4.グァルディオラの魔法レッスン【講義編】と次善の神さま
ぜんかいまでの すてーたす
グァルディオラ リザードパーソンの長 レベル78
耐久力(HP) :78643/78643 魔力容量(MP):2431/2431
力 :831 魔 力:539
すばやさ:422 幸 運:511
体 術:760 魔 術:436
「――さてさて、お前さん。守鷹と言ったかい? 私はグァルディオラ・レギーナ・ラケルターエ・フォレスティス・オクシデンティス・アルトリーウェラーエ――アルトリーウェル西の森、リザードパーソンたちのまとめ役、グァルディオラさ。今から私があんたに魔法の基礎と軽い護身術を教えてやるよ」
グァルディオラさんは、その豊かな体格に見合う長大な両手剣を地面に突き刺し杖にして仁王立ち、こちらを見ながらそう言った。纏っている雰囲気はまるで王者の風格だ。喋り口調は、食堂のおば――おねえさんだが。
それにしても名前が長い。……しかもリザードパーソンて何ですか?
「……ああ、言い忘れたが、リザードマンというのは人間が勝手につけた呼称でな。現在彼ら自身が人語で自分たちを表す際はリザードパーソンという名を用いることが多いのだ。いわゆる、ふぇみにずむ、と言うやつだな」
フェミニズムって……まぁいいけど。
シャリスは横からそれだけ口をはさんでから、少し離れた場所にある日陰に向かっていく。
グァルディオラさんの魔法レッスンに参加するつもりはないらしい。
今いる場所は村のちょうど真ん中にある広場。
といっても舗装もされていない、雑草が生えていないだけまし程度の更地だが。
入り口でのやり取り――村人総出の歓迎会だったらしい。リザードマ……パーソンたちに気を取られてかけらも話を聞いていなかったからよく分からないが――を手早く終えて、シャリスとグァルディオラさんに連れてこられたのがここだった。
「まずは魔法から。次に魔法を併用しながらの護身術を教えるから。準備を――……まだ必要ないか」
グァルディオラさんはそう言って、目を細めてこちらを見る。トカゲ顔だから地味に怖いです。
「まず簡単に魔法について教えるよ。実践はその後だ」
「はい! よろしくお願いします! グァルディオラさん」
私を呼ぶ時はルディオラでいいよ。
そう言ってグァルディオラさんは肩をすくめた後、本格的に話を始めた。
「――さて、じゃあはじめに……そうだね。せっかくだから、ちょっと変わった切り口から話を始めてみようかね」
変わった切り口と言われても、はぁとうなづくことしかできない。
魔法なんてまったく知識のない未知の領域。
そもそもすべてルディオラさん任せにするしかないんすから。
「そうだね。ここにちょうど、あんたが持ちあげれそうな大きさと重さの岩があったとする」
何やらきょろきょろと周りを見回した後、目的のものを見つけられなかったのか眉を少ししかめてから、そう言ってルディオラさんは何もない地面を指さした。
「その岩を魔法を使わずに持ち上げようとする時、あんたが自然と使うものがあるね。それが何かわかるかい?」
ルディオラさんが示した地面を見ながらしばらく考え――
「岩を持ち上げるときに自然と使うもの? ……筋肉とかですか?」
と答える。
満足そうにうなづいた後、ルディオラさんは間髪いれずに聞いてきた。
「ああ、そうだね、筋肉だ。……でも他にもある。何か思いつかないかい?」
思いつかないかい、と言われてもすぐには……
「他にですか? ……道具、とかじゃないですよね?」
違うね。あくまで自力で持ち上げる場合の話さ、とルディオラさんは肩をすくめる。
「――あんた疲労困憊の状態で重たい岩を持ち上げることができるかい?」
「! 体力ですか」
ああ、そうさ。当然過ぎて意識してなかったかい? とルディオラさんは笑う。
その口角があがるとともに、その中にきれいに並んだ歯――と言うよりも牙だが――が見えた。
ものすごく鋭そうだ。
「……それと答えはもう一つあるよ。他に思いつかないかい?」
「……そうっすね」
しばらく考えた。けど、やっぱり何も思いつかない。
するとルディオラさんが軽く首を振って話を先に進める。
「ふむ、これは仕方ないかね。……最後の一つは体術さ」
「体術?」
「ああ、まぁ体術というか、正確には身体の動かし方の知識ってところだけどね。岩を持ち上げるときに息を止めているか、いないか。力を入れる前に息を吸うのか、吐くのか、そういう類の知識さ。もちろんそれだけでもないけどね」
ふむふむとうなづく俺に、ルディオラさんは続ける。
「岩を持ち上げるという行為に最低限必要なものは、今言った体力、筋肉、体術の3つ。これと同じように魔法を使うにも最低限必要なものが3つある。それが魔力容量、魔力、魔術だ」
ルディオラさんが自分の言葉に合わせながら、手の指を三本立てた。
やっと本題に入るらしい。指を一本折って話し始める。
「まず魔法の体力に当たるもの、これを魔力容量と言う。これの説明がまた面倒くさいんだけど……シャリスの話じゃ、異世界にも概念としては存在していて『えむぴー』って言うらしい。知ってるかい?」
MPですか。そうですか。
「……知ってます」
「じゃ、説明はいらないね。楽で結構! さくさく先に進もう! ――さて、お次は筋肉に当たるものだ。これは魔力って言う。正確には魔力伝導性のことなんだけど……これは言うなれば魔力の扱いやすさを表すものさ」
二本目の指を折るルディオラさん。
「魔力の扱いやすさ、ですか?」
「魔力と言うのは概念上の存在でしかないからね。詰まりはエネルギーの一種だから、光エネルギーや熱エネルギー、化学エネルギーと同じなんだ。あえてそれ風に呼ぶなら魔法エネルギーとでもいうかいね――それを人は外界から自分の身の内に取り込んで魔力容量として体の中にストックする。そして魔法を使う時に体の中からそれを取り出して使うってのが魔法の基本的なからくりなんだ。その取り込む、取り出すという行為、それの効率を魔力伝導性、略して魔力と言うのさ」
ルディオラさん、見た感じではパワーファイターなのに理論派なのか?
