【短編】冒険者の俺、ハズレ・スキルでSランクモンスターを過労死寸前まで働かせていたら、いつの間にか世界経済を支配していた件
「カイト、お前はクビだ。荷物持ちとしても足手まといなんだよ」
冒険者ギルドの裏路地。
勇者アルドの言葉は、冬の北風よりも冷たく鼓膜を叩いた。
足元に投げ捨てられたのは、なけなしの銅貨が入った袋。
チャリ、と乾いた音が泥に吸われる。
俺はそれを拾おうとはしなかった。
ただ、強張った指先を隠すようにポケットへ突っ込み、深く息を吐く。肺が凍りつきそうだ。
「……分かった。契約解除だな」
「ああ。二度と俺たちの前に顔を見せるなよ、ゴミ虫が」
アルドたちは背を向け、嘲笑を撒き散らしながら去っていく。
残されたのは、俺と、路地裏の湿ったカビの臭いだけ。
胃の腑が焼けるように熱い。
こみ上げてくるのは、悔しさ? 絶望?
違う。
(やっと……やっと終わったァァアアアッ!!)
俺は天を仰ぎ、拳を突き上げた。
歓喜で膝がガクガクと震える。脳内でドーパミンが沸騰する音が聞こえるようだ。
ブラック労働、パワハラ、深夜の装備メンテナンス、そして報酬の9割中抜き。
地獄の勇者パーティ生活からの、完全なる解放。
俺、カイト・スズキ。十八歳。
異世界転生者。
そして今日から正真正銘の、自由な無職だ。
「最高だ……! もう二度と働かねえ! 俺は一生、布団の中で過ごすんだ!」
そう叫んで踵を返した、その時だった。
『ピロンッ♪』
脳髄に直接響く、間の抜けた電子音。
視界の端に、半透明のウィンドウが強制ポップアップする。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 雇用契約の解除を確認しました。 ┃
┃ ユニークスキル【人材派遣】 ┃
┃ が解放されます。 ┃
┃ ┃
┃ ▶ 今すぐ初回ガチャ(SSR確定)を回しますか?┃
┃ [ YES ] [ NO ] ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「……は?」
人材派遣? ガチャ?
転生特典にしては遅すぎる。いや、今更なんだよ。俺は働きたくないんだ。
だが、眼前に浮かぶ[YES]のボタンが、妙に妖しい光を放っている。
まるで「押せば一生遊んで暮らせるぞ」と囁くように。
(……どうせ無職だ。失うもんなんかねえよ)
俺は震える人差し指で、空中のボタンを叩いた。
刹那。
世界が反転した。
路地裏の景色が消し飛ぶ。
足元には幾何学模様の魔法陣。空が裂け、赤黒い雷光が石畳を砕く。
鼻をつくオゾン臭。肌を焦がす熱波。
圧倒的な質量の「絶望」が、俺の目の前に顕現した。
「グォォォオオオオオオオオッ!!」
咆哮一発。
衝撃波だけで、周囲の民家の窓ガラスが全て弾け飛ぶ。
煙が晴れた先にいたのは、漆黒の鱗に覆われた、山のような巨体。
終焉の魔竜、ヴォルガウト。
伝説級の災害指定モンスター。
一国を単騎で滅ぼす、生ける神話。
金色の縦長の瞳が、ゴミを見るような目で俺を見下ろす。
「貴様か……? 我の眠りを妨げた矮小な虫ケラは。死をもって償え」
巨大な爪が振り上げられる。
死ぬ。
間違いなく、ミンチになる。走馬灯を見る暇すらない。
だが。
俺の視界には、魔竜の顔の上に別のウィンドウが浮かんでいた。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 対象:終焉の魔竜ヴォルガウト ┃
┃ ランク:SSR ┃
┃ 状態:【採用面接中】 ┃
┃ ┃
┃ 適正時給:経験値 1500 / h ┃
┃ 希望条件:完全週休二日制、福利厚生完備 ┃
┃ ┃
┃ ▶ 雇用契約を結びますか? ┃
┃ [ 採用 ] [ お祈りする ] ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
(採用ボタンの横に……不穏なルビが見えたぞ?)
