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第十二章:裏切り者

刺客・・・と言えるのか分からない相手を撃退した俺達はそのままリヒテンシュタイン公国へと向かった。


その日は何も起こらずに後二日の距離まで進む事が出来た。


ただし、俺と相棒は考えていた。


裏切り者が居る。


手際が良すぎるんだよ・・・・・・


俺らが行くルートを予想したように刺客が来た。


偶然にしては出来すぎている。


裏切り者が居なければこうも上手くはいかない。


では裏切り者は誰か?


相棒の戦友にして弁護士か?


それとも昨夜、泊めてくれた家族か?


弁護士なら向かう場所は分かっている。


だがルートはどうだ?


相棒はルートを教えていない筈だ。


こういう職業に携わっていると誰もが「疑わしい人物」と見えてしまう。


だから、心を許せる相手にしか・・・いや、そいつにさえ本当の事を言えない時がある。


こいつの場合もそうだろう。


恐らく弁護士にルートは教えていない。


考える事は出来ても正確には分からない筈だ。


となると弁護士は外す方が良い。


あの家族にしても行く場所を教えていないし手掛かりになる物も見せていない。


予想は出来ても確実とは言えない。


なら発信器か?


いや、それも無い。


車を渡された日に予め隅々まで調べたが、それらしき物は発見できなかった。


ウォルター達の方は分からないが仮にも元諜報部員だ。


相手に知られるような初心者のようなヘマはしない筈だ。


だったら・・・・一体、どうやって俺らが行くルートを知っているんだ?


俺は考えたが明確な答えを見つける事は出来なかった。


「相棒。火」


俺は考えるのを止めてジタンを銜えると相棒に火をくれと強請った。


「火ならあいつ等に貰え」


相棒は顎で上を指した。


上?


俺はハッとした。


ヘリの音だ。


まだ離れているが近づいて来ている。


まさか・・・・・・


俺は窓から顔を出して上を見た。


1機のヘリが近づいて来る。


民間用のベル407だ。


ベル社と言えば相棒が居た陸上自衛隊でも採用した“ベル・ヒューイコブラ”を作り上げた会社として有名だな。


ベル407の色は黒で紋章が描かれていた。


・・・何処かの“人材派遣会社”か?


見た事も無い・・・というか、ヨーロッパは余り知らないから何処の会社かは分からない。


ヘリのドアが開き、相手が身体を出してきた。


手には・・・ドラグノフSVDが握られていた。


俺の愛銃・・・・・・


あんな野郎に持たれて可哀そうに・・・・・・・


俺はドラグノフを手にしたいと思ったが、それ所ではない。


「どうするんだよ?上からじゃ何も出来ないぞ」


ヘリが来るなんて想定外だ。


言い訳だが。


「まぁ、逃げるだけ逃げる」


相棒は平坦な声で答えるとアクセルを踏み込みギアをチェンジした。


「ちょっと後ろからも来たわよ」


セリーヌが後ろを指差した。


後ろからも5台の車が猛スピードで突っ込んできた。


数で押して来るか?


馬鹿の一つ覚えが。


だが、空からの攻撃はどうしようもない。


「相棒。この車を捨てて別な車に乗り換えるか?」


ここに車は無いし民家なども無いが、森林はある。


そこへ逃げ込み徒歩で逃げる。


「それもありだが、行ける所まで行こうぜ?」


まだパーティーは始まったばかりだ、と相棒は笑った。


「そうだな。しかし、どうしてこうも俺らの行くルートを知っているんだろうな?」


裏切り者が居るのかもな、と俺は言った。


「確かにそれは言えているな」


ウォルターは葉巻を蒸かしながら冷静な口調で頷いた。


何となく察しは付いている口調だった。


「だが、今は裏切り者を探すより逃げるのが先決ではないのかな?」


そう言うウォルターの頬を銃弾が掠めた。


かなり正確な狙いだ。


前の奴より出来る奴だな。


「ん?おい、相棒。“犬”が居るぞ」


俺は先頭の車に乗っている男の名を言った。


自称フランスNO.1の傭兵・・・シャルル・ペスだ。


「何だよ。ご主人様が構ってくれないから自分から来たのか?」


「だろうな。まったくあれだけ躾けたのに・・・駄犬は駄犬だな」


「だな。相棒。頼む」


「了解」


俺はルガー・ミニ14のレシーバーを引き窓から身体を出そうとした。


そこへドラグノフの銃弾が襲い掛かる。


危うく撃たれそうだったので肝を冷やす。


「ちっ。ヘリをどうにかしないと不味いな」


ヘリさえなければ1発で終わりに出来るのに・・・・・・・


俺らが手も足も出ない事を良い事に車の奴等は一方的に撃って来やがった。


下手な鉄砲数撃ち当たる、というが・・・正しくそれだ。


何人かは正確にフロントガラスなどを狙っているが、後の奴等は滅茶苦茶だ。


その中にはシャルル・ペスも居る。


あいつが使っているのはコルトM16のスポッター・モデル。


セミオート限定だが、フルオートに違法改造されている。


M16は命中精度が良いんだが・・・どうやったら、ここまで外れるんだ?と問いたくなるほど下手くそな腕前だ。


「あれでよくフランスNO.1を語れるな」


「自信だけはNO.1だからな」


「憐れな奴だ。今度、産まれる時は腕もNO.1になりな」


俺は内心でこいつはもう産まれない、と確信していたが言葉では憐れんだ。


車の攻撃は絶えないが、ヘリからの攻撃は1発だけで今の所は無い。


どういう事だ?


