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第十六章:大佐からの挑戦

相棒が来るまで俺達は食前酒を飲みながら待っていた。


酒はシャンパン。


だが、ウォルターはジン&ビターズを飲んでいる。


19世紀のイギリス海軍将校が好んで飲んでいたカクテルだが・・・いやはやアンティークだね。


エレーヌはただの水。


俺が2杯目を飲み干した頃に相棒は来た。


俺は何も言わずにシャンパンを飲み続けるが、ウォルターは相棒にこう訊ねた。


「奥方とは話せたかい?」


「・・・最高の夫だと言われた」


最高の夫、か・・・・・・


男冥利に尽きるな。


「旦那様。ご夕食を運んでも宜しいですか?」


モーガンが影のように現れると相棒に話し掛けた。


「あぁ。車は用意できたか?」


「はい。後でお見せします」


頼むと相棒は言いモーガンが引いた椅子に腰を降ろした。


モーガンは俺達に一礼して去って行った。


「で、相棒。これからどうする?」


まだ時間はあるがまたあんな眼に遭うと考えられる。


一体誰が裏切り者なのか・・・・・・・・


だが、今はこれからの事を話そう。


「このままスイス国境越しにリヒテンシュタインに行く」


スイス国境越しなら道は複雑だが、逃げ切れると相棒は言った。


「そうか」


「それからショウ」


相棒が俺の名を呼んだ。


だが、続きを話さない。


・・・なるほど。


了解したぜ。


俺は相棒の眼を見て納得した。


俺の伝手を使え、か。


モーガンが綺麗に絵が描かれた食器に料理を載せて運んできた。


「鹿の肉を使った料理です」


料理を並べながらモーガンは言った。


本来なら前菜を出すのが先だが、相棒の事を考えての事だろう。


「執事長。お客様が来ております」


使用人と思われる男がモーガンに話し掛けて来た。


「客?誰だ」


「それが伯爵に会いたいとしか・・・・・・・・」


伯爵・・・相棒にか。


「モーガン。客を中に入れろ」


「宜しいのですか?」


「あぁ。どうせ俺らを追っている“狩人”達だ」


断ると力づくで来る、と相棒は断言した。


狩人・・・ね。


俺はその言葉に眼を細めながらシャンパンをまた飲んだ。


モーガンは一礼して去って行ったが、直ぐに戻って来た。


男を二人連れて。


一人はウォルターよりも歳下だが修羅場を潜り抜けて来た、という事は判る。


もう一人の男は如何にも「私、体育系です」と前面に押し出したタイプだ。


懐の大きさから見て・・・・SMGか。


随分と物騒な物を持っているな。


エレーヌは水を飲みながらも右手は懐に伸びている。


初老の男は相棒に近付くと灰色のソフト帽を左手で取り一礼した。


「初めまして。ベルトラン・デゥ・ゲクラン伯爵。私はゴダール。モーリス・ゴダール。元フランス外人部隊第1落下傘連隊所属の大佐だ」


こちらは部下の軍曹だとゴダール“元”大佐は紹介した。


「“OAS”の指導者が何の用だ?」


相棒は注がれた赤ワインをテイスティングしながら訊ねた。


OAS・・・か。


OAS---フランスの極右民族主義者の秘密軍事組織。


シャルル・ド・ゴールがアルジェリアの独立を認めた事が発足の原因。


ド・ゴールは元々厚顔無恥とも言える我が道を行くタイプだったから敵は多く、アルジェリアの独立を認めた事から更に多くなった。


一部の政治家と軍人が独立に反対し暗殺からテロなどを起こした。


だが、結局はアルジェリアは独立した。


無駄骨だったと言える。


この元大佐が所属していた第1落下傘連隊も反乱に加わった過度で解体された・・・・・・・・


そこに所属していたとこの元大佐は言ったが誇らし気だったのが不思議だ。


「私を知っているとは光栄だ」


俺が思考している間にゴダールは皺が多い笑みを浮かべていた。


「質問の答えになっていないぞ」


「貴様。たかが日本人の分際で大佐に・・・・・・・」


「軍曹。貴様は階級を人種で差別するのか?」


ゴダールが今にもSMG---MAT 49を抜こうとした軍曹を一声で止めた。


「し、しかし、大佐」


「軍曹。私は階級を人種で差別するのか?と訊いているのだよ」


