第二十章:帰り道の会話
これにて第一部とでも言えば良いでしょうか?は終わります。
ですが、まだ続きますのでもう少しお付き合い下さい!!
俺はブローニングM2をスタローンよろしく的に乱射する軍曹とその部下達の攻撃を木の影に隠れてやり過ごしていた。
「どうした?どうした!貴様らには大和魂があるのだろ?武士道はどうした!敵に背を向けるのは武士の名折れではないのか?なぜ来ない!!」
よくもまぁ、日本の文化を知っているな。
反撃したくてもあれが相手ではまともに太刀打ち出来ない。
くそったれが・・・・・
だが、不意に銃声が止んだ。
チラリと除けば電話をしている最中だった。
よくもまぁこの非常事態とも言える時に電話に出れる物だ、と俺は呆れ果てた。
しかもこちらに聞こえるほどの大声だからもう開いた口が塞がらない。
「何故ですか?!今なら奴等を・・・・いえ、そういう訳では・・・はい・・・了解しました。大佐」
ゴダール大佐から、か。
反撃できるチャンスでもあるが、ここは止めておこう。
「聞こえるか?ショウ・ローランド!!」
「あぁ、聞こえるぜ。軍曹」
そんなに大声を出さなくても聞こえるのになぜか山を一つ越える勢いの声で喋り掛けて来る軍曹。
「我々は貴様とベルトランを殺す積りだった。だが、命令で引かせてもらう!!」
命令で引くだと?
「どういう事だ?」
「大佐の命令だ。本当なら貴様をM2で木っ端微塵にしたい所だが引かせてもらう。だが覚えておけ!!必ず貴様を殺す。それは俺だ!!」
馬鹿でかい声で言われても困るし見れば部下達も耳を抑えている。
あれじゃ難聴になっちまうぞ・・・“ヒトラーの電動ノコギリ”じゃあるまいし・・・・・・・・
「ベルトランにも伝えておけ。以上だ!!」
そう言って軍曹達は背中を向けた。
今なら殺せるが・・・まぁ、止めておくか。
向こうも俺らの性格を熟知してあんな風に言ったんだろうしな。
こちらも消化不慮は治まったから良しとするべきか。
奴等が完全に消えたのを確認してから俺は木の影から出た。
「よぉ、生きてたか?相棒」
右から相棒とスーツ姿の男が現れた。
「誰だ?そいつ」
「弁護士のジャンだ。初めまして。ショウ・ローランド・・・猟犬と言った方が良いかな?」
ジャンと名乗った男は相棒と同い歳くらいだが小奇麗で身嗜みも申し分ない。
十分にパリ・ジャンに見えるし欲張らなければ十分に女を物に出来るだろうな。
「どちらでも。何であんたが?」
「なぁに今回の依頼に頭きたから来ただけだ」
自分を虚仮にした依頼人を叩きのめす、と意気込むジャン。
「それはそれは・・・・それよりゴダール大佐が命令で軍曹達を引かせたぜ」
「というと依頼人からか」
そう考えるのが妥当と言えるな。
「何が望みなんだ?」
「その事なんだが俺の知り合いに民間軍事会社の奴が居るんだ」
「PMCの?」
ジャンが訊くと俺は頷いた。
PMC---俗に言う民間軍事会社は冷戦終結後に軍縮が続く中で誕生した。
今では更に需要は高くなり軍に居るよりこちらの方が給料が高いとさえ言われている。
主に特殊部隊が多い会社もあればチンピラ同然の例えばペスみたいな出来そこないの駄犬だけで構成された会社など様々だ。
アメリカは元海軍特殊部隊SEALsの隊員が設立した「ブラック・ウォーター社」が有名だしヨーロッパに掛けてもイギリスの警備会社「ハート・セキュリティ」の設立者は元SASの隊員だ。
とまぁ、こんな感じでPMCは結構ある。
仕事内容もボディーガードから輸送なんかと手広くやっている。
「そのPMCの友人に今回の依頼人を訊ねたんだ」
「それで?」
「有名人だ」
俺は携帯を取り出し録音していた音声を流した。
『ウォルター・ネモリーズ。元英国空軍においてバトル・オブ・ブリデンに参加。1941年5月に敵機であるメッサーシュミット Bf109に撃墜される。そこから諜報部員として活躍し各国に個人的なコンタクトを持つ』
「ここ等辺は説明された通りだな」
相棒はジタンを吸いながら独白し俺は頷いた。
