第7話 省エネ男子、告白される
文化祭の翌週。
斎藤悠斗は、布団の中で完全に電源を切ったように眠りこけていた。
(……一週間……寝る……)
自らに課した省エネ回復週間の誓いを守るべく、放課後は即帰宅、即布団。
しかし、現実は甘くない。
「斎藤くん、放課後、ちょっといい?」
河合美咲が、ホームルームが終わった直後、教室の出口を塞いでいた。
逃げ道、なし。
「……え……」
「ちょっとだけ、屋上来てくれる?」
(屋上……体力使う……寒い……でも断れない……)
省エネ男子の計算式が脳内で回るが、河合の瞳を前にして“断る”の選択肢が自動で消滅した。
屋上。
秋の空気が頬にひんやり。
風に髪を揺らす河合が、普段よりもずっと真剣な顔をしていた。
「斎藤くん……あの、ちょっとだけ黙って聞いてくれる?」
「……うん……」
「……私……斎藤くんの、そういうとこ……好きなんだ」
悠斗の脳が停止した。
「何に対しても無理しないのに、ちゃんとやるときはやってくれて、誰にでも優しくて……」
河合は一気に言葉を続けた。
「……だから……私……斎藤くんのことが……ずっと……好きだったの……!」
悠斗、フリーズ。
(……え、これ……告白……?)
省エネ男子、人生最大のエネルギー消費案件、到来。
風が吹く。
時間が止まったように、二人の間には沈黙だけが漂った。
(……どうする……断るのも……体力……使う……付き合うのも……体力……使う……)
迷う省エネ脳。
河合は小さく潤んだ目で、返事を待っている。
ここで一言間違えたら泣かれる可能性が高い。
泣かれたらフォローに膨大な体力を消費する。
(……最小の労力で、最良の結果を……)
考えた末――
「……俺……省エネだけど……それでも……いい……?」
河合の目がぱっと輝いた。
「うん! それでいい! それがいいの!」
屋上を出たあと。
「斎藤くん、帰り道も一緒に歩いていい?」
「……うん……」
「これからもずっと……一緒に帰ろうね」
「……うん……」
省エネ男子、ついに恋人ができてしまった。
これが吉と出るか、体力浪費の未来か――それは、まだ誰も知らない。