第十一章:疑惑の仲間
俺と兄貴は前方を走る車を追い続けたがその車には護衛の車が居る。
1台だけだが防弾タイヤなども装備しているから仕留めるには骨が折れる。
「兄貴、このままだと不味いですよ」
あれではショウ達の所まで行ってしまう。
それは何とか避けたいが・・・・・・・・
「仕方ない。あまりこいつは使いたくなかったんだが・・・・ブレイズ。後部座席を上げろ」
「え?は、はい」
訳が分からないまま俺は後部座席を開けた。
「・・・あ、兄貴。これって・・・・・・・」
「“TDS M72LAW”だ」
TDS M72LAWとは1960年代に開発された使い捨てのロケットランチャーだ。
LAWとは「Light Anti-Armor Weapon」で日本語に直すと軽対装甲火器となる。
何でこんな物が・・・・・
「そいつで撃て」
兄貴はボタンを押した。
すると屋根が開き上半身を出せるようになった。
「早くしろ」
急かされて俺は急いで上半身を出しM72を右肩に乗せて構える。
筒を引き伸ばし照準器で狙いを定めた。
そして筒の上にある発射ボタンを押した。
後ろから爆音と煙---バック・ブラストが出て前方から弾頭が飛び出て真っ直ぐに車を狙い撃ち破壊する。
「良い腕だ。これで邪魔者は排除できたな」
「どうも。で、ここからは・・・・・・・」
「猟犬の出番だ」
「こちらブレイズ。猟犬」
俺は無線機で猟犬に連絡した。
『何だ?』
「今、邪魔者を排除した。これより追い込みを始める。準備されたし。繰り返す。準備されたし」
『了解』
短い通話を終えた俺は兄貴から渡された煙草を銜えた。
既に火は点いておりそのまま吸える。
こういうさり気なさもまた男の証だ。
などと思いながら吸うがやはり味は・・・・・・・・
「吸った気がしねぇ・・・・・・・」
こんな不味い煙草でフランスを二分するとは信じられない。
それとも俺の煙草が強過ぎるからか?
「そう言うな。煙草が吸えるだけ有り難いだろ?」
兄貴は笑いながら俺に話し掛けた。
「そりゃそうですけど・・・・・・・・」
「所でブレイズ」
「何です?」
「お前はトミーをどう思う?」
いきなりトミーの事を訊かれ驚くも俺は答えた。
「傲慢、傲岸不遜、偏見って所ですね。実力があるのか甚だ怪しいです」
「前者は当たりだ。しかし・・・実力は分からんな」
「どう言う事です?まさか本当にSASに居たなんて・・・・・・・・・・」
SASはアメリカの特殊部隊デルタフォースがモデルとした特殊部隊の老舗中の老舗だ。
料理で言うなら数百年の歴史を誇る料亭みたいなもんで、現在でも実力的に言えば上位に食い込む。
しかし、俺の得た情報ではデルタの方が上と聞いている・・・だが、そこ等辺は何とも言えないな。
有利な立場に居ればSASが勝つし装備や戦術から戦略なども考えると判らない。
まぁ、それが特殊部隊というもんだが・・・・・・・・
「あの男・・・臭いんだよ」
「臭い?例の007に調べさせたんですか?」
「いや。ただ俺の勘が臭いと言っているんだ」
「それはつまり傭兵としての経験上から来ているという事ですか」
「あぁ。お前はジャーナリストだから同業だったら臭いと思うか?」
「確かに・・・同業者なら臭いと思いますね」
性格は最悪以外の何でも無い。
そこ位しか俺は分からないが兄貴達は傭兵だ。
となれば戦う者達とは何かしらのシンパシーや経験がある。
そうなるとこれは当たりかもしれない。
だが、それは何だ?
臭いとは言うが具体的にどんな・・・・・・待てよ・・・・・・
「まさか、あの男が諜報員という事も・・・・・・・」
「有り得なくはないだろ?特殊部隊を問わず軍を辞めたら諜報員になる奴も居るし現役からスカウトされる奴も居る」
代表を上げるならグリーン・ベレーだ。
グリーン・ベレーの渾名は「戦う外交官」と言い語学力などが他に比べれば必要なんだよ。
というのも味方作りなどで必要になるから。
他にも特殊部隊の奴等が諜報員に鞍替えなんて事はある。
トミー野郎もその可能性は低くはない。
だが、あの男が諜報員になれるのか?
