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第九章:休憩と刺客

どれくらい寝ていたのか分からないが俺は肩を揺さぶられて眼を覚ました。


「給油だ」


相棒はジタンを灰皿に捨てながら俺に話し掛けてきた。


「何処だ?」


「パリを抜けてトゥールだ」


トゥール、か。


第二次世界大戦でパリが陥落すると政府はそこに移動させたが、直ぐにボルドーへ退避した歴史がある。


まぁ、俺らみたいな商売人じゃない限り観光地として訪れるし、観光地しか思わないだろうな。


「ここで飯も買う。お前さんは買い出しを頼む」


「分かった。ウォルターさん、何かリクエストはあるかい?」


「いや特に無い。君に任せるよ」


これに俺は些か驚いた。


筆頭株主なんて偉そうな・・・まぁ、実際偉いんだがそういう奴らなら「キャビアを持って来い」とか言うと思っていた。


「私だって今の状況を理解しているよ。キャビアなんて頼まないさ」


俺の心を読んだようにウォルターは笑ってみせた。


伊達に長生きしていないか。


恐ろしい事だ。


などと俺は思いながら車から降りて近くの店に向かった。


行く奴等は誰も俺を見ない。


観光地帯だから「こいつも観光客だろうな」という感じなんだろうな。


逆に田舎だと余計に目立つ。


それも考えてここで給油をしたのかもしれないな。


となれば・・・日持ちがする物も買うべきか?


一応、狩猟を行く最中に二人を拾った、というのが警察に質問された時の言い訳だ。


テントと寝袋などは用意していたが、缶詰なんかも用意しておいた方が余計に納得できるはずだ。


それを思うと缶詰などを買うべきだな、と俺は思い直した。


だが、今は取り敢えず直ぐに食べられる物が良いだろうな。


俺はパン屋とスーパーが一体化した店に入った。


給油場からそれほど離れていないし、上手い具合に缶詰とパンは窓ガラス越しに見える位置にある。


何かあれば直ぐに駆け付けられるから有り難いぜ。


店の中に入った俺は先ず缶詰を買う事にした。


適当に籠に入れて会計を済ませた後は直ぐにパン屋の方へと行きパンとコーヒーを買った。


パンはクロワッサンだ。


イチゴジャムとバターもサービスで付けてもらい悠々と店を出て車の所へ戻った。


既に相棒は給油を終えていたのか車の中に居た。


しかし、ふと見ればボディ・ガードのエレーヌが居なかった。


何処に行ったんだ?


ボディ・ガードの役目を忘れて居なくなるとは・・・・・・・


俺は眉を顰めながら車に戻った。


「ボディ・ガードはどうしたんだ?」


「怪しい奴が居ると言って出掛けた」


相棒は気にしていない様子で答えた。


「俺は見なかったが・・・お前はどうだ?」


「見なかった」


可笑しな話だ。


俺らはボディ・ガード専門ではない。


しかし、怪しい奴が居るなら気が付く筈だ。


それなのに気付かないとは・・・・・・解せない。


「失礼とは思うが君等は戦いのプロではある。しかし、要人警護は君等は専門外だから気付かなかったのではないのかな?」


ウォルターが上質な葉巻を取り出して、シガー・カッターで切りながら話し掛けてきた。


「まぁ、それもあるだろうな」


俺は相槌を打ちながらクロワッサンとコーヒーを渡した。


確かにその通りだ。


俺たちは戦いのプロだと自負しているが、要人警護専門ではない。


だから、分からない部分もあるし気付かない点もあるだろう。


「ジャムとバターがあるがいるか?」


「大丈夫だよ。それにそのままの味で味わいたいんだ」


「そうかい」


俺は頷き相棒にも渡した。


相棒も何も付けずにクロワッサンを口にした。


「で、相棒。どの程度でリヒテンシュタインに着く予定だ?」


「1日分の余裕を持って着く筈だ。何も無ければ、な」


「何も無ければ、か」


「あぁ。このルートを行けばそうなるが・・・難しいと思う」


先ほど携帯電話で弁護士から連絡が来たらしい。


何でもウォルターを狙って何人か動いたという情報だ。


「となると、怪しい奴等ってのは」


「お前と同じ考えだ」


相棒はコーヒーを飲みながら言った。


それから数分してエレーヌが戻って来た。


何人かの女がエレーヌに熱い視線を送っているのが見えた。


あの格好だから男に見えたのか?


