3.リザード……と次善の神さま
ぜんかいまでの すてーたす
守鷹 異世界人 レベル17
耐久力(HP) :1/9578 魔力容量(MP):0/768
力 :161 魔 力:93
すばやさ:118 幸 運:21
体 術:132 魔 術:61
シャリス・ソラノイタル 天の女神(人間擬態) レベルMAX(100)
耐久力(HP) :80000/80000 魔力容量(MP):5000/5000
力 :MAX(1000) 魔 力:MAX(1000)
すばやさ:MAX(1000) 幸 運:MAX(1000)
体 術:MAX(1000) 魔 術:MAX(1000)
腕を組んで瞑目し、シャリスは語る。
「ターゲットとなる男女についてだが――男の方はラノン・ファング・フォーカスという。18歳でキャリア7年の傭兵だ。女の方はノナロスフィア・ロゼブラン、こちらも18歳。職業は……天使? ……いや、魔女だから女神の使い魔というべきか」
――ああ、女神と言っても私の事ではないぞ? 私の母、創造神ツェーラの使い魔だ。
と、瞑目したままシャリスは続ける。
「創造神の使い魔って……なんか無駄にすごそうな気がするんすけど……」
「あーいや、そうでもない。確かに創造神の使い魔と言ってしまえば聞こえはいいがな。そもそもの創造神自体が、おそらく少年の考えているような存在ではない。……ツェーラは世界を造りはしたが、全知全能ではないのだ。いや、むしろ、そこら辺にいるちょっと風呂敷の大きなおねーさんとでも認識しておいた方がいい。……少なくともその方がそばにいる時は被害が少ない」
……なんじゃそりゃ。
また創造神への愚痴を語り始めかけたシャリスを何とか押しとどめ、とりあえず一通りの説明を終わらさせる。
話を詳しく聞いてみると、俺に求められているのはキューピッド的役割ではなく、せいぜい言ってキューピッドの助手って感じ程度のものらしい。シャリスがあの手この手で二人の仲を取り持つから、その手の神ゆえの大味加減を、人間的視点からフォローするのが俺の役割であると。
わざわざ異世界の人間にそれを頼む理由を聞いてみたがお茶を濁されて聞きそびれた。どうもまだ何か裏があるらしい。
どうでもいいが、説明が終わってそろそろ異世界に行こうかと言うシャリスに
「あれ? そこは逝こうかじゃないんすか?」
と聞いたら――
「締める時は締める。緩める時は緩める。それができる女神というものだ」
と鼻で笑われ異世界に蹴り落とされた。すげーむかつく。
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次善の神さま
3.リザード……と次善の神さま
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「……で? ここはどこだよ?」
見回せば森の中。
おそらく針葉樹林の森だろう。
うっそうと茂るその木々は人の身の丈より5倍は大きく、昼間らしいのに周りは夕方のように薄暗い。
そして外気も少し肌寒かった。
「ここはリザードマンの集落……隠れ里の入り口だ」
シャリスはついて来いと言って、無造作に木々の間を歩きだす。
それを追いかけながら問う。
「……リザードマン? って、あのRPG的リザードマン?」
「うむ。正確には魔法動物門・魔竜綱・人頭目・バイペド科・バイペド属・リザードマン。れっきとしたドラゴンの一種で、体長は2m前後が普通。独自の言語を持つが、人語で意思疎通することもできる、魔竜綱の中でも屈指の頭脳を持つ連中だ」
今からそのリザードマンのいる集落に向かうと言うシャリス。
聞けば、なるほど何となくゲーム世界常連のトカゲ男というのが実は思いの外、すごい存在らしいと言うのはわかる……わかるが、しかし――
「……いや、魔竜綱って何?」
「……いわゆる魔物の一種族のことだ」
言ったであろう? とだけ一拍置いて、シャリスはよどみなく歩き続ける。
その白いワンピースも薄暗い森の中でひらひらとひらめき続ける。
それはまるで世界にぽっかりと空いた空白のようだった。
「こちらの宇宙には魔物がいる。それら、イレギュラーズと呼ばれるものは……多くのものが魔法突然変異によって生まれるが、少なからず交配によって生まれる個体も存在する。種が変化するほどの遺伝子突然変異が起こった個体は変異前の種との交配能力を失ってしまうのが普通だが、魔法突然変異においてはその限りではない。それゆえに彼らにも普通の生物と同じような種族と言う括りが発生した。その中には過去にドラゴンと呼ばれた一連の種族がいるんだが、その中にそのまんまドラゴンと言う種も存在してな。それでは呼ぶ時に紛らわしいという話になって、後になって種族全体のことを言う場合には魔竜綱という言葉を使うことになったのだ」
わかったような、わからないような……
「世界には最もポピュラーなドラゴンの他にもリザードマンやクズリュウといった明らかにドラゴンとは形態の異なるドラゴンが存在する。それら様々な種類のドラゴンをすべてひっくるめた呼び名を魔竜綱というのだ。ちなみにドラゴンと呼ばれるドラゴンは、正確には魔法生物界・魔法動物門・魔竜綱・単頭目・ドラゴン科・ドラゴン属・ドラゴンという。……ふむ、加えて言えば現在魔竜綱では4つの目、6つの科、8つの属で16種2亜種1変種が確認されているな」
世界にとってイレギュラーな存在。それを魔物と呼ぶのだ、とシャリスは言った。
下草がほとんど存在しないその森には苔むした岩がごろごろと転がっていた。
舗装された道を歩くようにサクサク進むシャリスに遅れないように歩きやすい場所を探しながら、小走りで歩きつつ話を続ける。
「で? なんで、そのリザードマンの隠れ里に行くんだ? 二人の近くにはいかないのか?」
「お前と私の当座の勉強のためだ。私は確かに大陸の名前や人間に関する大まかな情報を持ってはいるが、それは神としての立場で得たものだからな。その知識は普通の人が持つものとはまったく異なる。おそらく人の中に混ざって生活する上では私のそれはまったく役に立たんだろうから、二人に接触する前にどこかで勉強しておいた方が無難であろうという話だ」
そこまで話すとシャリスが立ち止まって振り返った。
「私もはじめは一人で頑張ってみたんだが……これを見てみろ」
そして懐から一冊の本を取りだす。
「それは私が、人間――とくにその恋とか愛とか――について理解しようと思って手に入れた本だ。最近人間たちの間ではやりの恋愛小説というものらしい」
投げ渡された本の表紙には『ヨシュアとアレクサンドラ1 ポーラ・スターリアイ著』と書いてあった。
知らない文字で書かれていたが何故だか読めるのが気持ち悪い。
これが調節したってやつかと内心思いながら本を開いた。
(あぁ、アレクサンドラ! 君はなんて美しいんだ! まるで世界を救うために天から舞い降りた天使。いや! 穢れを知らない美の女神のようだ! その明るい栗毛に健康的な赤い頬。愛くるしく純真な輝きをはなちながら、思慮とやさしさにぬれた青い瞳! 眉はまるで栗色の美しい三日月のようだ。低すぎず高すぎない、慎ましやかでかわいらしい鼻。その下にはみずみずしく、それでいてちょっぴり艶やかなくちびる。完璧だ!)