ゴダールの声は元ではなく現役の大佐の声だった。


「ベルトラン伯爵もそちらのショウ・ローランドも少佐だ。貴様より階級が上の佐官だ。少佐に対して失礼だ。謝りたまえ」


「・・・失礼しました」


軍曹は懐から手を出して深く頭を下げた。


「別に良い。それで質問の答えは?」


「失礼した。答えは簡単。君に・・・君とショウ・ローランドに挑戦したいと言いに来たんだ」


「ほぉう。まぁ、立ち話も何だ。座りな」


「ありがとう」


ゴダールは礼を述べてからモーガンが引いた椅子に腰を降ろした。


ただし、軍曹は直立不動で立っているが。


「お酒は如何ですか?」


「うん。貰おう」


モーガンは怖がりもせずゴダールのグラスにワインを注いだ。


「素晴らしいワインだね。香りも最高だ」


流石は数百年の歴史を誇るカリオストロ伯爵家のワインだ、とゴダールは褒め称えた。


「お褒めに預かり光栄です」


モーガンはそれに礼を述べると相棒の傍に立った。


「それで挑戦と言ったがどういう事だ?」


「君はそちらの2人をリヒテンシュタイン公国まで護衛するのが役目だろ?」


「護衛とは違う。護衛はそこの小娘一人。俺と相棒は運び屋だ」


「そうか。まぁ、それでだ。私はOASが無くなったからビジネスを始めたんだ」


何でも屋を。


「つまりあんたはある人物からこの2人をリヒテンシュタインに入れるな、と依頼された訳か」


「その通り。だが、それを何処から嗅ぎ付けたのか煩い“野良犬”が居てね」


「ペスの事か」


「ペス?ペスと言うのかい?あの男は」


「あぁ。シャルル・ペス。フランスNO.1の傭兵だ」


「NO.1・・・か。それが本当ならフランスの傭兵界も先が見えるね」


明らかに馬鹿にした口調でゴダールは語った。


「腕も悪ければ手癖も悪い。その上に交渉も最悪ときた。別の意味ではNO.1だね」


まったくその通りだ、と俺は思った。


「それでそいつがお前さんの依頼を嗅ぎ付けて自分もやらせろと言ってきたか」


「あぁ。汚らしくも土足で私の憩いの場に現れてこう言ってきた」


自分も一枚噛ませろ。


断るなら世間にあんた等のやって来た事を全て公表する。


「直ぐに軍曹の手で処刑させても良かったが、少し遊びをしようと思ってやらせたよ」


結果は見るまでもないが。


「で、あいつをどうした?」


「どうもしない。恐らくまた君等を狙うだろう。だが、今度は私の方も君達を狙う」


あんな駄犬ではなく本当の“猟犬”を放ち“狩人”を使う・・・・・・・・・・・


「それはわざわざありがとう。ちょうど退屈していた所だ。その心遣いは嬉しいぜ」


なぁ?相棒。


「あぁ。どうも歯ごたえが無くて消化不慮だったんだ。あんた等なら・・・腹が満杯になる」


「はははははは。流石は不死身の王と猟犬という渾名を持つ傭兵だね。実に素晴らしい返答だ」


ゴダールは声を上げて笑ったが、軍曹は何処までも仏頂面だった。


「では、君等の返答に対してもう一つ教えよう。我々はスイス国境から君等が行くと分かっている」


「依頼人から教えられたのか?」


「あぁ。どうも依頼人は私を過小評価しているようだ。腹立たしいが・・・相手が女性となれば大目に見るさ」


女性、ね・・・・・・・


「紳士だね。あんた」


「君は紳士ではないのかな?」


「生憎と敵となれば容赦しない性質だ」


「それは素晴らしい事だ。敵に情けは無用。隙あらば殺せ。それが我々の掟であり生きる方法なのだから」


「そりゃどうも」


「それはそうと君の奥方であるアンナ殿は若くしてこの世を去ったそうだね・・・心から悔み申し上げるよ」


ゴダールはワイングラスを高々と掲げた。


「アンナ・デュ・ゲクラン伯爵夫人。貴方の夫とその相棒は私にとって今まで会ってきた男の中でも最高に値する。願わくば天よりこの2人を見守って下さい」


そう言ってワインを飲み干したゴダールは立ち上がった。


「では、ベルトラン伯爵。ショウ・ローランド。次は・・・“戦場”で」


『あぁ。ゴダール大佐』


俺と相棒はグラスを掲げて大佐に返答した。


そして大佐と軍曹は去って行った。


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