番外編:勇者、何もしてないのに世界が終わる
―――勇者視点
剣を抜くとき、俺はいつも深呼吸をする。
これは儀式だ。
勇者としての覚悟を決める、大事な間。
「……行くぞ」
村の外れ。
空は赤く、炎が揺れている。
魔王軍の魔物が出現したという報告。
被害多数。急行せよ。
――よし。
ここだ。
勇者としての見せ場は。
「俺が行く。
この剣に誓って、必ず――」
ーーー
【SKIP】
現地到着
ーーー
「……は?」
気づいたら、俺は燃え尽きた村の中央に立っていた。
「いや待て待て待て」
さっきまで出発の決め台詞を言ってたはずだ。
「……まぁいい。切り替えろ」
前方。
魔物の影。
デカい。禍々しい。強敵。
剣を構える。
「よし……まずは相手の動きを――」
――俺、ここで先陣を切り、
「俺が守る!!」くらいは言う予定だったのに。
ーーー
【SKIP】
魔物討伐完了
ーーー
……。
地面には、完全に息絶えた魔物が転がっていた。
首、飛んでる。
「…………」
ゆっくり、自分の剣を見る。
――血、ついてない。
「……俺、今なにした?」
周囲から歓声が上がる。
「勇者様ー!!」
「一瞬でしたね!!」
「さすがです!!」
「一瞬?」
俺の一瞬、どこ?
俺のカッコイイ見せ場、どこ?
「いや、違う。
まだ本番はこれからだ」
遠くで悲鳴。別の地区が襲われている。
「次は間に合う……!」
全力で走る。
今度こそ、今度こそ俺の出番だ。
――今度こそ名台詞も決めるんだ。
寝ずに考え抜いた、あの決め台詞を!
言わせろ!!いや言うんだ!!!
ーーー
【SKIP】
被害最小・復興済
ーーー
「は????」
到着した瞬間、家は直り、人々は笑っていた。
「勇者様!ありがとうございました!」
「いや、俺、来たばっか――」
名台詞もまだ言えてない……シュン。
ーーー
【SKIP】
感謝イベント終了
ーーー
「喋らせろ!!!!」
名台詞言わせろ!!
おかしい。
これはおかしい。
勇者としての
苦戦
葛藤
覚醒
全部、存在しない。
なのに。
ーーー
【SKIP】
英雄凱旋
ーーー
気づいたら、街道を進む俺。
花。拍手。声援。
「勇者様ー!!」
「かっこいい!!」
「……」
横から、美女が近づいてきた。
金髪、可愛い。
笑顔、可愛い。
青い瞳、可愛い。
八重歯、可愛い。
距離近すぎ。可愛すぎ。
唇、可愛い....。
近づく唇、可愛い!
更に近づく唇!!可愛い!!
更に更に近づく唇!!!........究極に、可愛い!!!
唇が、触れる――
あぁぁぁっ……可愛いがてんこ盛り.....あ....
ーーー
【SKIP】
翌朝
ーーー
「…………………………あぁぁぁっっぁぁ!!!!」
宿の天井を見つめ、俺は静かに叫ぶ。
「俺の唇〜〜!!!!」
ベッドから起き上がり、頭を抱える。
「おかしい……
絶対におかしい……」
努力してない。
戦ってない。
なのに称号だけ増えていく。
俺は気づいた。
「……誰かいる」
俺より先に。
俺より静かに。
世界を終わらせている“何か”が。
「一体誰だ!!
誰が俺の活躍を奪ってる!!!」
ーーー
【SKIP】
答えは表示されません
ーーー
「そこは出せよ!!!」
その日。
人混みの中で、俯いた男とすれ違った。
名もなき、どこにでもいそうな。
不思議と胸がざわついた。
「……?」
ーーー
【SKIP】
理由の説明
ーーー
「だから説明しろって!!!!」
俺は剣を握り直す。
世界がどうなっていようと、スキップされようと。
「……それでも俺は、勇者だ」
そう呟いた瞬間。
ーーー
【SKIP】
勇者の決意
ーーー
「やめろォォォォ!!!!」
――今日も世界は、俺の知らないところで救われている。
誰かによって。
名もなき、
“通行人”によって。