『1950年に諜報部員の働きと空軍での働きを評価され女王陛下より勲章と騎士の称号を与えられ引退し結婚』
そこで息子を1人儲けた。
『息子は英国陸軍へ入隊し3年後にSASへ入隊する。1980年に除隊後、民間軍事会社であるプリンセス・エリザベス社を設立』
「おいおい・・・プリンセス・エリザベスと言ったらイギリス所かヨーロッパでも大手民間軍事会社だぞ」
ジャンが驚き少し説明した。
プリンセス・エリザベス社はヨーロッパの大手民間軍事会社でブラック・ウォーター社のヨーロッパ版と言える。
孤島を買い取りそこで本格の軍事訓練を受けられる程の資金もある・・・簡単だが、これを言えばどれくらい凄いのか納得できる筈だ。
『しかし、1989年に交通事故で死亡し社長の座は娘であるエレーヌ・ヴィンフリードが継いだ』
「あの爺さんと血縁関係だったか」
「あぁ。どうやら顔などは母親似で名字は祖母の物だ」
相棒の言葉に俺は付け足すように言葉を紡いだ。
『エレーヌ・ヴィンフリードはスイスの寄宿制学校へ入校し主席で卒業。その後は父親の後を継いでやり手女社長として週刊誌にも取り上げられた』
だが、とここで区切られた。
『まだ若輩でしかも女という事もあり専務を含めた数人が反旗を翻そうとしている。その上他社の株を買い漁り強引に潰し人員を吸収するなどやる事がとにかくエゲツナイ事で周囲からも反感を買っている』
ここで録音は終わりだ。
「つまり今回の依頼はそういう輩を炙り出す為に仕組んだ依頼という訳か」
「あぁ。他にも現役の傭兵をスカウトしたいらしい。しかもアジア系を、な」
「・・・俺とお前か」
「どうやらその通りらしい。そしてゴダール大佐とペスは俺らをテストする為の試験者のようだ」
こんな風に俺らを試すとは良い度胸だと思わずにはいられない。
「だから、ジャンを利用して俺らを雇ったという訳か」
「そんな所だろう。まったく甚だ迷惑だぜ」
「俺もだ。まぁ、そんな奴等を今から熱い灸を据えるんだ」
ジャンの言葉に俺たちは頷き合い3人で森の中を抜けた。
森を抜けると・・・リヒテンシュタイン公国に到着---国境を越えている。
リヒテンシュタイン公国へと到着した俺達をエレーヌ・ヴィンフリードとウォルター・ネモリーズが出迎えてくれた。
「よく生きて来れたわね?」
「どの口でそんな事を言っているんだ」
相棒はジタンを海に投げ入れて答えた。
「海に煙草を捨てるなんて環境破壊よ」
「じゃあ、お前さんらが俺達を騙したのは詐欺だな」
「騙したとは人聞きが悪いわね」
エレーヌは自分の目的が達成されたとばかりに笑ってみせたがウォルター爺は無言だった。
「私はあんた達2人を見込んだのよ?栄えあるプリンセス・エリザベス社の社長である私が、ね」
「それはどうも。だが、答えはNOだ」
「同じく」
俺と相棒はNOを突き付けた。
「どうして、と訊いても良いかしら?」
『お前が気に入らないから』
口を揃えて俺たちは答えてやった。
「私が気に入らないという安直な理由で高額な職の誘いを断るの?」
理解できないという顔でエレーヌは言ってきたが俺たちは平然とした。
「金はジャンから貰う。それで十分だ」
「・・・・・・・・」
エレーヌは理解できない顔で無言になっている。
「やれやれ・・・我が孫娘ながらつくづく情けない」
それまで無言だったウォルター爺が初めて口を開いた。
「エレーヌ。私は先に言った筈だぞ?」
プロを懐柔するなど出来ない。
「彼等はプロだ。そして戦士だ。お前は金で懐柔できると思っているだろうが、そんな事なら彼等は当の昔に大金を掴んでいるさ」
それをしないという事は筋金入りだという証拠。
「それに私は会社の筆頭株主だ。わしが株を売ればどうなると思う?」
「お爺様・・・パパが築き上げた会社を捨てる気?」
「息子は会社を造る時に私に言った」
会社としての利益より社員の安全と依頼人の信頼を大事にする。
「それを息子は言って成し遂げてきた。それがお前の代になってからどうだ?利益第一の方針で客の信頼まで損なっている」
