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スキル鑑定

「……ん……夢じゃ……なかった……」


 慣れ親しんだ病院のものではない、やたらと大きなベッドの上で目覚めた優斗は、ここが異世界であることをぼんやりと思い出して起き上がる。


「……何があったんだろ」


 昨晩は疲れて何も考えず寝てしまった優斗だが、寝て頭がすっきりすると、なぜ自分がここにいるのだろうかと疑問が湧き上がる。


 だが神でもない彼がこの現状を理解できるはずもなく、用意されていた服に恐る恐る袖を通した。


「失礼します優斗様。アイリスとネヴァです」


「は、はい!」


 するとちょうどいいタイミングでアイリスとネヴァがやって来て、彼女達は優斗に一声かけると部屋に入って来た。


「おはようございます」


(綺麗な人達だなあ……)


 優斗は朝の挨拶を交わしながら、多少は冷静になった頭でアイリスとネヴァの容姿に感嘆する。だがそれは彼女達の予想通り、発想が先に進まず止まるものだった。


「昨晩、優斗様にスキル鑑定を行ってみてはどうかという話になりまして」


「スキル鑑定ですか?」


 アイリスはネヴァがワゴンから料理を取り出している間に、手早く今日の予定を伝えようとした。


 しかし、優斗の読んでいた古き良き物語では、剣士は己の肉体と技量で戦い、魔法使いは魔力を操るシンプルな者しか登場せず、いまいちピンとこなかったようだ。


「はい。特殊な力の総称で、剣術なら強力な剣の力を。魔術師なら強力な魔法を扱えます。私は癒しのスキルを持っているので、少しの怪我ならすぐに直すことができるんですよ」


「なるほど……」


 アイリスは簡単な説明を行い、優斗はそういうモノもあるんだなと素直に納得した。


(僕にそんな力があるんだろうか?)


 疑問に思う優斗は当然知らない。


 上位存在は招いた者の願望、無意識を問わず読み取って、最も相応しい強力な力を与えているため、スキル鑑定の場で行われるのは最初から決まっている演出なのだ。


 つまり鑑定の場にいる者は皆が驚き、優斗を褒め称える準備ができていたが……この青年、妙なイレギュラーを起こす才能を持っていた。


 ◆


「わあ……」


 朝食や準備を終えた優斗は、アイリス、ネヴァと共に馬車で移動すると、神殿だと紹介された建物を口を大きく開けて見上げた。


 真っ白な石材で建築された神殿は純潔を表しているようで、悪や穢れを許さぬ神聖さを醸し出している。


 更に周囲にいる神官達も、質素な白い司祭服を身に纏っており、体から放つ厳かな雰囲気がこの場と非常に似合っていた。


(いいぞ皆! 完璧だ!)


(俺は聖職者だ。誰がなんと言おうが聖職者なんだ)


 ただ、内面が厳かとは言っていない。


 神を信じている聖職者。という役を演じているスタッフは別に信仰心など持ち合わせておらず、そのせいで神殿も綺麗な凄い建物でしかない。


 一応、彼らを作り出した上位存在が神といえるかもしれないが、スタッフにとって上位存在は、偶に妙なことをやらかす困ったちゃんな上司。という認識であり、信仰対象などではなかった。


「アイリス様、勇気の神殿へようこそ。お話は伺っておりますのでこちらへどうぞ」


 そんな彼らは、名を口に出せない勇気の女神に仕えている聖職者として、やって来たアイリスに頭を下げて出迎える。


(凄いなあ……)


 小さな一室で簡単な儀式があると聞かされていた優斗は、こんな場所があるんだなと思いながら、磨き抜かれた石材の床を歩く。


 当初は神殿の大広間で行い、同席していた聖騎士達が優斗のスキルの驚き称賛されると流れだった。しかし、彼が緊張でぶっ倒れたことからその予定は変更され、神殿の一室でスキル鑑定が行われることになったのだ。


「こちらです」


「は、はいっ」


「ようこそ」


 そのスキル鑑定が行われる一室で優斗を出迎えたのは、静謐なる青だった。


 優斗とそれほど変わらない小柄な少女。


 なんの癖もない肩甲骨まで伸びる濃い青の髪は大海原を連想させ、優斗をじっと見つめる瞳もまた深海の様な落ち着いた光を宿している。


 しかし表情は極北の氷のように微動だにせず、艶めいた桃色の唇が動くことによって、優斗は彼女が人形ではなく人間だと分かった。


「私はオーロラ。貴方がスキル鑑定をする優斗ですね?」


「はい!」


 オーロラと名乗った少女の抑揚のない怜悧な声が響き、冷淡に見えるもののアイリスやネヴァに全く劣らない美貌の顔が優斗をじっと観察する。


「それでは早速始めましょう。右手を出してください」


 優斗は手汗で湿っていた掌をズボンで拭くと、言われた通りオーロラに右手を差し出した。


 すると彼女はゆっくり両手で優斗の手を包み込んだが、その柔らかな感触を感じ取る余裕は無かった。


「こっ……これは⁉」


 一分ほどじっとしていたオーロラが驚愕を露わにして、ようやく人間らしい感情を見せた。


 あとの流れは同席していたアイリスとネヴァも分かっている。オーロラが凄まじいスキルの名を宣言すると、二人もまた驚いて優斗を称賛するのだ。


「が、頑強?」


 だがその流れは、オーロラの困惑した声で破綻した。


 厳つい名前のスキル名を聞く態勢に入っていたアイリスとネヴァも同じだ。


「頑強……ですか。それは……その、力が強かったり体が丈夫だったりとかでしょうか?」


「え、ええ。その通りです」


 誰よりも先に話を進めようとしたのは優斗で、オーロラはその通りだと頷いてしまう。


 ここで上位存在のやらかしが目に見えた。このナニカは一見すると抽選のような演出は、周りの者も知らない方が面白いだろうと思い、スタッフに教えようとしないのだ。


 そのため、同業他社からの齎された情報を参考にしていたオーロラ達は、てっきり剣聖とか進化、スキル吸収のような名前が出てくると思っていた。


 そして比較すると明らかに劣っているため、オーロラ達は優斗が酷く落胆するのではないかと思い、上司である上位存在に何をやってるんだと苦情を入れたくなった。


「ありがとうございます! それが知れて嬉しいです!」


 だが優斗はこれ以上ないと言わんばかりな満面の笑みになり、声も非常に軽やかなものだった。


「おめでとうございます優斗様!」


「おめでとうございます」


 流石はプロのスタッフ。


 アイリスとネヴァは優斗が喜んでいる理由を察すると、華やかな雰囲気となって祝福する。


 健康や丈夫な体というものは優斗が望んでも手に入らなかったものであり、彼が最も欲していたものだ。


(偶にはやるじゃないですか!)


 これにアイリスとネヴァは、普段文句を言っている上位存在への賞賛を送った。どうやら上位存在は、完全なポンコツという訳ではないらしい。


 そしてここは異世界テーマパーク。お客さんの望みを果たすのは当然だった。

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