序章:戦争ジャーナリスト
えー今回、作者の友人であり相談相手の作家を出します。
皆さんも知っている方ですので分かると思います。www
「おい、ブレイズ。起きろ」
俺は肩を揺らされて閉じていた瞳を開けた。
「・・・んだよ。まだ寝て5分も経ってないんだぞ・・・って編集長!!」
寝ていたソファーから転げ落ちながら俺は慌てて立ち上がった。
「まだ寝て5分の所を起こして悪かったね・・・ブレイズ君」
肥え太った豚みたいな男が俺の上司---編集長は皺をよせながら笑みを浮かべて来る。
「あ、いえ・・・な、何でもないです。それで何か用ですか?」
俺は出来るだけ言葉を選びながら訊ねた。
「君はパリに来て何年だ?」
「パリに来てから・・・ですか?」
「あぁ」
「そうですね・・・アメリカから直ぐに来たので・・・2年、ですね」
「そうか。2年か・・・その2年間で何か我が社に貢献したかね?」
「・・・・・・」
確かにここ花の都と謳われ毎年約4,500万人の観光客がここを訪れている。
しかも、その6割は国外からの人々だから凄いだろ?
話を戻すとそんな所へ来て早2年。
俺はその間、特に何もこの会社に貢献していない。
「あまり口酸っぱく言いたくはない。それに君の前歴も考えれば我慢できる」
「・・・・・・・」
編集長の言葉に俺は無言になった。
俺はここへ来る前アメリカに居た。
職業は戦場ジャーナリスト。
名前から分かる通り戦場を走ってその場の空気や真実を世界に訴えるのが俺らジャーナリストの役目だ。
そんな職業に就いた俺ももちろん戦場を走り回った。
主にアジアが多かったが、中東も行った事がある。
中東は宗教と国家絡みのイザコザが多くて実に難しい。
まぁ、そこが俺の初陣とも言える場所だったが。
そこで俺は初陣にしてピューリッツァー賞物のネタを手に入れた。
そしてタイプ・ライターで書き上げて後一歩という所まで手が届いた。
だが・・・そこで終わった。
ピューリッツァー賞は俺ではなく3ドルの値打ちも無い記事---自国を絶賛するような記事を書いた糞が手に入れ俺は職を追われる羽目になった。
どういう事か?
考えたが直ぐに止めた。
大体の見当はある。
ピューリッツァー賞を創設した“ジョセフ・ピュリッツァー”はこう言った。
『社会的不正義と当局の汚職の摘発こそ、審査を貫く基準である』
今にして思えば・・・俺がジャーナリストを目指したのも彼の言葉が影響したからだ。
現実なんて理不尽と不平等で成り立っている最低の世界だ。
だが、それでもこういう風な事を言い賞を設立する人が居るんだと幼いながらも感心を覚えた物だ。
そういう事もあって俺は自分の信念を貫く形で紛争を食い物にする国のあり方を記事にした。
それが恐らく“白い家”の奴らには我慢できなかったんだろうな。
そんなこんなでアメリカを俺は追われたが、先輩ジャーナリストの助けでヨーロッパに来た。
そしてまたジャーナリストをしているのだが・・・どうも記事が書けない。
書けるのは書けるが、自分の考える記事が書けない。
そこで2年も碌な記事を書けないのだから編集長が些かお怒りなのも解かる。
「・・・すいません」
「謝るのは弱い証拠と言っただろ?ブレイズ」
編集長は俺を見ながら言ってくる。
「だが、君の誠意は私も理解している。そこで君に仕事を頼みたい」
「仕事?」
「あぁ。プリンセス・エリザベスは知っているだろ?」
「はい。ヨーロッパ版ブラック・ウォーター社なんて揶揄されるPMC社ですよね?」
「そうだ。そこの女社長へインタビューしてくれ」
アポは取ってある、と編集長は言った。
「私の社は君のように“本場”を味わった者は居ない。君なら良い記事が書けるだろ?」
まぁ・・・否定はしない。
「それからこれが終わったら少し休め。碌な記事を書いていないが、それでもずっと会社に住み込んで疲れているだろ?」
それも否定できない。
ここ2年間まともな記事は書けない俺だが、それでも何とかしようとやっている。
休みなんて日本のリーマンみたいに返上して、な。
「モンマントルに行け。あそこなら君好みの女も居るだろう」
これは餞別だと言われユーロを幾らか貰った。
「先ずは身嗜みを整えてからな。女性と会うんだ」
「ありがとうございます」
俺は編集長に一礼してから社を出た。
だが、俺はまだ知らなかった。
この仕事が原因で俺は・・・2人の傭兵と奇妙な運命を辿る事を。