第十八章:第1落下傘連隊
朝早く---夜明け前に俺達はカリオストロ伯爵家を出た。
見送り人はモーガンだけ・・・の筈だったが何時の間にか全員が出ていたから驚きだ。
「色々と世話になりました」
俺はモーガンに礼を述べた。
「いえいえ。私の方こそアンナ様へ声を掛けて下さり嬉しく思います」
「相棒は奥方とお話中ですか?」
相棒はここには居ない。
先に行けと言われて車に乗っているのだが。
「・・・待たせたな」
相棒が庭の方角から出てきた。
薔薇の香りが微かにした・・・奥さんに挨拶してきたか。
薔薇の他にも・・・百合の香りもした。。
百合なんてここには無かった筈・・・・・・
「奥さんは百合の香水でも着けていたのか?」
「あぁ。していた」
なるほど・・・出迎えしに来た訳か。
「良い奥さんだな」
「俺が妻にした女だ。当たり前だろ?」
「そうだな」
俺は苦笑して頷いた。
そしてモーガンに「後の事は頼む」と言い相棒はゴルフにエンジンを掛けて出発した。
「さぁて、ここからが正面場だな」
俺はスターム・ルガー ミニ14のレシーバーを引きながら相棒に話し掛けた。
「あぁ。まぁ、問題ないだろう」
そして裏切り者もといこの下らない茶番劇を主催した者をぶちのめして終わりだ。
スイス国境越しにリヒテンシュタインへ向かう途中で相棒の携帯に電話が鳴った。
「モーガンか?」
相棒は誰なのか見当が付いていた口調で訊ねた。
『はい。ご命令通り“御客様を丁重に持て成し”ました』
俺らが出て行ってから殆ど時間が経過していないのに・・・犬みたいに鼻が効くようだな。
もっとも俺らが出て行ってからだから落第点物だが。
「で客は?」
『涙を流して帰って行きました。私達としましてはもう少し御持て成ししたかったのですが、ね』
「そう言うな。後は俺達がやる」
『畏まりました。では、ご主人様。またお越し下さい』
「あぁ。必ず行く」
そう言って通話を終えたが、また鳴った。
「誰だ?なんて訊くのは野暮というものか?」
『その通りだよ。ムッシュ・ベルトラン』
・・・ゴダール大佐か。
「何の用だ?」
相棒は膝でハンドルを巧みに操りながらジタンを銜えて火を点けた。
『なぁに私に代わって小うるさい“蠅”を叩き潰してくれた事に礼を言いたくてね』
ついに犬から蠅に格落ちか。
これ以上、格落ちしようものなら本当にNO.1の傭兵だ、と俺は思う。
「別に。俺としては好い加減、付き合うのに嫌気が差しただけだ」
紫煙を吐きながら相棒はゴダール大佐の言葉に同意した。
『私もだ。ここからは・・・・我が“第1落下傘連隊”の精鋭が御相手しよう』
邪魔者は誰も居ない。
警察の動きを止めた、という事だ。
向こうもやりたい放題だが俺たちの方もやりたい放題という訳だよな?
