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第七章:喧嘩のコツ

兄貴の家に到着したのは深夜1時になる頃だった。


兄貴の家は見るからに古めかしいデザインで、実際WWⅡ時代に建てられた家だと言うから納得できる。


「しかも元はレジスタンスが使っていた建物だ」


「そうなんですか。という事は、何か仕掛けとかあるんですか?」


「それは見てからのお楽しみだ」


子供みたいな笑みを浮かべた兄貴は歳相応には思えない幼さが宿されていた。


そういう歳相応に思えない所が女心を鷲掴みにしているんだろうなと思いながら俺と兄貴は家の直ぐ横にあるガレージへ車を停めて降りた。


「先ずはナンバープレートとIDを交換する。色はこのままで良いだろう」


「ですね。下手に変えると目立ちます」


直ぐに俺と兄貴はナンバープレートとIDなどを変えて車検証なども取ってから家へと入った。


「遅かったな」


家の中に入るとショウがエプロン姿で料理を作っていた。


「料理できるのか?」


「こいつよりマシな腕だ」


ショウは行儀悪く包丁を振りながら言った。


「行儀が悪いぞ」


兄貴はジタンを吸いながらソファーに座るとTVのスイッチを入れた。


「何とか間に合ったな」


と言いつつ兄貴が見ているのはフランスで大人気のラブロマンスドラマだった・・・・・・・


「あ、兄貴・・・・・」


「何だ?」


「そ、それを見ているんですか?」


「悪いか?」


「い、いえ・・・・・・・・」


「見た目からは想像できない趣味だと言いたいんだろ?」


ショウが包丁を洗いながら俺に言い、俺は頷く。


兄貴がこんなドラマを見るなんて信じられない。


眼の錯覚だと思える・・・いや、思いたかった。


だが、同時に兄貴もこんなお茶目な所があるんだと何処かで安堵する。


ショウも兄貴も俺とは違う世界の住人だ。


傭兵という別世界の住人で何も知らない人間なら凶悪な野郎と想像するだろうが、これを見ると兄貴達も俺らと変わらない人間だと見える。


それが何だか親近感を沸かせた。


その一方で兄貴は煙草に火を点けながらTVに釘付け。


今の場面はヒロインが恋人と駅で別れるシーンだ。


恋人は列車に乗りヒロインは走り出す列車を追いながら恋人に愛を告白する。


何とも有り触れた内容なのだが兄貴は黙って見ていた。


「こんな安物の何処が良いんだか・・・・・・・・」


ショウがテーブルに料理を載せながらドラマを見て嘆息する。


確かに安物と言えばそうだろう。


何年か前に映画館で見たような映画をTV版に焼き直ししたような物だ。


「うるせぇな。少し黙ってろ」


兄貴はTVを見ながら叱り付けた。


「本当の事だ。まったく人は見かけによらないと言うが本当だよな?」


何で俺に訊く。


とは言えそれに頷いてしまうんだがな。


そしてドラマを見終えた兄貴は軽く息を吐いた。


「はぁ・・・良い最後だったな」


「あれが?王道を突っ走っただけじゃねぇか」


「王道だからこそ王道なんだよ」


すいません・・・意味が解からないです。


と心の中で突っ込みを入れながら俺たちは遅めの夕食を頂いた。


その間ショウと兄貴の生い立ちなどを聞いたが2人とも揃って苦労人だ。


まぁ、傭兵になる時点で何かしらの挫折などがあるとは判っていたが・・・・・・・


夕食の後は明日の事について話し合いを始めた。


「明日、ディアドラが電話で連絡する。俺たちはそれを追い掛けて日常生活を調べるだけだ」


「そうですか。で、ショウたちはどうするんですかね?」


「恐らく俺とお前が集めた情報を元に計画を考えるか、武器などの調達だな」


「なるほど。しかし、あのトミー野郎豪く俺達に突っ掛かりましたよね?」


思い出すだけでも胸糞悪くなる。


トミーと言い犬っころと言いこの国には人種差別者が多過ぎると思ってしまう。


「ああいう奴は自分より下の奴等を見ると自分を優勢に見せたいんだよ」


「それもあるが俺らが日本人だから単純に馬鹿にしてるんじゃねぇか?」


ショウがそれを言うと兄貴は一理あるな、と頷いた。


確かにそれも一理あると俺は思う。


日本人を始め結構外国人同士はステレオタイプで見る事が多い。


行けば違うと判るんだが、行かないとTVとかそういう情報で得るしかないんだよ。


で、日本人が外国からはどう見られているか?


吸血鬼なんかは「総理大臣がコロコロ代わる」と一言だけ述べたが、まぁそれもあるなと思う。


後は何だ?