おまけに他社の怨みまで買ってしまい、色々と面倒な事になるとウォルター爺は言った。
「私は・・・・・・・」
「言い訳は良い。とにかく彼等の事は諦めろ。そして専務たちともよく話し合い物事を決めろ。彼等にも彼らなりの理由があってお前に反旗を翻したんだ」
「ご立派な説教だな」
相棒は煙草を新たに吸いながらウォルター爺に言った。
「息子が亡くなって引き取りもせずにスイスの寄宿学校へ送った負い目だよ」
「そうかい。だが、俺の・・・俺たちの気は納まらない」
「何を望むんだい?」
「落とし前を着ける」
相棒はエレーヌを見た。
「嬢ちゃん。あんたは俺達を騙したんだ・・・覚悟は出来ているんだろうな?」
「覚悟ですって?誰に向かってその口を聞いているのよ。私は英国人よ。その言葉・・・決闘と受け取るわ」
「ならそれらしくするか」
相棒はマジックのように手袋を取り出してエレーヌに投げた。
「エレーヌ・ヴィンフリード。貴様に決闘を申し込む」
「その決闘、受けて立つわ。ベルトラン・デュ・ゲクラン伯爵」
「何だか変な方向へ行ってないか?」
俺がジャンに話し掛けるとジャンは肩を落とした。
「昔から変な所があるんだよ」
合理主義的な性格だが・・・こんな風に騎士道精神とも言える行動を取ると言う。
いやはや何とも・・・・・・
「武器は?」
「拳銃で勝負だ」
相棒はウィンチェスターM1300とUZIサブマシンガンを俺に放り投げた。
そしてコートをジャケットの左側を掴み、ホルスターに収めたコルトを見せた。
エレーヌもまたMR-73を見せる。
「では・・・これが落ちたら勝負だ」
ウォルター爺が金貨を取り出して上に弾いた。
ピンッ
と宙に舞うコイン。
そして一発の乾いた音がした。
エレーヌが両膝を地面に着き手を抑える。
相棒の右手にはコルトが握られており白い煙を出していた・・・・・・・
コインが地面に落ちるのを待ってから相棒は言った。
「・・・抜けよ」
相棒はルール違反をしたのに平然と言ってみせる。
つくづく・・・悪役が似合う男だ。
「ひ、卑怯よ!!まだコインは落ちていないわ」
エレーヌは利き手を抑えながら相棒に噛み付いた。
それから直ぐにコインは落ちた。
「決闘をするとは言った。獲物も決めた。だがコインが落ちてからというのは決めていない」
ウォルター爺が勝手に決めた事だ、と相棒は言ってみせる。
「まぁ確かにな」
孫娘が撃たれたというのにウォルター爺は冷たい眼で孫娘を見ていた。
「それじゃ俺たちは帰る」
何?
これで終わりなのか?
まだまだ夜はこれからだって言うのに・・・・・・・・・
だが、相棒はさっさと立ち去るしジャンも付いて行く。
俺も・・・仕方無く付いて行く。
仕事を終え落とし前も着けた俺と相棒は徒歩でリヒテンシュタイン公国を出た。
ジャンは車を取りに行くと言って今は居ない。
夜のためか昼以上に肌寒く・・・温もりを求めたい気分だ。
あんな舐めた真似をされたのだからもう少しやっても良いと思ったが・・・・・・・
「このフェミニストが」
「誰がだ」
相棒はジタンを吸いながら俺の独白に訊き返してきた。
「お前だよ。あれならもっと傷めつけても良かっただろ?」
利き腕を1発撃っただけで終わりなんて生温いにも程がある。
「あれで十分さ。肉体より精神的に傷めつけたからな」
確かにあの小娘は傲慢とも言える程の自信家だ。
不意打ちとは言え利き手を撃たれた。
それを考えると肉体より精神的に傷めつけたと言えるな・・・・・・・
前言撤回。
「お前は蛇だな」
ジワジワと獲物を絞め付けて最後に丸呑みする“ミッドガルドの大蛇”だ。
「生憎と犬と鷹だ」
「だったら尾は蛇だな。まったく・・・で土産物はどうする?」
ソニア嬢達に土産を買って来ると約束した筈だ。
「おっと忘れていた」
「お前が女の約束を忘れるとは意外だな」
「女神だから大目に見てくれるのさ」
なるほどね・・・・・・・・
「女神に対してだけ膝を着くか」
「かもな。まぁ・・・何れ別れるだろう」
その言葉には諦めの色が含まれていた。
ふと時計を見れば・・・・・・・・・
再会編 完