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「それで?……私の専属の先生さん。災厄ってなんなの?」
紬は歩きながらズルという青年の横に近づきながら言った。ズルの顔立ちはまだ少年と呼んでもおかしくないくらい少し幼さが残っていた。
「紬さん。君はまだ科学文明についてあまり知識がないのでしょう?」
「うん。そういう星に来たのもはじめてよ。今のところあんまり他の星と変わったとこはなさそうだけど」
紬は森の中の小道を歩きながら回りを見渡した。他の星でもよく森のなかで見かける木々があって、何の変哲もないように思える。
「だったら」
ズル少年は紬に諭すような話し方をした。
「まずは科学文明がどういったものかということから知っていきましょう。いきなり星が壊れて生物が大絶滅するほどの災厄の話しをしても理解できませんからね」
紬はズルが冗談を言っているか、話を盛って大げさに言っているのだろうと思い、ズルの顔を見たが、なんだか冗談を言っているような顔に見えなくて困ってしまった。
「ズルって呼ぶわね。ズルが冗談を言っている感じしないのが少し怖いわ」
「彼等に冗談は通じません。気をつけるべきです」
「彼等?科学文明の人たちのこと?魔法使いのように科学使いがいるのかな」
ズルは少し首をかしげたが、
「ええ。います。それに……」
ズルが思わせぶりに言葉を切ったから紬は少し苛立った。
しかし次の言葉で紬に気を使ってのことだと分かった。
「機械人間」
「きかい……にんげん……ホムンクルスのような存在がいるのね?」
「います。彼等は魔法の代わりに機械を使いこなします。そして僕たち魔法使いが土人形、ホムンクルスを造るように、彼等も機械人間を作ります。彼等はその人造人間のことをアンドロイドと呼ぶ」
「アンドロイド……」
今まで正木やリンとの話しの中では出てこなかったことだった。しかし、それもありえるだろうなと紬は思った。魔法使いたちだって、いろいろなことを手伝わせるためにホムンクルスを造って従わせる。同じことを科学文明の人間たちもやったっておかしいことじゃない。
「ホムンクルスは便利だもの。掃除洗濯お料理に子どものお守り。いろんなことを手伝わせらるしね。とくにお金持ちの魔法使いたちはみんなホムンクルスを持っているでしょう。科学の人たちも同じことを考えてその機械?の人間を造っても不思議じゃないわね」
ズルは紬の感想を聞いてこくりこくりと頷いた。
「そうですね。たしかに。僕なんかは戦闘アンドロイドの恐ろしさばかり思い出してしまうのですが」
戦闘アンドロイド。
私もそれと同じような存在なのかもしれない。
戦闘ホムンクルス。
紬は少し悲しい気持ちになった。それだけじゃないって自分では思っているけれど……。
「そうだ。先に気になっていることを教えてくれないかな」
紬は気分を変えたいこともあってそう言った。
「なんでしょう」
「この星はどれくらい離れているのか、とか。正木にゲート転移について聞いたんだけど、光の速さがどうのこうのとか、こうねん?とか言ってて良く分からなかったの」
「なるほど。いいですよ」
ズルはにっこり笑って答えてくれた。彼もアンドロイドのことを話すのは気が重かったのかも知れない。
「僕たちデニ隊は惑星『孔雀』から来ました。孔雀を知ってますか?」
「一度行ったことがあるわ」
「そうですか!また孔雀に寄られる機会があればぜひ孔雀の魔法料理をご馳走させてください。デニと僕の知り合いがやっている良いお店があるんです」
「いいわね」
紬もそういうことなら否やはなかった。
「正木さんたちは確か惑星『群青』から来たのですね?」
「そうよ」
「孔雀と群青は同じ銀河の中にあります」
「……?」
紬はズルの言葉を頭の中で繰り返してみたが良く分からなかった。同じ銀河のなか?
「孔雀と群青は……そうですねえ、たぶん五千光年くらい離れていますね」
「出た。こうねん。五千光年??」
「はい。今いるこの星は、孔雀と群青がある銀河とは別の銀河にあります。だからものすごく遠く離れたところにあります。ちょっと細かい数字は分かりませんが百五十万光年くらいです」
「ズル……」
「はい?」
「言いにくいんだけど、お願いがあるの」
「どうしたんです?」
「あのね、私をね、何も知らない幼稚園児だと思って教えてくれないかな」
ズルはそう言われて楽しそうにあははと笑った。