これが斎藤悠斗(さいとう ゆうと)
――目覚ましが鳴る。止める。二度寝する。
これが斎藤悠斗、17歳男子高校生の一日目の第一歩である。
「……もう起きてるってば、母さん……」
毎朝同じ小芝居をしつつ、布団の中で可能な限りの体力温存を図るのが彼のポリシーだ。
省エネ、すなわち無駄な動きをしない。それが悠斗の生き様である。
朝食は自分では作らない。食パンにジャムを塗ってくれる母親に、心の底から感謝しつつ、黙って食べる。
父親には「もっとシャキッとしろ」と言われるが、無視だ。エネルギーの無駄遣いである。
「おーい悠斗!今日、駅前のゲーセン寄ってかね?」
同級生の元気印・森山が声をかけてくるが、悠斗は「体力と小銭の消耗は避けたい」と心の中で却下しつつ、
「うーん、今日は……宿題が……」とだけ呟く。森山は笑って肩を叩いて去っていく。
言葉は少なく、だが効果的。これも省エネ。
授業中。居眠りではない、エネルギー補給だ。
先生の「斎藤!」の呼び声に最小限のまばたきで応じる。
「おい斎藤、この問題、解いてみろ」
黒板の前に出される――最大の危機だ。しかし、悠斗は知っている。
ここで逆らうよりも、素直に立ち上がり、最短の解答を板書して、即座に着席するのが最も効率的だと。
「……√2 です」
正解である。教室にどよめきが走るが、悠斗にとってはどうでもいい。
放課後。下校中。
仲の良い女子に声をかけられる。彼女は軽い恋心を抱いているらしいが、悠斗は恋愛も極力省エネ主義。
「斎藤くん、一緒に帰ろ?」
「……ん」
一緒に歩くのも悪くない。会話は必要最低限。だが、隣を歩くことで彼女は満足するらしいので、これが最適解。
帰宅。
部屋にこもる。
布団に潜る。
スマホで動画を見ながら、次第に目がとろけていく。
……このまま眠りに落ちるまでが、彼の一日。
無駄のない、いや、無駄だらけかもしれない。
だが、彼にとっては、これが最高に心地いいのだ。
明日もまた、省エネで生きる。
無理せず、怒らず、張り切らず。
ただ、自分のペースで――。