第6話 省エネ男子、店長になる
ついに文化祭当日。
教室はすっかり“メイド喫茶”仕様に変貌していた。
黒板には手作りのメニュー表。
女子たちはフリル付きエプロンに身を包み、男子は厨房や呼び込み係に散っている。
そして――
「斎藤、頼む! 店長やってくれ!!」
突然の森山の土下座に、悠斗は朝イチから頭を抱えていた。
「……なんで……俺……」
「いやー、男子で一番トラブル起こさなさそうだし、声小さいからクレームにならないし……お前しかいないって!」
「……お前が……やれ……」
「俺は呼び込み係だから! 制服で通行人に声かける係! 頼む、頼む!!」
(……体力の無駄……議論しても無駄……)
悠斗は瞬時に計算した。
ここで断れば、数分間の押し問答で体力を消耗するだけ。
引き受ければ、その時間は寝たフリもできるかもしれない。
「……わかった……」
店長、爆誕。
メイド姿の河合が、どこかうれしそうに近寄ってくる。
「斎藤店長さん、よろしくお願いします!」
「……名前……呼ばなくていい……」
「でも、店長さんだもん!」
この日、河合はいつもよりテンションが高かった。
営業開始。
お客さんは思った以上に来た。
「ご主人様お帰りなさいませ~!」
「いらっしゃいませ~!」
男子客が女子に群がる。
悠斗はカウンターに座り、売り上げ管理表をぼんやり眺める。
(……俺、何もしてない……)
それが理想だ。省エネ店長は、何もせずにお店が回ることを目指している。
ところが――
「斎藤店長~! 注文ミスです!」
「店長! お釣りが合わないです!」
「店長さん、追加メニューどうする?」
客より店員に呼ばれる回数の方が多い。
完全に予定外。
(……これ……俺……働いてる……?)
昼休み。
河合が厨房からひょこっと顔を出す。
「店長さん、ちょっと休憩取ってください! 私がここ見ておくから!」
「……河合さん……女神……」
「え、なに?」
「……なんでも……」
結局、河合が手際よく仕切ってくれたおかげで、悠斗は10分だけ隅の椅子で目を閉じられた。
夕方。
大盛況のまま、文化祭は閉店時間を迎えた。
教室には、達成感とクタクタな空気が漂っている。
「斎藤、マジで助かった! お前の店長、超適任だったわ!」
森山が肩を組んでくるが、すでに声を出す気力もない。
「……うん……二度と……やらない……」
「まぁまぁ来年もよろしくなー!」
「……死んでも……やらない……」
帰り道。
河合が、制服に戻った姿で隣に立つ。
「斎藤くん、今日ほんとにありがとう。助かったよ。楽しかったね」
「……河合さん……すごい……俺より……店長……向いてた……」
「えへへ……でも、斎藤くんと一緒だったから、頑張れたんだよ?」
河合の笑顔に、もう何も言えなかった。
省エネ男子、文化祭の激務を終え、静かに思う。
(……明日から……一週間……布団と一体化する……)
彼の省エネ生活に、束の間の青春が重なった秋の日だった。