第2話 省エネ男子、高熱を出す
翌朝。
斎藤悠斗は、いつものように母の「起きなさい」の声に最小の抵抗をしながら布団にしがみついていた。
だが、今日は――違う。
「……なんか……だるい……」
普段と変わらない省エネ姿勢のはずが、体が布団からまるで剥がれない。
母が額に手を当てる。
「……あんた熱あるじゃない! 38度超えてる!」
「……38度……」
声も省エネだが、体は完全に省エネどころか機能停止寸前だ。
「……学校、休む……」
「当たり前でしょ! 今日は寝てなさい!」
母に言われ、ようやく悠斗も観念した。
しかし、寝ているだけで省エネを極めてきた彼にとって、病気による強制休養は――逆にしんどい。
「……ポカリ……飲む……」
「はいはい、もうここに置いておくからね。飲んだら寝なさいよ」
母が置いていったポカリのペットボトルに、半分まぶたを閉じたまま手を伸ばす。
「……キャップ……開かない……」
無駄な力を使いたくない彼にとって、ねじ込み式のキャップは最悪の敵だ。
結局、母を呼ぶしかない。
昼過ぎ。
布団の中で熱に浮かされつつ、スマホを取り出す。
動画を見ようにも、目がしょぼしょぼしてまともに見られない。
「……こんなに……不自由なの……」
省エネ男子、風邪をひくと無力。
そのとき――
『ピロン♪』
LINEが届く。送り主は、昨日一緒に帰った女子――河合美咲だ。
『斎藤くん、今日お休みだって聞いたけど大丈夫?』
「……返信……打つのも……めんどい……」
だが、未読スルーはなんとなく罪悪感があるので、最小限の指で『ダイジョブ』と送る。
すぐに返信。
『お見舞いに行こうか?』
省エネ男子の脳裏に、普段より体力を奪われた自分の姿を女子に見せる恐怖がよぎる。
「……全力で……断る……」
いつもは言葉数少ない悠斗だが、このときだけは必死だった。
結局、その日一日、悠斗は布団とトイレを往復し、あとはひたすら眠った。
「……健康が……一番の省エネだな……」
ぼんやりとそう思いながら、彼は熱にうなされ、夢の中でも省エネを目指すのであった。