和食、着物、日本刀、魚料理、島国、などと色々と頭に思い浮かぶ。


まぁ、別に大したことじゃないから余り考えなくても良いか。


「おい、ブレイズ。明日は早くから動くからもう寝るぞ」


「はい。あの俺は何処に・・・・・・」


「相棒と一緒に床に寝ろ」


「兄貴は?」


「俺はソファーだ」


そう言って兄貴はさっさとソファーに寝転がると帽子を被り寝てしまった。


「お前も寝とけ。俺は食器を洗ってから寝る」


「それじゃお言葉に甘える」


俺は毛布に包まり床で寝た。


床で寝るなんて久し振りだ。


こんなにゴツゴツしていたっけ?と思うが直ぐに寝てしまった。

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朝になった。


随分と早いなと思うが昨夜---正確に言うなら今日だが、遅かったから早いと感じるな。


ふと隣を見れば既にショウの姿はなく朝飯を作っている最中だった。


「起きたか。寝ぼすけ」


ショウがフライパンを器用に動かしながら俺を片目で見てきた。


「寝ぼすけは余計だ。で、兄貴は?」


「定期便の受け取り中だ」


「定期便?」


「あぁ。“豊穣の女神”が焼いてくれたパンを受け取っているんだよ」


豊穣の女神?


「誰だ?」


「女神と思えるほど清楚な美人だ。相棒に惚れているし相棒も満更ではない」


「へぇ。流石は兄貴だ。女神を虜にするとは・・・・・・」


「まだ会って間もないくせに相棒の事が解かるのか?」


「ジャーナリストってのは一目で相手を判別できるんだよ。いや、この場合は理解できる、かだな」


「じゃあ訊くが俺はどうだ?」


「見た目と違って手先が器用。趣味も悪くない。ただし、人相が悪いし態度も悪い。社会的な面で言えば落第点物だ」


「・・・お前の目玉焼きは半分で良いな」


「おいおい。酷くないか?これから偵察に行く身だぞ」


「半日くらい食わなくても人間死なねぇよ」


と互いに軽口を叩いていると・・・・・・・


「坊主。どうしたんだ?その痣は」


兄貴の声が玄関から聞こえた。


「何だ?」


俺とショウは顔を見合わせて玄関へ向かってみる。


そこには兄貴と小さな男の子が居たのだが、男の子の顔には痣が出来ていた。


まだ新しいから昨日か一昨日に出来たんだろうな。


「転んだんだよ・・・・・」


「嘘を吐くな、とお姉さんから言われなかったか?」


兄貴は男の子の頭に手を置いて訊ねた。


「俺に話してみろ。お姉さん達には言わない、と約束する。後ろのお兄さん達もな」


俺とショウはいきなり言われて些か驚いたが直ぐに頷いた。


「・・・学校で殴られたんだ」


男の子は間をおいてから答えた。


「デイヴっていう体格の大きな子に生意気って言われて・・・・・・・」


弱い者虐めか。


「先生には言ったのか?」


「言ったけど・・・デイヴのお母さんが来てそんな事する訳ないって言ってきたんだ」


それに負けた先校は男の子を責めたというから酷い話だ。


「なるほどな。で、そのデイヴって餓鬼だけがお前を殴るのか?」


「ううん・・・他の同級生も一緒にやる」


かー・・・嫌だね。


大勢で寄って集って相手を虐める・・・“鉄血宰相”をタコ殴りした“ライミー”みたいだぜ。


「デイヴとかいう餓鬼が筆頭か?」


「うん・・・・・」


「よし。分かった」


兄貴はポンポンと男の子の頭を叩いた。


「今からそいつを倒すコツを教えてやる」


「でも、僕より体格が大きいんだよ」


「体格が大きかろうと勝てるさ」


兄貴はそう言って男の子を家の中へ入れた。


「先ずそのデイヴっていう餓鬼が筆頭で残りは取り巻きだ。こういう輩はリーダーをやられると烏合の衆になる」


兄貴は男の子の前に立って説明を開始し俺たちはそれを聞く事にした。


「確かに、そうだな・・・リーダーをやっちまえば後の野郎たちは何も出来ない。餓鬼の喧嘩なんて要は頭を叩けば勝負ありだからな」


ショウが煙草を銜えながら兄貴の言葉に相槌を打った。


確かに餓鬼の喧嘩ってのはシンプルなものが多い。


軍隊でも指揮官を狙えば一時的にだが混乱させられる。


つまり餓鬼の喧嘩でもそうだが、頭を破壊してしまえば相手は怯むんだよ。


「でも、先生がいるよ」


「そいつは心配するな。お前はそのデイヴとかいう豚みたいな名前の餓鬼を倒す事に全力を注げ」


「どうやって倒すの?」


「先ずそいつはお前をどうするんだ?」


「後ろに倒して蹴って来るんだ・・・」


「なら、身を護れ。脇を両手手足でカバーして頭を丸めて攻撃に耐えるんだ。そして隙を見て相手の顎に一発拳を入れる。顎に入れられると相手は怯む。そこを更に脇腹へ拳を入れて相手を押し倒し馬乗りになって叩け」


一瞬の隙を突き一気にこちらのペースへ持って行けば相手は負かせる。


「先校の事は俺に任せておけ。“大人には大人の喧嘩方法”があるんだ」


そして兄貴は俺を見た。


「なぁ?ブレイズ」


その時の兄貴は悪い事を思い付いた悪餓鬼みたいな笑顔だった・・・・・・・・


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