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第二章:猟犬との出会い

「いやー、良いインタビューだったな」


俺はビルの建つ16区---パッシー区の東西側の道を歩きながら満面の笑顔を浮かべずにはいられなかった。


ここパッシー区は市の西部にある行政区だ。


フランス第二の長さを誇る川---セーヌ川が南北に蛇行する区域で俺が歩いている直ぐ横にはセーヌ川が流れている。


ここセーヌ川にはパリの観光地に数えられているが、ふと横を見れば観光船が悠々とセーヌ川を越えている所だった。


小さな子供が俺に手を振って来たので俺は思わず手を振って答える。


あれから俺はエレーヌ・ヴィンフリードにインタビューをしたが実に良い内容が聞けた。


これなら良い記事が書ける。


久し振りに腕が鳴るぜ・・・・・


さて、これから何処に行くか?と言えば・・・・・・・・モンマルトルだ。


パリ一猥雑な街なんて言われている所へ男一人で何しに行く?なんて野暮な質問は無しだ。


彼女は居るんだ。


フランスに来た時知り合った日本人で親父さんは元自衛官で奥さんもまた自衛官という珍しい夫婦。


最初こそ緊張したが今では家族包みで彼女との仲も承認されている。


だが、ここ最近はお互いにスケジュールが合わない事で溜まっているんだよ。


分かるだろ?


男なら。


いや、女もそうだが。


まぁ、敢えて言い訳をするなら上司からモンマルトル行きの金を渡されたんだ。


使わない、なんて事は相手に失礼だろ?


だから・・・行かせてもらう。


もちろん彼女に知られでもしたらどうなるか分かったもんじゃないから口は閉じておく。


「どんな娘が居るのかな?」


噂によれば選り取り見取りで中東からアジアまで幅広いと聞いている。


流石はパリ一猥雑な街。


男女を問わず良い街だ。


速く行こうと足を急がせた時だった・・・・・・


「おい、東洋人」


「・・・・・・」


出来るなら聞き間違いの声だと思いたい。


「聞こえねぇのか?東洋人」


ああ、もう確定だ。


「・・・・・・」


俺は諦めて後ろを振り返った。


「何だ?その態度は。ちゃんと俺の方を見ろ」


何処まで高圧的な上に差別が込められている口調に俺は胸糞悪くなった。


こんな人種差別も甚だしい言葉を連発する野郎を俺は一人しか思い付かない。


「・・・何の用だ?犬っころが」


「誰が犬だっ」


ペスなんて犬みたいな渾名を付けられているんだ。


犬で十分だと俺は思いながら後ろを振り返り犬っころことシャルル・ペスを見た。


「てめぇ、よくも俺を虚仮にしたな?」


「あんた頭が出来あがっているのか?」


俺は本当に・・・心からこいつは頭が出来あがっているんじゃないか?と思った。


ビルでの出来事はあいつ自身の問題で俺は係わっていない。


それこそ指先1㎝だって触れていない。


それをどう取ったらこんな他人のせいにするんだか知りたい位だぜ。


「てめぇみたいな東洋人がここに居るから悪いんだよ」


「何処に居ようと俺の勝手だ。ここはあんたの管理する区じゃない」


俺は懐から愛用の煙草---ラッキー・ストライクを取り出して銜えた。


アメリカ製の煙草で「天国に一番近い煙草」なんて言われた時期があった煙草だ。


それをジッポーで火を点けながら煙を野郎に向けて吐く。


「・・・てめぇ、俺によくも煙を」


「たまたま風がそちらに吹いただけだ。煙草の煙まで俺のせいにされちゃ堪らないな」


「上等だ・・・面貸しな」


「嫌だね。俺は忙しいんだ・・・・・・・」


「おっと・・・大人しくした方が身の為だぜ?」


俺の背後から現れた男がコート越しに拳銃を背中に向けてくる。


「コルト・ベスト・ポケットだ。25口径だが・・・当たれば痛い。しかも、装弾数を全て撃ち込めば死ぬぜ?」


しかもサプレッサーを取り付けているから音も最小限だと言われた。


「拳銃で脅すか・・・何時からフランス紳士は盗賊になったんだ?」


「黙れ。さっさと歩け」


ペスはさも勝った様に言うと俺を路地裏に連れて行った。


「さぁて、先ずは土下座してもらおうか」


「嫌だ・・・・ぐっ」


ペスが俺の腹に拳を打ち込んできた。


子分は剥き出しにしたコルト・ベスト・ポケットを俺の耳に狙いを定めて何時でも撃てる態勢を取っている。


くそったれが・・・・・・・・


「さぁ、土下座しろ。そして俺の尻を舐めろ」


「・・・・変態野郎が」


誰が好き好んで男の尻なんぞ舐めるか。


死んでも舐めないぞ。


男の尻を舐めろなんて言う奴は・・・・・・・


「てめぇ・・・掘られたな」


こういう発言をする奴は生まれつきゲイか刑務所で掘られた奴のどっちかしか居ない。


刑務所に行ってインタビューをした時そう教えられた。


女気が無いので男同士で処理する。


そしてボスに気に入られたら愛人となり護ってもらえるが、気に入られなければ公衆便所となる。


こいつの場合は公衆便所だろうな。


見る限り公衆便所って顔だ。


「はんっ。俺が逆に掘ってやったのさ」


強がりを言っているが眼が泳いでいる所を見ると当たり、か。


「おい、こんな野郎をボスにしてお前は良いのか?」


拳銃を向ける男に俺は問い掛け時間を稼いだ。


「あぁ。ボスは可愛いんでな」


・・・・・・・・・・


こいつ・・・ホモしか部下が居ないのか?


