夏の思い出
僕は比較的頭がいい方だと思う。
来年中学校に進学する今だからこそ、よりいっそうそう思う。
低学年の頃はみんな一様にバカだった。もちろんその中でも頭のいいやつ、お調子者、お淑やかなやつ、よくわからんやつといった具合に個性をみんなそれぞれ持っていた。
しかし、それらの個性はたとえどんなに凶悪であったとしても、低学年という魔法によってバカというレッテルは貼られずに済むおこちゃまなものであった。
だけど、高学年は違う。小学6年にもなると圧倒的にステージが違っているのだ。当たり前だけど。
集団に馴染めないやつ、スベってるのにやたらと授業中目立ちたがるやつ、いつまでも幼いノリを引きずってるやつ。こうした、いわゆる空気というものを感じ取れないものが露骨に目立ってくるのだ。そんなものくだらないと思う反面、やっぱりみんな、そして僕もそれに抗うことが、周囲から異物として扱われることが怖いのだ。
もちろん僕はテストの成績が抜群にいいわけじゃない。だけど、僕は僕より遥かに頭のいい人がいることを知っている。僕よりうんと勉強のできないやつが存在することを知っている。そういったことを弁えてるだけ僕は偉いんじゃないかと思うんだ。
さて、そんな頭のいい僕にも理解できない事態が夏休み中に起こったんだ。
僕の部屋の床から、女の子が生えてきたんだ。
それは最初は頭だけ床から出ていた。意味わからなかったから放置していたらどんどん伸びてきて、今は膝あたりまで成長しちゃったんだ。
頭が出てきた段階では、その子はほんとうに小さかったんだ。胎児みたいに。だけど床から伸びていくのに合わせて年齢も上がっていっているんだ。今で大体15歳くらいだと思う。一応話しかけてみたりするんだけど、反応はない。だけど脈はあるから生きてはいるんだ。
両親に相談したら女の子が部屋にいるだなんてラッキーねと返ってきた。舐めてんのか、話にならないと思ったからそれ以降相談はしてない。だけどたまに女の子の根本の床に水をかけている姿を見かける。効いてんのかどうか分からないけど、少なからず両親は女の子に、そして僕の部屋の床に関心があるみたいだ。
そんなこんなで最初の頭が出てきた日から大体一ヶ月、今日でもう夏休み終わりだって時にようやく女の子が完璧に出てきた。結局年齢は40代くらいになってしまった。おばさんだ。もう完全なるおばさんだ。もうちょっと早めに収穫というか、引っこ抜いておけば若い年齢を保てたのかもしれない。後悔しかない。
おばさんに家の中を自由に彷徨われても困るので話しかけてみる。
「お姉さんは一体どこからきたんですか?」
「あんた一ヶ月間何みてたのよ。目ついてんの?あんたん部屋の床だよ」
「いや、それは分かるんですけど、僕の床の前はどこにいたんですか?」
「そんなの知るわけないだろ。あんた馬鹿なのかい?ちょっとは自分で考えなよ」
何だこいつ話してて全然楽しくない。何か言葉きついんだけど。くそっ!これ絶対おばさんの段階まで成長させちゃったからだ。絶対もうちょい早めに収穫してたら愛嬌抜群のごっくんボディ美女になってたはずだ。これはもう絶対に。
とりあえず、この人の処遇に困ったから両親と相談した結果、一応夏休みの自由研究の課題として提出することにした。
僕は来年中学生になる。今は小学六年生だ。みんなどこか異性を意識しはじめ、周りとの比較や優劣、馬鹿にされたくない、集団から弾かれたくないと思い出す年頃だ。そんなことはわかってる。僕は頭がいいからね。だけど。それでも僕は、そんな流れに逆らってみたいと思ったんだ。少し早めの反抗期さ。
二学期初日まだまだ夏の日差しが強い中、僕はおばさんと学校に向かった。
おばさんが道中、夏の日差しに機嫌が悪くならないかどうか、日焼けがどうのこうの言い出さないかどうか。
それだけが、今の僕の心配だった。