だが、爪は目前に迫っている。
俺は反射的に叫んだ。
「採用ッ!!!」
『ピロンッ♪』
軽快な確定音が鳴り響く。
その瞬間、振り下ろされた魔竜の爪が、俺の鼻先数センチでピタリと硬直した。
「……な、なんだ? 体が、勝手に……!?」
魔竜が困惑の声を上げる。
その巨体に、黄金の鎖のようなエフェクトが絡みつく。
俺の脳内に、無慈悲なシステムログが流れた。
> 契約成立。
> 雇用形態:アルバイト(24時間365日対応・休憩なし)
> 業務内容:主の全肯定、および敵対存在の殲滅
> 特記事項:報酬の70%は【仲介手数料】として、主に自動送金されます。
「な、なんだこの契約内容はァァァ!? 労基! 労基はどうなっている!?」
魔竜が悲鳴を上げる。
さっきまでの威厳はどこへやら。伝説のモンスターが、契約書の条文を見て顔面蒼白(鱗だけど)になっている。
「ほう」
俺は口角が吊り上がるのを止められなかった。
仲介手数料、七割。
つまり、こいつが働けば働くほど、俺は何もしなくても最強になり、金が無限に湧いてくる。
俺はただ、寝ているだけでいい。
これぞ、人材派遣ビジネスの真髄。
「き、貴様……悪魔か……!」
「人聞きが悪いな。俺は社長だよ、ヴォルガウト君」
俺はポケットからハンカチを取り出し、煤けた顔を拭うと、ニッコリと笑って告げた。
「おめでとう。今日からお前は、株式会社『俺』の第一号社員だ。やりがいのある職場だぞ?」
「ふ、ふざけるな! 我は帰る! 洞窟で寝るのだ!」
「ああ、そうか。じゃあ初仕事だ。あそこの山、邪魔だから消し飛ばしてきてくれるか?」
俺が指差したのは、街の郊外にある岩山。
魔竜は「断る!」と叫ぼうとするが、体はシステムに支配され、口腔内に莫大な魔力を収束させる。
「馬鹿な、やめろ、我の意思とは裏腹にブレスが……グオオオオッ!!」
ドォォォォォォンッ!!
閃光一閃。
地図から山が一つ、綺麗さっぱり消滅した。
『チャリン♪』
『チャリン♪』
同時に、俺の懐がズシリと重くなる音。
そして、全身に力が漲る感覚。細胞の一つ一つが作り変えられるような全能感。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 業務報告書 ┃
┃ 討伐数:ロックゴーレム x 50 ┃
┃ 獲得経験値:500,000 ┃
┃ 獲得金額:5,000,000G ┃
┃ ┃
┃ ▶ マージン(70%)を徴収しました。 ┃
┃ ▶ レベルが 1 → 45 に上昇しました。 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「……はっ、ははは! すげえ!」
笑いが止まらない。
勇者パーティで泥水をすすり、ゴブリン一匹倒して数十枚の銅貨を分け合っていた日々はなんだったのか。
俺は地面に大の字に寝転がった。背中の泥すら愛おしい。
空は突き抜けるように青い。
そして俺の横には、涙目になりながら「有給ハ……?」と呟く、最強のドラゴンがいる。
「さてと。今日はもう疲れたから帰って寝るか」
俺はあくびを噛み殺し、寝返りを打つ。
「おい、ヴォルガウト。定時までしっかり働けよ。残業代は出ないからな」
――その時、俺はまだ知らなかった。
今、魔竜が消し飛ばしたあの山が、勇者アルドたちが必死に目指していた『古代遺跡の入り口』だったことを。
そして、入り口を失った彼らが、路頭に迷う運命にあることを。
世界最強のニート生活と、無自覚な世界征服が、今ここから始まる。
ーー幕間ーー
魔竜「……あ、あの。主よ。読者の皆様が『評価』や『ブックマーク』をしてくれると、何が起こるのだ?」
主人公「ん? ああ、評価が増えると俺のやる気が上がって、お前の労働時間が延びる」
魔竜「な、なんだとォォオオ!? やめろ! 絶対に星を入れるなよ! 下の『☆☆☆☆☆』を押したら、我が過労死してしまうではないか!!」
主人公「(ニッコリ)……だ、そうですよ? 読者の皆さん」
魔竜「押すなよ!? 絶対に押すなよ!?」
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というわけで、ヴォルガウト君には悪いですが、続きを書きたいので応援よろしくお願いします!
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