俺的には有り得ないが世の中なんて分からない。
ああいう風に見せている可能性だってなくはないから怖い所だ。
「どうするんですか?」
「あいつは誰と一緒だ?」
「・・・1人ですね」
そうあいつは1人だ。
ディアドラ達と合流するとは言っていたが今は1人・・・十分に仲間と連絡を取る時間はある。
まさか・・・・・・・
「あいつがペス達を?」
「有り得なくはない。まぁ、そうなればそれで良い」
消せば良いだけの話だし、そいつのボーナスと後金を頂けば良いのだから。
そう兄貴は言ったが・・・・・・・
「悪役の言う台詞ですよ」
などと当たり前の事を言った。
「俺が正義の味方にでも見えるか?」
「いいえ。寧ろ悪の幹部って言われても信じますよ」
俺は笑った。
「だろうな。しかし、それで良いんだよ。俺は悪人だからな」
何せ傭兵という金次第で動く人間なのだから当然と兄貴は言い続けた。
傭兵にインタビューした時がある。
その傭兵は俺が質問した答えにこう言った。
『傭兵が何の為にやる?金だよ』
そう傭兵は答えつつ続けた。
『俺たち傭兵は金を貰う代わりに銃を手に世界中の釜ん中を歩き回っている。好き好んで、な。俺等みたいな奴等を人間の屑と言うんだ。もっとも銃を取る時点でそいつ等もまた同じだ。誰かの為に、とか国の為に、とか言ってもやっている事は皆同じだ。所詮人間なんて生き物は大義名分を欲しがるだけの生き物さ』
そうさ・・・俺たちは正義の味方なんかじゃない。
金の為に集まった野郎共でしかない・・・それでも掟みたいなものはある。
依頼された仕事は必ず遂行する、だ。
別に取り決めた訳じゃない。
だが・・・金を受け取った時点でその考えはある。
奴が裏切るかどうかは不明だがもし裏切るなら殺して金を奪い分け合えば良いだけの話だ。
そう思えてしまう俺もまた悪人かもしれない。
まぁ・・・人間なんて所詮はそんな物だと割り切るしかないんだよな。
あの傭兵が今は何処でどう生きているのかは不明だが・・・その通りだと思ってしまう。
人間生きる為に大義名分を欲しがるが蓋を開ければ中身は同じでしかない。
それなら単純に金の為だけに戦うと開き直った方が良いに決まっている。
兄貴は何処か優しい面がある・・・あの傭兵もまたそうだったが・・・・・・・・・・
この言葉もまた傭兵から聞いた言葉だ。
『まぁ、戦場に浪漫を求めるのも男の性だ。戦場なんて地獄以外の何でも無いがそれでも求めるのさ。そして失う。それにな・・・非情になっている人間ほど実は優しいのさ』
これまたその通りだと思ってしまうし図星なんだよな。
まったく何でこんな言葉を思い出すのか・・・・とは言え些か迷っていたからちょうど良く打ち消す事が出来たからOKだ。
「ブレイズ、念の為だ。ディアドラに連絡しておけ」
「こちらブレイズ」
無線機でディアドラに連絡した。
『どうしたの?』
「トミーはどうしました?」
『あの男は1人だけど・・・どうしたの?』
何かを察したのか厳しい声で訊いてくる。
「まだ確信はないんですけど、あいつ諜報員じゃないか?と思いまして・・・・・・・・」
『・・・有り得なくはないわね。今にして思えば怪しいわ。でも、作戦は続行するわ。それにあいつが諜報員でケースの中身を奪おうとしても阻止するだけよ』
「了解」
『これで通信を終えるわ。それからブレイズ』
「何か?」
『気をつけなさい。貴方って弟みたいに可愛いから』
弟・・・・出来るなら男として見て欲しいと願望しながら俺は無線を切った。