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序章:腐れ縁の始まり

これはなんでも屋ローランドと傭兵の国盗り物語のコラボ小説で、二人が別れてからさほど時間が経過していない頃の話です。


まったくの別物として楽しめる作品ですのでご安心ください。


頭を掠める大量の銃弾の雨。


その雨を地面に伏せって避ける俺と相棒、そして依頼人。


依頼人は悲鳴を上げながら地面に顔を埋め、両手で頭を抑えていた。


俺にとっては下手に逃げ回ったりしないので好都合だ。


下手に動かれて狙い撃ちなんて御免被りたい。


しかし、それにしても撃ち続ける敵だと俺は思う。


まったくここは戦場じゃないのに、こんだけ撃ち続けるとは・・・何処のバーゲンセールだよ?


「たっく。お前と組むと碌な事にならないな」


俺はスタームルガーM14をセミオートで撃ちながらぼやいた。


暗闇の中で闇雲に撃ったりはせず、銃が発射された時に僅かながらに光る銃口から相手の位置などを察して撃っているから無駄弾ではない。


こいつも悪くないが、やはりドラグノフが俺にとっては最高の恋人だ。


だが、デザート・イーグルもAK47もドラグノフもここには無い。


まったく寂しい限りだ。


恋人の3人全員が不倫旅行に行っちまっているのが哀しいぜ。


いや全員が不倫旅行に行ったんじゃないな。


・・・・1人だけは直ぐ横で煙草を吹かしている“ブルドッグ”に泣かされて入院中だ。


『ベッド以外では女は泣かせない』


とか偉そうにほざいていたが、真っ赤な嘘だ。


俺のホテルに送り届けられた恋人は見るも無残な状態で帰って来たんだから・・・・・・・


あんなに痛め付けられたと思うと相棒とは言え、殴りたい気持ちだ。


だが、それを押し殺し別な言葉を吐いた。


「お前と組むと必ず碌な目にしか遭わないんだよな」


俺はこいつに愚痴を零した。


それに対してこいつは煙草を吸いながら笑ってみせた。


・・・・・・悪役が様になるな。


こんなブルドック顔で悪役が様になる男がどうして女にモテルのか知りたいぜ。


「どうやら俺はトラブルの女神に惚れられているようだ」


相棒はつくづく厄介な女としか縁が無いと嘆いた。


しかし、こんなブルドックみたいな顔の男が嘆いても気色悪いだけだ。


「おお、そんな素敵な女神に見染められるとは男冥利に尽きるじゃないか」


「冗談言うな。しつこい女は嫌われるんだぜ?」


「贅沢言ってんじゃねぇよ。お陰で商売には事欠かないだろ?」


今の状況だってトラブルの女神が居るからこそだ。


厄介だろうが、俺らみたいな商売人には有り難いし願ったり叶ったりだ。


とは言え、ここは戦場じゃない。


それに今回の仕事はどちらかと言えば穏便に事を運びたかったんだけどな。


何せ場所は戦場ではなく何も無い辺鄙だが平和な田舎町だ。


そんな所で銃撃戦を映画みたいにしたら物の数分で警察が来るのは明白だろ?


だが、かれこれ1時間以上は続けているんだが一向に来る気配が無い。


となれば、恐らく向こうが予め手を回したという事だろう。


この国は俺と相棒が居た国よりも強固な官僚国家だ。


そいつ等の何人かと懇ろな関係を取れば、この程度の事など揉み消せるし誤魔化せる。


まったく国ってのは何処だろうと必ず“膿”があると痛感させられるぜ。


「しかし、しつこいな」


相棒は短くなった煙草を銜えたままウィンチェスターM1300ポンプアクション式を撃ちながら溜め息を吐いた。


散弾銃だから、射程距離なんて高が知れているが弾が飛び散るのを考えれば役立つ武器だ。


それに散弾銃なら少なからず狩猟シーズンだからカモフラージュ出来ると踏んだんだろう。


それにして何でこんな状況になったか?