「まぁ簡単に一言で言ってしまえば、体の魔力への慣れって事になるかいね。魔法を使えば使うほど、それは高まり、そしてこれが高ければ高いほど、魔法の展開が速くなり、その威力が高まるのさ」
さて、次、最後に、と前置きしてルディオラさんは3本目の指を折る。
「そして最後に、体術に当たるもの――それが魔術だ。正確には魔法技術の略だがね。これは言葉通り魔法に関する知識と技術のことさ。知らない魔法は使えないって話だね」
魔力容量……MP。魔力伝導性……魔力の出し入れの効率。魔術……魔法知識。なるほど。
「今回、優先的に鍛えるのは魔術だよ。他の二つは魔法を使っていれば自然と成長するからね」
そう言ってルディオラさんは朗らかに笑う。
でも、やっぱり口の中に見える歯は怖かった。
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次善の神さま
4.グァルディオラの魔法レッスン【講義編】と次善の神さま
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「さて、これからは魔法に関する基礎知識を説明するよ」
話が長くなるからと言って、その場に座らされる。
「何を置いても、まず知っておかなければならないのは、すべての魔法の基礎、根源が『召喚』であるということだね。魔力――魔法エネルギーを用いて、そこに存在するはずのないものを召し出し、顕現させること。それが魔法の本質さ。古くはシャーマニズム、神降しから始まり、現在まで連綿と続く魔法の歴史の中で、それだけは絶対に変わらない」
ルディオラさんは地面に突き刺していたツヴァイヘンダーを引き抜くと、その切っ先で地面に大きな円を描く。
「魔法エネルギーと言うのは、言うまでもなくこの世界の一部でね。まぁ、それゆえに召喚の顕現媒体になるわけだけど――魔法使いの技量次第では、この世界にあるものなら何にでも変換できるって性質を持ってるんだ。だが、世界というのは我々に比べてあまりにも大きいだろ? だから、たいていの人間は世界全体を意識して魔法を行使すると、そのあまりの情報の多さに逆に変換の方向性を見失い失敗してしまう。そこで考えられたのが世界を分割して理解することさ。わかるということは分けるということってやつだね。そちらの言葉では『属性』とか『系統』と言うんだったかいね?」
そう言って、ルディオラさんは地面に書いた円を切っ先で四分割する。
「この世界にはまず大きく、四大という系統があるのさ」
「四大? って、火土水風のあれですか?」
「違うね。乾、神、坤、命で四大だ。……異世界では火土水風が四大なのかい?」
「ええ、まあ。そうですね。2000年以上昔の人が言い出した空想上の産物ですけど。……それで乾神坤命って言うのは?」
ルディオラさんは円を分割してできた四つの扇の中に、四つのひし形でできた星芒型の象徴、一つの稲妻形の象徴、同じ大きさの四つの円を密着させたような形の象徴、三つ巴の紋のような象徴を一つずつ書きいれていく。
「乾というのは大空のこと。坤というのは大地のこと。神というのは大空と大地をつなぐもの。命はそのまま生命のことさ。そして四大それぞれは……乾ならば天、日、月、星の四象。神ならば雷の一象。坤ならば火、風、土、水の四象。命ならば木、獣、人の三象にさらに分けられる。これらをすべてあわせた乾神坤命四大十二象が現在一番よく用いられる世界の分割認識の法だね」
十二象? はて、どこかで聞いたことがあるような……。
十二象……十二象……十二象神! 天の女神シャリス・ソラノイタル!
