第4話 省エネ男子、学級委員になる
春もそろそろ終わり、教室の空気が少し浮き足立っていた。
「はい、じゃあ今日は学級委員決めまーす」
担任の佐々木先生のゆるい声が教室に響く。
「男子一人、女子一人。やりたい人いる?」
当然、手を挙げる者はいない。
森山ですら黙っている。こういう面倒な役は、誰もやりたくないのだ。
しばしの沈黙――誰かがポツリと。
「斎藤くんでいいんじゃね?」
「お、いいねー。省エネだから逆にクレームも来ないっしょ」
「学級委員ってさ、無駄にうるさい人より静かな方が良くね?」
謎の理屈で教室の空気がまとまっていく。
「ちょ、待って……俺……」
悠斗は言いかけたが、ここで声を張り上げるのもエネルギーの無駄と瞬時に判断。
結果――拍手が起こった。
「斎藤、よろしくな!」
佐々木先生も満面の笑顔。
「じゃ、決定! 女子は河合さんでいい?」
「え? わ、私も!?」
河合美咲は目を丸くしつつ、クラスメイトの「お似合いだー!」の茶化しに真っ赤になる。
休み時間。
「……なんで俺が……」
「いやー斎藤、運命だな。がんばれよ、学級委員!」
森山は背中をバシバシ叩く。
痛いし、体力が漏れる。
そこへ河合が顔を出した。
「あの……一緒に頑張ろうね、学級委員……」
彼女は明らかにうれしそうだ。
省エネ主義の悠斗としては、恋愛フラグという余計な業務まで増える予感しかしない。
「……うん……よろしく……」
言葉数は少なく、けれど波風を立てない。これが彼の流儀だ。
昼休み。
学級委員の仕事第一弾――日直の連絡帳確認。
ノートを開き、確認。以上。
「……終わった……」
河合がちょこんと隣で見ている。
「斎藤くん、すごい……早いんだね」
「……確認して……閉じるだけだから……」
「でも効率的だね……」
――褒められているのか、省略されているのか。
それでも河合は楽しそうだ。
この笑顔を見て、少しだけ「まあ、いいか」と思う自分がいる。
放課後。
次は全体の委員会会議。
他のクラスのキラキラ系学級委員たちが「みんなで意見交換しましょう!」と盛り上がる中、
悠斗は会議室の片隅で「……何も意見は……ない……」と心の中で唱える。
しかし――
「斎藤くん、斎藤くんは何か意見ある?」
一斉に視線が注がれる。
(……今しゃべったらエネルギー消費大……)
彼は考えた末に、
「……特に……ない……です……」
これがベストの回答だった。
帰り道。
隣を歩く河合が、楽しそうに話しかけてくる。
「今日、斎藤くんが学級委員で良かったって思った!」
「……そう……」
「うん、省エネなのに、なんだかんだでちゃんとしてるし……優しいし……」
彼女の言葉に、心のどこかで小さくくすぐったいものが残る。
省エネ男子、高熱を乗り越え、学級委員になり、
ついでに少しだけ青春が始まる……かもしれない。