しかも、可愛いとか・・・・・・・・・


ああ、吐きたい気分だ。


「さぁ、遊びは終わりだ。俺の尻を舐めろ」


犬っころはズボンを下ろし貧相な尻を俺に見せた。


「誰がするか」


ぺっと唾を吐いてやると・・・・・・・・・・


「あんっ」


・・・・聞かなかった事にしよう。


耳が腐る。


「おら、やれよ!!」


男が俺の顔を掴んで尻へと行かせる。


うぉぉぉ、やだ。


嫌だ!!


誰が野郎の尻を舐めたりなんか・・・・・・・・・


しかし、顔はだんだん尻へと近づいて行く。


や、やばい!!


もう駄目だと思った時だ。


「あぢっ!!」


犬っころの悲鳴がすると同時に尻が離れて行く。


た、助かったっ・・・・・!!


部下が一瞬だけ視線をそちらへ向けるが俺にとってはそれだけで十分だ。


「おりゃ!!」


コルト・ベスト・ポケットを握っていた右手を掴むと力一杯捻ってやった。


男は逆の方向へ腕をひねられて悲鳴を上げそうになるが、そこへ更に喉へ手刀を打ち込む事で声を塞いだ。


次に犬っころの尻を蹴り外に放り出す。


『きゃあ!!痴漢よ!変態よ!!』


どうやら偶々・・・女性が通り掛ったようだ。


悲鳴を上げると同時にバチンッと強烈な音がする。


「おい、こっちだ」


俺に声を掛けて来るのは俺と同い年に見える男。


「日本人か?」


ここまで滑らかな日本語を話せ尚且つ見た目などを見て俺は推測した。


「それより来い。逃げるぞ」


「おう」


俺は取り敢えずこの場から逃げる事を優先し名も知らぬ男と共に逃げた。


「ま、待って・・・ぎゃあ!!」


犬っころの声がして振り返れば女数人に袋叩きにされている。


口々に痴漢、女の敵、絶滅しろ、などと言われながら叩かれる犬っころだが・・・・・・・・


「あ、ああ・・・もっと・・・もっと・・・叩いて下さい・・・女王様・・・・・・」


などと火に油を注ぐ形で言うから更に苛烈さを増す。


まぁ・・・あいつにとっては本望だろうな。


つくづく変態だと俺は改めて思わずにはいられなかった。


「・・・で、あんた何者だ?」


俺は走りながら隣を走る男へ質問した。


「誰でも良いだろ・・・って言った所で諦めないだろ?」


「あぁ。性分でな」


気になる事はトコトン調べる。


ジャーナリストの性とも言えるな。


「先にあんたが答えろ。そうすれば俺も答える」


「ブレイズ。元戦争ジャーナリストだ」


「ジャーナリストかよ」


男は如何にも嫌そうな顔をした。


これは理解できた。


戦争ジャーナリストってのはある意味、傭兵と同格とも言えるほど嫌われている。


大差こそあるが、嫌われていると言えば嫌われているんだよな。


何故かと言えば、ある事無い事を勝手に書くからだ。


例えば俺の知り合いと呼べるほどではない奴はアンゴラで傭兵と共に戦場を駆け記事を書いた。


所が一緒に行動した傭兵から言わせれば「嘘八百で真実が一つも無い」という事だ。


記事の内容は傭兵の傍若無人で冷酷無比な行動などが所狭しと書かれている。


だが、その傭兵はそんな事はしていないという事実が明るみになった。


他の例を上げるなら正規軍での話だ。


正規軍の記事を書いた訳だが、秘密裏に事を運ぶ筈だった作戦を愚かにも記事にして暴露をした。


お陰で一からやり直す羽目になった、という話もある。


とまぁ・・・こんな感じだが更にと言えば良いか?


根元から言ってしまえば足手纏いでありお荷物なんだよ。


従軍記者などは訓練を受けた列記とした軍人などがなる。


しかし、戦争ジャーナリストは訓練も受けていない素人だ。


そんな素人が付いて来るんだから邪魔もの以外の何でも無い。


そしてこの男が嫌そうな顔をした時点で職業が何なのかも自ずと判るというものだ。


「あんた傭兵だろ?」


見た目もまぁ・・・強面というより貧相な感じだし、身体付きも逞しい。


ボディ・ビルダーみたいに“見せる筋肉”ではなく“動く筋肉”だと判る。


それらを考えて俺は答えを導き出したんだ。


「・・・本物のようだな」


男もまた俺の方を見て本職だと納得したようだ。


「あぁ。それであんたの名前は?」


「ショウだ。あいつは俺と相棒とはちょっとした仲で、あんたが偶々オカマにされそうだったから助けた」


「本当に助かった・・・危うくあの貧相な尻を舐める羽目になったんだ」


もし、この男---ショウが現れなかったら、と思うと寒気がする。


「まぁ、何はともあれ取り敢えず付いて来な」


その言葉に俺は頷いた。


これが俺とショウ・ローランドとの初めての出会いだった。


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