第5話 省エネ男子、文化祭に巻き込まれる
六月のある放課後。
学級委員会が終わったばかりの悠斗は、すでに疲労を感じていた。
座っていただけなのに。
「斎藤くん、次はクラスの文化祭企画の話し合いだって」
隣の河合が、まるでデートに誘うかのような笑顔で言ってくる。
「……参加……必須……?」
「学級委員だもん!」
河合の笑顔には逆らえない。
省エネ主義者の不幸は、こういうときにこそ露呈する。
教室に戻ると、すでに男子たちが勝手に盛り上がっていた。
「お化け屋敷がいいだろ!」
「いやいやメイド喫茶! かわいい女子がメイド服だぞ!」
「は? じゃあ演劇は?」
阿鼻叫喚。
悠斗は椅子に座り、机に突っ伏して最小の呼吸だけで存在を主張する。
「なあ斎藤! お前はどれがいい!?」
森山がまた背中を叩く。痛い。体力が漏れる。
「……一番……やらなくていいやつ……」
「それを決める会議なんだよ!!」
結果――
多数決で「メイド喫茶」に決定した。
男子は大喜び、女子は複雑、河合は耳まで真っ赤。
その後の仕事が問題だった。
学級委員として、買い出し計画、当日のシフト、装飾の設計――
あらゆる書類と決めごとが悠斗に降ってくる。
「斎藤くん、これ、チェックお願い」
「……全部……?」
「全部……!」
河合は楽しそうだが、悠斗には地獄。
放課後の教室。
「斎藤、やっぱお前に任せると早いわ!」
森山がポテチを食いながら言う。
(お前が手伝えばもっと早い……)
そう思うが、言うだけ無駄なので黙って作業を続ける。
それでも、河合が隣でずっと書類をまとめてくれるので、効率は上々だ。
「斎藤くん、やっぱ頼りになるね」
「……省エネ……じゃない……」
「え? 何か言った?」
「……なんでも……」
気がつくと、窓の外は夕焼け。
机の上には、何枚もの資料とポップ案とメニュー表。
悠斗の脳は、限界ギリギリの省エネモードを超えていた。
「……はぁ……」
「斎藤くん、お疲れさま。今日はもう帰ろ?」
河合が微笑んで、カバンを差し出す。
「……うん……」
やっとの思いで立ち上がり、教室を出たとき。
彼は小さく決意した。
(……文化祭が終わったら……一週間……寝る……)
省エネ男子、文化祭に巻き込まれ、予想以上にエネルギーを消耗する。
しかし――
その日、河合と並んで下校した道のりだけは、
ほんの少し、悪くなかったと心の奥で思っていた。