それは今から96時間前に遡らなくてはならない。

パリの四月は冬が始まった時のように肌寒い。


近くのカフェに行き、エスプレッソを飲みたいと思うが、そんなに寒くはないと思い止まる。


かと言って、温かい飲物を飲まずに居られるかと言われたらそうでもない。


中途半端な季節に俺は舌打ちを漏らしながら久し振りに訪れた芸術の都、パリの風景を眺めた。


相棒と別れてから俺はヨーロッパに足を運んだ。


別に行きたい国がある訳ではない。


ただ、南に風が吹いたから来ただけという有り触れた理由だ。


傷だらけになって帰ってきた可哀そうな俺の恋人は入院中で丸腰状態だが、素手でもチンピラ程度なら俺には敵じゃない。


話は変わるが、俺が居る国はヨーロッパでも随一の観光国家であり官僚国家として知られているフランス。


そして花の都と言われるパリだ。


パリという名は聞こえが良い。


お洒落で上品な街並みと芸術家たちが集まる都。


とまぁ、こんな言葉だと聞こえは良いだろう。


だが、俺の相棒は


『芸術とか花の都とか聞こえが良いのを売りにしているが、裏を見れば卑猥な店はあるし偏屈な野郎どもが屯ってるし犯罪もある。まるで糞が溜められる排泄所みたいな所だ』


と言ってみせた。


ここまで捻くれた言葉を述べる相棒を見て何か嫌な事でもあったのかと俺は思っていた。


そんな所に足を運んだ俺も俺だが、な。


普通に歩いていると日本人などが多い。


だが、その表情は何処か面喰らっており、理想とは違うという顔だった。


やれやれ。


碌に調べもしないで、来たからこうなるんだよ。


パリは観光地として名高いが、思い描いていた所と違う為に帰国後軽くショックを受ける客が多いと聞いている。


戦場で言えば、偵察を碌にしないで行ってみたらスズメバチの巣だったってな感じだ。


まぁ、俺には関係ないが。


肌寒い風が頬に当たり、僅かに痛みを感じた。


何処かで軽く一杯やるか。


俺は手近に行けそうな店を探し始めた。


目に止まったのは、英語で“カサブランカ”と書かれていた。


カサブランカ・・・白黒映画の王道を突っ走るメロドラマじゃねぇか。


映画は余り見る方ではない俺だが、この映画は知っている。


何せ相棒が耳に胼胝が出来るほど煩く言っていたからな。


ブルドックみたいな男だが、映画鑑賞が趣味と言うから驚きだ。


しかも、メロドラマが好きだというから世の中不思議な物だ。


世界の七不思議に数えても良いかもしれない。


俺はカサブランカのドアを開けた。


カランカラン、とドアの上に付けた鈴が鳴った。


それと同時に店内からはピアフのヒット曲の演奏が聞こえてきた。


演奏しているのは黒人で些かアフロが掛った髪だった。


そしてカウンター席には一組の男女が座っていた。


男は濃紺、いや黒に果てしなく近い濃紺のトレンチコートを着ていた。


そのコートの上からは白い煙が出ていた。


明らかに煙草を吸っている。


男の傍らには琥珀色の液体を侍らせていたが、女は何もなかった。


女の肩が小刻みに震えている。


・・・・泣かせたな。


何だか相棒みたいだな、と俺は思う。


そんな女を尻目に男は煙草を吸ってから溜まった灰を灰皿に捨てた。


そして口元を抑えて椅子から立ち上がると走ってきた。


俺は直ぐに避けるが、女は気付かずにドアから出て行った。


やれやれ・・・まるで俺の相棒じゃねぇか。


ベッド以外で女は泣かせないとかほざいていたが、実際の所は何処だろうと泣かせ続けるんだからよ。


カランカラン


と再びドアが閉じる音と共に鈴が鳴る。


だが、俺が入った音と違い去り行く女を思ってか、哀しそうな音に聞こえる。


そして男を見れば男は女が飲んでいたと思われるカクテルグラスに手をやっていた。


グラスを口元に運び飲み干すとバーテンに渡した。


それから俺を見た。


おいおい・・・・・嘘だろ?


俺は我が目を疑った。


俺を見つめている男は、不死身の王と言われた相棒・・・鷹見徹夜だった。


奴は俺を見ながら自分のグラスを掲げてみせた。


それから口端を上げてこう言ってきた。


「よぉ、元気そうじゃねぇか?猟犬」


これが俺とあいつの再会であり、これから延々と続く腐れ縁の始まりでもあった。


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