアジトへと逃げた。
「直ぐにアジトを捨てるわ。必要な物を持って。それから証拠となる物は全て壊して」
ディアドラは直ぐに車から降りると俺達に命令を放つ。
と言っても俺も兄貴もショウもここには証拠となる物は持って来ていない。
デジコンがやたらコンピューターの品物を持って来ているだけの話。
そのコンピューターだって金槌とかで滅多叩きにしてしまえば大事なデータもオジャンだし水に入れたら尚良い。
「で、これからどうする?」
兄貴がジタンを銜えながらディアドラに訊ねる。
「先ず、ここを出て別な場所に行くわ。そこで態勢を立て直す。と言っても一度はケースを奪還したから金は渡すわ。それで良い人はもう終わりよ」
また金が欲しければケースを奪還する仕事を与えるとディアドラは言った。
ここらで人員整理をする気だな。
トミー野郎が裏切り者である以上俺たちだって疑われて当然。
となればここで人員整理を行い忠誠心を試すのも手だし不審な動きを見せれば殺すべきだ。
「・・・その前にお客さんが来たぞ」
ショウが窓を見て客---追っ手が来た事を伝える。
「俺はやる。相棒もブレイズも一緒だ」
兄貴はディアドラに言うとデジコンとエンジンは下りると告げた。
「そう。それじゃここで解散、と言いたい所だけどベルトラン。この2人を安全な所へ逃がして。ブレイズは私と。ショウは・・・・・・・・・・」
「ここで食い止める。まぁ、俺の“恋人”だけじゃ役不足だ。お前の彼女も貸してくれないか?相棒」
ショウはディアドラの言葉を遮り自分の役割を知っていたかのように言い兄貴に銃を寄こせと言った。
「手荒く扱うなよ?愛しているんだからな」
兄貴はコルトM1911A1を取り出して口付けしショウへ投げた。
「・・・優しくするさ」
ショウは笑って言うが・・・言葉からは絶対に優しくしないという気持ちが滲み出ていた。
こいつは根に持つタイプだな。
「さぁ、行け」
俺たちはそれぞれの車に乗り込んでアジトの裏側から逃げた。
途中までは一緒だったが兄貴とは別れた。
「何処へ行くんだ?」
俺はS&W M19を取り出して訊ねる。
「別のアジトよ。それよりベルトランは勝手に貴方の事もやると言ったけど良いの?」
「あぁ。元々やるからには最後までやる、というのが俺の考えだからな」
「そう。最近の日本人は責任が無いとか聞くけど貴方は違うのね」
「まぁね。でも、全ての日本人が責任無いなんて事はないぜ」
「それは言えてるけど今まで会った日本人がそういう輩だったのよ」
「そいつは可哀そうだな。女の扱いは下手くそだが捨てたもんじゃない」
「貴方を見ていればそう思うわ。ブレイズ---篝火」
うわぁ・・・こんなキツメの美人から名前を言われると嬉しいな。
しかし、こんな所を彼女に見られたらと思えばそのときめきも直ぐに無くなり寒気さえ覚える。
「どうしたの?」
「え、あ、いや・・・別に何でもない」
俺は窓を見て答えた。
彼女は居ない。
見られて・・・・いない、よな?
「そう。それより貴方の名前ってどういう意味があるの?」
「あんたが言った通り篝火だよ。本職はジャーナリストなんだ」
「戦場?」
「あぁ。ボスニアでピュッツァーリ-賞を物に出来る記事を書いたんだが1ドルも価値の無い記事に負けた」
「どんな権力にも負けず真実を描くのがジャーナリストの本分と聞いていたけど最近はそれさえ無いから困ったものね」
「あぁ。それであんたの意味は?」
「ディアドラと聞いたら何を思い浮かべる?」
「イタリアのスポーツ用品メーカーだけど違うんだろ?」
「えぇ。古代ギリシャ語は得意?」
「いや。さっぱり」
「それじゃ教えて上げる。ディアドラとは古代ギリシャ語で“神より賜れし至上の贈りもの”という意味があるの」
「両親が初めて授かった娘だからそう名付けられたのか?」
「いいえ。違うわ」
違う?
