第8話 省エネ男子、初デートに連れ出される
告白を受け、なんとなくの流れで「付き合う」ことになった斎藤悠斗。
彼の省エネ人生に、最大の試練が訪れるのは当然だった。
それは、告白の翌日。
「斎藤くん、日曜日、デートしよ?」
放課後、河合美咲がキラキラの笑顔で言った。
「……デート……?」
「うんっ! 初めてだもん、どこ行く?」
悠斗の頭はフル回転した。
デート=人混み=移動=体力消耗。
しかも初デートとなれば最低限の気遣いも必須。
(……死ぬ……)
「……図書館……とか……?」
「うーん……せっかくだから水族館とか行きたいなぁ」
河合の目が期待で潤む。
(……否定したら……泣く……)
「……わかった……水族館……」
「やった!」
彼女は飛び跳ねて喜んだ。
省エネ男子、ついに彼女の笑顔のために体力を差し出すことに。
日曜日。
水族館前の待ち合わせ。
悠斗は、母に無理やり新しいシャツを着せられ、やたらと身だしなみだけは完璧にされてきた。
(……歩くだけで……汗……)
既に疲労度30%。
そこへ河合が到着。
私服姿の彼女は、制服とは全く違う雰囲気で、悠斗の省エネ脳を一瞬フリーズさせた。
「斎藤くん……待った?」
「……今……来た……」
(嘘。15分前から座って省エネしてた。)
「ふふ、じゃあ行こっか!」
河合は悠斗の袖を軽くつまんで、水族館のゲートへ。
水族館内。
「わぁ……! 見て見て! クラゲだよ! きれい……!」
河合は水槽の前で、無邪気にきらきらと目を輝かせる。
悠斗はというと――
(……寒い……暗い……座りたい……)
水族館は省エネ男子にとって悪くない環境のはずが、河合の興奮についていけず、逆に体力がじわじわ削られる。
「斎藤くん、こっちのペンギンも可愛いよ!」
「……可愛い……」
「ほんとに見てる?」
「……見てる……可愛い……」
河合の笑顔のために、心の中でだけ全力で感想を叫ぶ。
小一時間後。
「お腹すいちゃった! 何食べようか?」
(……座れる……)
悠斗の中で、飲食店=椅子のあるオアシス。
「……なんでも……いい……」
「じゃあ水族館のカフェ行こう!」
二人はカフェに入り、ようやく悠斗は椅子を確保した。
(……生き返る……)
カフェのクラゲゼリーを食べる河合をぼんやり眺める時間だけが、唯一の省エネタイムだった。
夕方。
水族館を出ると、河合がほわんとした笑顔で言った。
「今日はありがとう。楽しかった……」
「……うん……俺も……」
(正直、眠い……)
「次は映画とかも行こうね!」
「……うん……」
省エネ男子の省エネライフは、恋人の『またね』のキス未遂で完全にバッテリー切れ。
帰宅後、彼は母に「どうだったの?」と聞かれる前に布団へダイブし、意識を失った。