ヘリから狙えば、仕留められる可能性は高い。


タイヤを狙えば・・・先回りして運転席を狙えば・・・俺らを仕留められる筈だ。


それなのにそれをしない。


奴等は俺らを獲物と称して楽しんでいるのか?


だとしたら・・・自惚れも体外にしろと言ってやりたい。


俺らは獲物じゃない。


いや、獲物だとしても俺らは手強い獲物だぜ?


知っているか?


狩猟を始めた者達は、最初初めて見る獲物に興奮して引き金を引けないんだ。


その間に襲われる。


お前等・・・興奮しているのか?


しているなら、直ぐに死ぬぜ。


俺はジタンを銜えながら内心で言ってやった。


しかし・・・・・・・・・・嫌だな。


愛銃は無い。煙草も無い。最悪だ。


最悪過ぎて泣きたいぜ。


「お前のせいで恋人に振られたじゃねぇか」


俺は腹いせに相棒に嫌みを言ってやった。


「俺のせいにするな。それより・・・不味いぞ」


「不味い?」


「考えろよ。いや、お前の場合は鼻を研ぎ澄ませろ、と言った方が良いか」


「・・・・・・・」


俺は相棒が言った言葉を考えてみた。


不味い・・・どういう事だ?


奴等は俺らを獲物と称して遊んでいる。


・・・いや、違う。


あいつ等は犬だ。


狩猟において犬は一番大事だ。


『1に犬、2に足、3に鉄砲』


こんな言葉もある通り犬は大事だ。


何故か?


獲物を狩人の前に誘き出すもとい追い詰めるのが犬の役割だからだ。


あいつ等は駄犬とは言え猟犬。


つまりあいつ等は遊んでいるのではなく・・・俺らを追い詰めている、という事か。


考えてみれば、一台も車が走っていない時点でそう感じるべきだった。


くそったれ。


鼻が効かなくなったら終わりだ。


「・・・言わんこっちゃない」


相棒は目の前に向かって呟いた。


俺もそれに釣られて見ると・・・・居た。


狩人が。


狩人は全員で10人。


しかも、2人は・・・・・・・・


「“ジャベリン”かよ」


ジャベリン---ロッキード・マーチン ジャベリン。


アメリカのロッキード・マーチン社とレイセオン社が共同開発した携行式の対物火器で装甲車と低空飛行するヘリなどを撃墜できる。


それを2人も持っている。


残りはアサルトライフルとショットガンだ。


しかも、アクセサリーがやたらと豊富で金がふんだんに掛っている。


それほどまでにウォルター爺を殺したいのか。


その標的であるウォルターは葉巻を蒸かし続けている。


歴戦の勇士としてのプライドか?


だとすれば流石はWW2を潜り抜けてきたと褒めたいぜ。


「どうする?」


「・・・直ぐ横に道があるだろ」


相棒が左目で指した場所を見ると、僅かに道があるのが見えた。


「そこを通り逃げる」


その前にこいつをお見舞いする、と相棒は言い懐からポテトマッシャーを取り出した。


「持って来たのかよ」


「あぁ」


簡潔に言うと俺に渡してきた。


「しくじるなよ」


「誰に言ってんだよ」


俺は鼻で嗤いながら紐を指に巻き付けた。


「ヘリはどうする?」


「後ろのお嬢ちゃんに頼む」


「私にヘリを攻撃しろと?」


「あぁ。やれ」


「拳銃でヘリを倒せる訳ないでしょ?」


アニメの見過ぎと女は言ったが、相棒はこう返した。


「誰も倒せと言ってない。速くしろ」


「人に頼む態度じゃないわよ。ブルドックが」


女は相変わらず毒舌を吐きながらも後部座席の窓からMR-73を出すと闇雲に撃った。


しかし、後ろの駄犬共よりはマシなようだ。


ヘリが少し遠ざかるのを耳で確認した俺は窓から上半身を出して投げた。


それと同時に紐が切れてポテトマッシャーだけが飛んで行く。


同時にジャベリンが発射された。


相棒は素早くハンドルを切り、狭い道に入った。


後ろから爆発音がして車の急ブレーキの音も聞こえた。


「何とか成功だな」


「どうやらそうでもないよ」


ウォルター爺が窓を見ながら言った。


「先ほど後ろの者が撃っていたが・・・その流れ弾が当たった」


M16から撃たれた弾。


それでガソリンが漏れ出したらしい。


「ほぉう。あの駄犬か。運とは言えよく当てたな」


相棒はまったく気にしない様子で言った。


「ちょっとどうするのよ?」


逆にエレーヌは切羽詰まった声で訊ねてきた。


「何処かで車を調達するだけだ。別に問題は無い」


「手に入らなかったら?」


「その時は、何とかする」


「明確な答えになってないわ」


「俺に質問するより自分で考えろ」


相棒はそれだけ言うと狭くて凸凹した道を黙って走らせ続けた。


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