こんな名前だからそう思ったが違うとなれば何だ?
「ケルト神話に出て来る悲劇のヒロインもディアドラと言うんだけど意味はこうよ」
災いをもたらす者、危険・・・・・・・・・・
「・・・・・・・」
「私が産まれた途端に両親は死亡。交通事故でね。名無しだった私に引き取った孤児院の長はそう名付けたのよ」
何とも酷い名付け親だ。
「これが私の名前の意味よ。でも、意外と気に入っているの」
「どうして?」
こんな酷い名前を貰って何故気に入るのか皆目見当がつかなかった。
「ディアドラは絶世の美女で王と卿が互いに自分を巡り殺し合うと予言されたの」
そこが気に入っている・・・絶世の美女という言葉に。
「・・・・・」
「私の事を怖い女って思った?」
ディアドラが笑みを浮かべて訊いてくる。
実際こんな事を聞かされたら怖いと思うし引いてしまうのが普通だろ?
無言の俺に彼女はまた微笑んだ。
切れ眼を細くし唇を僅かに上げる所が何とも・・・・・・・
「でも、女っていう生き物は怖いものよ。男を手玉に取るからね」
そして名前のディアドラは危険であり災いをもたらす者。
・・・・何て言えば良いんだよ。
「現に後ろを見なさい。もう災いをもたらしちゃったわ」
「ゲッ・・・犬っころ!!」
何であいつがここに居るんだと思いたくなるほど最悪なタイミングで奴は現れた。
『待ちやがれ!東洋人!!』
自称フランスNO.1の傭兵シャルル・ペスだ。
「貴方の友達でしょ?」
「あんな変態を友達にした覚えはない。あんたが使ってたSMGは?」
「弾切れで無いわ」
「予備の弾くらい持っていてくれよ・・・・・・・」
「今度からはそうするわ」
さぁ、頑張ってと言われて俺は窓を開けて身体を出してS&W M19の引き金を引いた。
ちくしょう・・・・本当に災いをもたらしたよ。
この切れ眼が良い女は・・・・・・・・
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俺はデジコンとエンジンを乗せて走っていた。
2人は何も言わないが・・・懐が膨らんでいる。
恐らくサプレッサーを取り付けた拳銃だろう。
「何処へ行けば良いんだ?」
俺はジタンを吸いながら訊ねた。
「適当な所で良いよ。後は自分達で行く」
「それは結構。それじゃここで降りな」
車を停めた。
「あぁ・・・君が、な」
「・・・そうだな」
2人は懐から拳銃を取り出し俺の後頭部に当てた。
「おいおい、お前等どうしたんだ?」
「どうもしないさ。元から君には死んでもらう積りだった」
「その通り。情報に疎い日本人が出る幕じゃない」
「情報に疎いのは認めるが出るかどうかは俺が決める事だ」
それに・・・・・・・
「俺は死なない。何故か分かるか?」
「私たちを殺して生きるのだろ?この状況でそんな事が言えるね」
デジコンが後頭部にサプレッサーを押し付ける。
エンジンの方も同じだ。
「言えるさ。少なくとも人殺しに関しては俺の方がデスクワークばかりしていたあんたらよりは上、だからな」
プシュ・・・プシュ・・・
2発の音が同時にする。
2人は血を流し倒れた。
「・・・言ったろ?人殺しに関しては俺の方が上だ、と」
俺は車から降り指紋などを綺麗に拭き取り歩き出した。
「金を巡っての仲間割れ・・・・・・と言う事だよ。“ワトソン君”」
「誰がワトソンだ」
相棒が茂みから出て来た。
手にはドラグノフSVDをブルパップ式に改造した“SVU”が握られていた。
「俺の恋人は?」
「ほれ」
相棒の手には見るも無残になった俺の恋人がある。
「酷い有り様だな」
「お前が言うか?俺の恋人を半年も入院させたお前が」
「言うさ。言うのは自由だからな」
「ふんっ。それであいつ等は何者だ?」
「身分を証明する物は何も無し。まぁ、金は頂いた」
「死人には必要ないからな」
そう言って相棒は俺が渡した1人分の金を懐へ入れた。