「あーと、それって……シャリスとなんか関係あったりします?」
その言葉に反応してルディオラさんは片眉をあげる。
「そりゃそうさ。そもそもこの分類認識は魔法が一般化してから千年ほどの紆余曲折を経て、最終的に古くから存在して多くの人に知られている十二象神の神話になぞらえて考えだされたものだからね」
「……十二象神って?」
「本格的に話し始めると長くなるから簡単に説明するとだね。十二象神というのは創造神《混沌秩序》、別の名をサ・セーラまたはツェーラと言うだけど――によって生み出された、世界の構成を維持するための十二柱の神々さ。太陽神ミクニサス、月の女神アマエラ、星神シンティーシュ、雷神トゥグナル、炎神キハラエ、風神アメト、土の女神ティエラ、水の女神ミナーリア、木神ヤアレ、獣の双神トワ・ローメワ、人の夫婦神オルティス・メルティエール、そして……天の女神ソラノイタル。彼らをもって十二の象を司る神々――十二象神と呼ぶって話だよ」
ルディオラさんはちなみに、と言って、さらに話を続ける。
「《混沌秩序》と十二象神の間には四大神ってのもいてね。わかると思うけど彼女らはそれぞれ乾神坤命を司るんだ。乾の大神シャリス、神の大神リンカ、坤の大神アーウヤシヌ、命の大神メイツィオーネってね。その中でも乾と神の大神はそれぞれ十二象の中の天と雷を司る神位を兼任していてね。それで神の中でも例外的にシャリス・ソラノイタル、リンカ・トゥグナルみたいな名で呼ばれる。シャリスのあの名は両方名前で姓はないんだよ」
そう言ってルディオラさんはシャリスの方を見た。
シャリスは日陰で眉間にしわを寄せながら本を読んでいる。
……例のあの本の続きか?
「――少し話がそれたね。話を元に戻すよ」
シャリスの読んでいる本の中身が気になったが……意識をルディオラさんに戻す。
「その十二象の系統ってのは、得意不得意が生物種によってわかれるって性質があるんだよ。普通の人間が得意なのは神の魔法『雷』、坤の魔法『火風土水』、そして命の魔法『人』ってところだね。これは人間が大地に生きる生命だからだろうね。『人』の魔法は言わずもがな。『雷』の魔法は大地に落ちてくるというつながりがあるしね。他の系統は……よほどの才能か、それぞれの十二象神の加護がないと難しいって話を聞くね。……あんたの場合はシャリスの加護があるみたいだし、修行次第によっては乾の魔法『天日月星』とかも使えるようになるだろうね」
説明はこれぐらいにしておいて、そろそろ実践に移ってみようかとルディオラさんは言う。
「まずは身近な坤の魔法――『火』の初級魔法からいってみようか」
立ち上がってズボンについた土をはたき落とす。
そして見知らぬ服を着ていることに今気がついた。
昨晩寝た時はちゃんと寝巻だったのに……。
何故か、『ぬののふく』っぽいものと『かわのくつ』っぽいものを……装備している。
これは……
武 器:---
頭部防具:---
腕部防具:---
胴部防具:ぬののふく
脚部防具:かわのくつ
装飾品1:チタンフレーム・メガネ
装飾品2:---
ってやつか? ……いやいや、ぬののふくは防具じゃないだろう。
シャリス……用意するならもっとましなものをくれればいいのに……。
それに比べてディオラさんは……
武 器:ツヴァイヘンダー
頭部防具:じまえのあたま
腕部防具:じまえのじょうわんにとうきん + ごついガントレット
胴部防具:じまえのきょうきん + かたそうなよろい
脚部防具:じまえのだいたいきん + こうてつせいっぽいグリーブ
装飾品1:たかそうなマント
装飾品2:みんぞくこうげいひんっぽいみみかざり
……めっちゃ強そうなんですけど。
「何ぼさっとしてんだい! こっからが本番なんだ。気ぃ抜いてると自分の炎で丸こげになるよ」
その声に我に返ってルディオラさんの顔を見る。
……なんだかいつか愚図は嫌いだよ、とか言われそうな気がするのは気のせいだろうか。
思いのほか長くなったので、2回に分けます。
……軽いノリで無駄設定をつっこむからだろうか。予定通りに行かない。
ちなみにですが、グァルディオラの名前はグァルディオラだけです。その後のレギーナ・~は名前じゃありません。あれです。レオナルド・ダ・ヴィンチがヴィンチ村のレオナルドさんっていう意味なのと同じ感じです。ですから、あれはアルトリーウェル西の森のトカゲの女王グァルディオラと名乗っているわけです。……これも無駄設定の一つ。