表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

第3話 省エネ男子、復活する

「……完治した……はず……」


熱が下がった翌朝、斎藤悠斗は慎重に布団の中で四肢を動かしていた。

念入りな自己診断。くしゃみ:無し。咳:無し。気怠さ:少し。だが、登校可能。


母がドアを開ける。


「どう? 学校行けそう?」


「……うん、たぶん……」


母が差し出すのは、いつものジャムトーストと、風邪明け用のマスク。


「行くならマスクつけなさい。あと今日は体育見学しときなさいよ」


「……当然……」


体育など最も避けるべきエネルギー消費イベント。見学を推奨されるこの状況は、むしろ特典である。


登校中、校門前で元気印・森山に遭遇。


「お、斎藤! 生きてたかー! 顔色わるっ」


「……これが……通常営業……」


「いやいや、顔色の悪さがデフォとかお前だけだわ」


森山のノリにはいつも通り適当に相槌を打って流す。ここで会話に乗るのはエネルギーの無駄。


だが今日は、別の“強敵”がいた。


「斎藤くん、おはよう。ほんとに来たんだね」


そう話しかけてきたのは、昨日LINEを送ってきた女子・河合美咲。


「あ、あの、昨日はごめんね。変なこと言っちゃって……」


「……いや、気にしてない……」


「よかった……でも無理しちゃダメだよ? 体弱ってるときは、免疫が落ちてるから……」


免疫。確かに耳にしたことのある概念だが、そんな専門用語を笑顔で口にする女子高生に悠斗は少したじろぐ。

それでも返す言葉は、省エネで。


「……ありがとう……河合さん……」


その一言で、彼女は少し頬を赤らめた。

「じゃ、またね」と言って去っていく。


(……一言で、済むんだな……会話って)


彼の中で、新たな省エネ理論が芽生えた瞬間だった。


体育の時間――


「おう斎藤、体調不良で見学か。いいなぁお前は」


森山が羨ましそうに話しかけるが、悠斗は「……ツラいよ……」とだけ呟く。

もちろん演技である。

その場にいた女子たちが「あ、斎藤くん今日は体調不良なんだって」とざわめく。


(……情報拡散スピード、はや……)


悠斗の“マスク+見学”という組み合わせは、一気に「なんか儚い系男子」カテゴリに格上げされつつあった。


放課後、保健室に呼ばれる。


「斎藤くん、朝の体温確認してなかったから、ちょっとだけ測っていこうか」


保健の先生・川原先生は優しい口調だが、彼女の無駄のない動きから察するに逃げられない。


「はーい、37.0度。微妙だけど、大丈夫かな。無理しないでね?」


「……はい……」


「んー、斎藤くんはいつも“無理しない”がデフォっぽいけどね~」


「……否定できない……」


保健の先生にも見抜かれていた。だが、悠斗は微笑んだ(目だけで)。


家に帰ると、母が出迎えた。


「今日はどうだった?」


「……人間観察日和……だった……」


「何それ?」


「省エネで……世界を見てた……」


母は笑いながら、いつもより優しい晩ごはんを用意してくれた。

省エネ男子、病み上がりでほんの少し人間味を見せた一日だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