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仮面交換

作者: りお

 さらっと読めます

 私は安芸優佳。18歳。

 アイドルが好きな女子高生。

 今朝はお母さんの様子が少し奇怪しかった。

 「お母さんおはよー」

 「……。」

 返事がない。上の空って感じ?

 「お母さん、お弁当は?」

 お弁当は普段お母さんが昨日の残り物とかを詰めて食卓に置いておいてくれる。いつもってわけじゃなくて、残り物がなかったりお母さんが作れなかったりしたときは、自分で作ったり購買で買ったりするんだけど。

 「……まずいわね。()()()()()()()しまう」

 お母さんの顔色が悪い。

 「お母さん、ちょっと、大丈夫??」

 近寄って声をかけてもやっぱり返事がない。ちょっといらっとしたけど、心配は心配なので、ソファに誘導して座らせた。

 「大変!お母さん、私遅刻しちゃうから今日は購買で買うね。あとで建て替えたお金頂戴ね!」

 心配は心配だけど、お父さんも今日は休みだし、弟の航大もいるから、先に出ることにした。

 私の学校は少し遠くて、航大もまだ寝ているから。

 書き置きだけ置いていくことにする。

 『航大へ。お母さんの具合が悪そうだから、様子見てあげてね ゆうか』

 玄関の鏡を覗き込んで前髪を確認。乱れてないし、OK!

 「あれ?こんなところに傷あったっけ…ま、見えないしいいか」

 ばたん!

 耳たぶより少し下のところに薄い切り傷のようなものができていた。

 髪の毛で隠れるから、気にせずにドアを閉めて駅に向かった。

 『()()()()()()()しまう』

 母の言葉なんてもう忘れていた。

 

 私は三木茉里奈。

 26歳、会社員だ。

 今朝も人込みの間を縫うように電車に乗る。

 最寄りのバス停からバスに乗り、駅で電車に乗り換えて15分。これは通勤急行だから、周りは通勤客ばかり。

 (ちょっと、まずい気はする。前回は免れたけど……()()()()いられるかしら?)

 前回は5年ほど前だった。追いかけてきた奴らにばれることはなかったし、逆にこちらが白く()()()()()ことさえしてやった。

 若かったし、調子に乗っていたといえなくはない。でも、もうそのころより少し体力が落ちているし、経験を積んだ分、恐怖も増している。

 狙われるのは多分、女性。

 それも、外にいる……人込みが一番やりやすいだろう。

 ああ、どうして今日は出勤なんだろう。休めばよかった。クライアントの要件なんて、上司にうまいこと言って押し付けたってよかったのに。この這い寄ってくる震えに比べれば。

 ――私が私でなくなるかもしれないという恐怖。


 がたんごとん。がたんごとん。

 電車が揺れる。電車が動く。背景が飛んでいく。

 がたんごとん。がたんごとん。


 追われているのはわかる。

 逃げなければ。隠れなければ。

 がたんごとん。

 がたんごとん。


 ――きっと大丈夫。電車に乗ったから。もう追っては来られない。

 

 がたんごとん。


 きぃ――っ。

 〇〇駅です。降りられる方は……。

 アナウンスが響く。

 

 !

 やつらだ!

 追ってくる奴の姿かたちも知らない。だけど、判る。

 手が震えてきた。

 ふと耳元に手をやる。

 ちり、と痒みが走ったのだ。

 蚊に咬まれた後を搔きむしった後を触った時のように、薄くぽつんと血がついた。


 がたんごとん。


 隣の車両はやられた。

 

 接続部の扉が開く。

 カーキ色のオーバーサイズのコートを着た面々がやってきて、乗客の顔を確認していく。

 わたしだけ、ないんだ。ない。

 と思ったら向かい側の女性もそうだったらしい。

 唇だけを残してその上側の頭部を入れ替えられた。

 入れ替えられてしまった。

 奴らが手にした彼女の元頭部は真っ白だ。

 普通に雑踏に紛れている分には誰も気づかない。

 けれど、わたしたちにはないから。

 あるべき頭部のものがないから。

 

 奴らが……。あ。


 わたしも()()()()()()た。

 

 彼女と目を合わせる。

 本来なかったもの。

 真っ白だった目鼻髪の部分。ほかの人たちには見えていなかったもの。


 わたしたちは入れ替えられて、目印をつけられて、家ができて、家に帰る。


 ――朝とは違うところに。


 

 


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