「それはどうも。お互い手加減は無用だな」
『勿論だ。では・・・・・・・・』
「あぁ」
相棒は携帯を切った。
「相棒。早速お客様だぞ」
相棒に言われるまでもなく俺はゴルフの窓から身体を出してミニ14に狙いを定めていた。
「中々のカモフラージュだが甘いぜ」
俺は引き金を引き絞りスナイパーを始末した。
もう敵は待ち構えているか。
面白いぜ。
流石は第1落下傘連隊。
相手にとって不足無しだ。
「相棒。後ろからも敵だ」
俺は運転する相棒に後方の敵を任せる事にした。
「了解」
相棒は新しいジタンに火を点けながら頷き、ギアをバックにしてからゴルフを急回転させて後ろにした。
そして走りながら突っ込んで来る車に向かってウィンチェスターM1300から発射された12ゲージを撃ち込んだ。
もちろん防弾だが、それを立て続けに3発も撃ち込まれたら視界が封じられるのは言うまでもない。
ポンプアクション式なのによく3発も撃てるものだ、と俺は感心しながら前から来た敵を撃った。
3発も12ゲージを喰らった車は横転した。
それを確認してから直ぐにギア・チェンジをして前に戻す。
その間に俺は横から来た車に向かって5.56mm弾と357マグナム弾を同時に撃ち込んで撃退した。
車は宙返りを何と2回もして動かなくなった。
「これだけやっても警察が来ないなんて映画みたいだぜ」
らしくない台詞を俺は言った。
実際、宙返りを2回もするなんて映画も良い所だ。
「だな。楽しいか?相棒」
「もち。相手が第1落下傘連隊だ。楽しくて笑いが止まらない」
「俺もだ」
俺と相棒は笑いながら蠅のように襲い掛かって来る敵を撃退し続ける。
その間ウォルターは葉巻を蒸かし続けて一言も発しなかった。
エレーヌに到ってはただ、拳を握り締めたり開いたりを繰り返すだけ。
少しは働け、と言いたい所だが今は楽しいから放っておこう。
スイス国境を越えたのは昼過ぎになってから。
残弾を気にしながら敵を撃退していくが、減らないから些か面倒だ。
「一体どれだけ居るんだか」
「さぁな。だが、もう直ぐリヒテンシュタインだ。そこまで行けばゲーム・クリアだ」
確かにその通りだ。
リヒテンシュタイン公国までもう少しという所で村があった。
道はそこしか無い。
罠だ、と警報が鳴っているが正面突破あるのみ。
「掴まってろ」
相棒はギアを素早くチェンジさせアクセルをフルに踏み込んで村の中へ入った。
それを数台の車が追い掛けて来る。
だが、村に入った途端に閉じられていた窓やドアが開き、一気に銃弾の嵐が襲い掛かって来る。
大きな銃声と共にフロントガラスに大きな穴が開いた。
「・・・ブローニングM2!!」
俺は左から見えた銃火器に声を荒げた。
窓からブローニングM2を構える・・・軍曹が居た。
あいつが来ているのか・・・・・・・
俺が声を発したと同時にまた撃たれた。
相棒は素早く避けたが、完璧とは言えず破片がタイヤに当たった。
更にそこへ銃弾が何発も当たって・・・やられた。
ゴムが引き千切れる音がすると同時にサイド・ミラーから火花が散っているのが確認できた。
出口までもう少しという所で何てこった。
「あの森に行くぞ!!」
相棒は近くに見えた森にゴルフを突っ込ませた。
何とか森の入口まで到着した俺達は直ぐ様ゴルフから降りて走った。
直ぐにゴルフが炎上し爆発した。
後もう少し遅ければ全員お陀仏だった。
肝を冷やすが、流石は精鋭連隊だと感心する。
「ここを抜けて進めばリヒテンシュタインだ。ラスボスはまだだから・・・中ボスだな」
相棒は今の状況をゲームにして例えた。
「よくこんな時に言えるわね」
エレーヌがマニューリンMR73を撃ちながら相棒を詰った。
「“こんな時”だからこそ言えるんだよ。お嬢ちゃん」
「その通り」
俺は同意しながらミニ14のマガジンを交換した。
ウォルターはただ葉巻を蒸かしながら何もしない。
銃弾が頬を掠めようとも物ともしない。
流石は飛行機乗り。
この程度はピンチの内にも入らないってか?
「相棒。この森で勝負とするか」
「そうだな。森は・・・俺たちの“狩り場”だ」
向こうも精鋭だろうが、俺らだって負けてはいない。
それに・・・市街戦よりこちらの方が俺らにとっては良い。
「お嬢ちゃん。お前はウォルターを連れて先に行け」
「あんた達2人は足止め役?」
「違うな。狩人さ」
「たった2人で大人数を相手に勝てると思っているの?」
「勝てるから言っているんだよ。速く行け」
「せいぜい勇ましく戦って足止めして死になさい。そうすれば墓前に花くらいは捧げて上げるわ」
何処までも毒を吐きながらエレーヌはウォルターを連れて森の奥へと消えて行った。
「さぁて・・・行くか」
「あぁ・・・狩りの始まりだ」
俺と相棒は頷き合い二手に別れた。
「二手に別れたぞ。追え!!」
村の方から軍曹の声が聞こえた。
軍曹が指揮官か。
その喉笛を・・・食い千切ってやるよ。