まぁ、見た目が中々に出来ているから不自由しないだろうな。


などと俺は思いながらコーヒーを飲んだ。


エレーヌはドアを開けて中に入ると懐から煙草を取り出した。


こちらはゴロワーズだ。


箱の色は赤で中央に白い兜に羽が生えた絵柄が描かれている。


このゴロワーズはジタンと並びフランスではポピュラーな煙草だ。


白い兜に羽が生えた絵柄は古代ガリア人が被っていた兜でフランスの伝統的な兜となっている。


1本を銜えるとカルティエの銀ライターで火を点けた。


何から何まで一々金が掛っているな、と思う。


衣服だって高級品だし腕時計もロレックスだ。


ロレックスなんて金持ちの代名詞と日本じゃ言われるが海外では金が無い場合に備えて選ぶ奴等が多い。


直ぐに質屋に入れて換金できるからだ。


それを考えると実用品を選んでいるのかもしれないな。


俺はエレーヌにクロワッサンとコーヒーを渡した。


「随分と安っぽい食事ね」


「お前さんの依頼人は愚痴一つ零さなかったぞ」


相棒はジタンを灰皿に捨てながら呟いた。


「だから何?怪しい人物に気付きもしない人に言われたくないわ」


「その怪しい人物はどうした?」


相棒はエレーヌの棘が入った言葉を無視して訊いた。


「大人しくさせたわ」


これで、とエレーヌはスーツの左腋をずらした。


そこには革製のホルスターに収まったリボルバーがあった。


グリップの部分は木製・・・いや、良く見れば高級グリップであるウォルナット---胡桃を使用していた。


胡桃は高級木材と知られているが、銃のグリップにも使用されるとは殆ど知らないだろう。


だが、胡桃ほどグリップに適しているのは無いと俺は思う反面で金が掛るとも思う。


胡桃のグリップは握り易いし反動も吸収され易い利点がある。


特にマグナム弾を使用する銃は反動が強い。


それを考えれば、胡桃のグリップを使用している事にも納得できる。


「リボルバーか」


「えぇ。オートマチックは信用性に劣るし、5人以上を相手にしないわ」


現在のオートマチックでジャムは起こらない、と言っても良いだろう。


だが、起こる時は起こる。


しかも、起きて欲しくない大事な場面で起こる事があるから厄介だ。


オートマチックでジャムったら一度スライドを引いて弾を排出しなければならない。


その点リボルバーはまた引き金を引けば直ぐに次弾を撃てるから有利だ。


敢えて欠点を上げるなら弾数が少ない事だが、エレーヌの言う通り一度に5人以上を相手にするなんてそれほど無い。


それを考えると、それなりに出来るなと判断できる。


「そいつは“思い出の品”か?」


「えぇ。GIGN時代に使っていた物よ」


となればマニューリンMR-73だな。


「インチは?」


「3インチ。38スペシャル弾と357マグナムの両方を持っているわ」


3インチか。


2.5インチ・・・俗に言うスナッブ・ノーズ---獅子っ鼻だが、短すぎて狙いが定め辛いし装填も難しい。


4インチでは逆に抜き難い。


その間の3インチなら短すぎず長すぎない。


理想的な長さと言えるし、弾も357マグナム弾を持っているという所を考えると防弾ベスト用に備えているな。


「今度は私が質問するわ。貴方の獲物は?」


「45だ」


相棒は弾で答えた。


「あのずんぐりむっくりな弾を使う上に掴み辛いし反動も大きいコルト?」


「あぁ」


「物好きな男ね。ここでそれを使うなんて稀よ」


「だが、サプレッサーを取り付ければ9mmより音が小さく出来るしジャンキー相手でも問題ない」


「それでも弾数が少ないし反動が大きいわよ?」


「拳銃なんて滅多に使わない」


確かにそうだ。


俺たちはライフルが主流で拳銃は殆ど使わない。


だから、拳銃はライフルに比べれば高いし持つ者は少ない。


まぁ、いざという事を考えると持っていた方が良い。


「所でブルドックさん。弁護士さんから連絡は?」


「あった。怪しい奴が来ているだと」


「そう・・・・・・・」


エレーヌはそれだけ言うと黙った。


相棒も口を閉じて車を発進させトゥールを後にした。


トゥールを出た後は山を削り取られて出来たアスファルトの道路を走り続けるが、可笑しい事に一台も走っていない。


今日は平日だ。


とは言え、一台も走らないなんて事は余り無い。


何かあるな、と俺は直感で思った。


俺は懐から恋人の代用品であるMR-73 4インチを取り出した。


拳銃の射程距離なんて高が知れているが、無いよりはマシだ。


暫くは普通に走っていたが、後ろから猛スピードで車が来るのをサイド・ミラーで確認した。


黒のBMW車で中は見えない。


「・・・・・・・・・」


相棒は無言でギアをサード---3ギアから一気にハイ・トップ---5ギアに入れるとスピードを加速させた。


すると、向こうもスピードを上げてきた。


当たり、と見て良いな。


「そいつは使うな。まだトゥールからそんなに離れていない」


相棒は俺の手に握られた拳銃をチラリと見て言った。


「離せる自信は?」


「ある。問題ない」


少々手荒いが、と相棒は付け足した。


「お二人さん。シート・ベルトを付けた方が良いぜ」


ウォルターは直ぐにしたがエレーヌはいざという時の為にしない、と言った。


「後悔するなよ」


相棒はジタンを銜えながら言った。


BMWは追い付くと横に移動して体当たりをかまそうとしてきた。


それを急ブレーキでそれを避けた。


BMWはさっきまでボルボが走っていた場所を走る形となった。


そこへ相棒は後ろから追突して、スピードを更に上げた。


100は越えている。


逃げようとしても尻に張り付いて離れない。


大した技術だ。


映画では簡単に見えるが、実際は難しい。


技術と勘が必要だ。


相棒はブレーキを踏んで少し離れた。


BMWは安心したと思うが、どっこい。


直ぐに横に移動させられて、自分達がやろうとした事をやらされた。


そして壁に激突して終わった。


呆気ない物だ。


プスプスと煙を吐きながら高級車BMWはお釈迦となった。


もう追手が来たと考えると先が思いやられるなと思わずにはいられなかった。


その後ろではエレーヌが前につんのめる形で気絶していた。


後悔、先に立たずだぜ?


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