ヨシュアは朝日を浴びて輝く最愛の人を見てほほ笑む。
(あぁ、ヨシュア! あなたはなんてかっこいいの! まるで古の伝説に出てくる世界を護る英雄、いえ! 恐れを知らない戦いの神のよう! その深く暗い髪に小麦色にやけた肌。子供のそれのように光をあふれさせながら、慈愛とやさしさをたたえた緑の瞳! 力強い流星のような黒い眉。意志の強さを感じさせる、まっすぐで美しい鼻。その下にあるくちびるはとても艶やかで私の心をつかんではなさない。完璧だわ!)
アレクサンドラはヨシュアの笑みに微笑み返した――
そこまで読んで、黙って俺は本を閉じた。
これはなんか違うんじゃないか?
いやでも、俺もなぁ、恋人なんていたためしがないしなぁ。
うーむ、しかしこれは……
「なぁ、これって……」
「……それを読み進めるとなぜか気力が失われていくのだ。まるで呪いの本だよ。私には人間の恋愛というものがわからない」
いや、わからないって……というか、これ、ただの底抜けのバカップルの話のような気がするんだけど……
「まぁ、そういう私にはわからない人間的機微というものの補佐として守鷹が呼ばれたわけだが……それでも最低限のことを私自身が学んでおいても損はないだろうと思ったのでな。知り合いのつてをたどっていろいろと教授させてもらうのだ。守鷹に関して言えば、この世界になれてもらうという理由とある程度の護身術を学んでもらうという理由もある」
それだけ言うとシャリスは本を回収して再び歩き出した。
「ああ、それから何故それをリザードマンの里で学ぶのかと言うとだな。そういう心の機微のに詳しいのがそこにいるからだ。それと彼らが人間を客観的に評価できるというのもある。あと守鷹が護身術を学ぶのにちょうどいい場所でもあるとも言えるな」
それからしばらく歩き続けた後にたどり着いた森の中にぽっかりと空いたかなり大きなギャップの中にそれはあった。
なんて言うか、見た目は人間の集落とそんなに変わらない。
唯一はっきりと違うと言える部分は、石造りの家と木造家屋、煉瓦の家がランダムに並んでいることぐらいだ。
シャリスはあそこだと言って立ち止まることなく集落の入口に向かって歩いていく。
入口にはたくさんのリザードマンが待っていた。
ひょろ長いのや横に広い奴、小さいのに腰が曲がった者。
ただそれだけだったなら普通の人間の集落と変わらないが、そのみんなが灰緑色の鱗持ちと言うのが……。
リアルで見るとちょっと怖い。
「グァルディオラ! 来たぞ。頼んでいたものは用意できているか?」
そう言ってシャリスが話しかけたのは、その村人たちの中でもひときわ大きな(横に)リザードマンだった。
「――ああ、他でもないあんたの頼みだ。万全だよ」
それに応えるグァルディオラ(?)。その声は思いのほか美声だった。
見た目からは性別が判断できないが、おそらく女性だろうと思われる。
彼女の顔はどうみてもトカゲだった。
だけど、爬虫類に感じられる冷たさは微塵も感じられない。
それはその理性の光をたたえた瞳と豊かな表情、
そして本当によくしゃべるらしいその口のためだろう――
おかしい。
今回でチュートリアルが終わって……次で対象と接触するはずだったのに……。
行きつけなかった。
必要のない魔物の設定とかを入れたからだろうか。
となると、しかたないのか。
分類って自分的にロマンが詰まってますから。
魔竜綱には単頭目、多頭目、人頭目、角頭目があって――
単頭目にはドラゴン科とフクロドラゴン科。
多頭目にはポリヘッド科。
人頭目にはバイペド科。
角頭目にはモノホーン科とトリホーン科。
そしてそれぞれの科にはドラゴン属、強ドラゴン属、フクロドラゴン属、ポリヘッド属、バイペド属、モノホーン属、アウトフィット属、トリホーン属って具合にいろいろと種類がわかれる。
まぁ、どう考えても無駄設定でしょうが……
次回は初心者のトカゲ穴と次善の神さまってところです。