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科学文明探訪【Web版】  作者: 橋本禰雲
第十章 決闘
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 つむぎは手早く報告した。フェルミの妹、アマンダと出会ったこと。アマンダは体をかなり機械化しているらしいこと。アマンダに戦闘訓練の試合を申し込まれたこと。


 アマンダの装備の様子を聞いてデニが言う。


「長剣を持っているってことは接近戦を得意としているかもしれないな。それなら俺がやるほうが良いんじゃないか?」


「いや。つむぎで良い」


 正木はすぐにそう言った。


「装備の状況だけじゃ接近戦が得意かどうかは分からないし、もしそうだったとしてもつむぎには対策を教えてある」


 つむぎは惑星『群青』での戦闘訓練を思い出した。訓練はつむぎの得意な空中戦を伸ばすように、そればかりやっていた気もしたが、確かに地上戦の訓練も少しあった。


 正木やデニのような接近戦が得意な魔法剣士と違って、つむぎは遠隔魔法攻撃が得意なマジックキャスターである。接近戦で対応できる味方がいない場合に、近接攻撃職と戦う場合はとにかく距離を取れと教えられた。魔法攻撃には詠唱時間が必要なので、接近戦になってしまうと素早く攻撃できる相手には分が悪い。


 つむぎは唇をぎゅっと結んで頷いた。


「良い経験にもなるだろう。相手を殺してしまわないように攻撃魔法レベルは抑えること。相手にもゴム弾を使ってもらおう」


 正木はむしろつむぎがやりすぎてしまうことを心配するように言った。






 訓練場は地下アジトの中にあった。だだっ広いホールのようになっていて天井の高さも充分にある。戦闘訓練の試合をひと目見ようとレジスタンスの兵士たちが大勢集まってきた。彼らは魔法使いがどのような戦いをするのか興味津々という感じだ。


 リンはつむぎの準備にあれこれ世話を焼いていた。つむぎの周りをくるくる回って装備の点検を手伝っている。つむぎの戦闘服の革のベルトをきつく締めながら言った。


つむぎ。気をつけてね。相手が体を機械化しているんなら、上位の魔法剣士と戦うつもりでいないと」


 上位の魔法剣士? 正木のような? 正木レベルだとしたら万に一つも勝ち目はないとつむぎは思った。尋常ではないスピードと技を兼ね備えている魔法剣士なのだから。


 デニだったらどうだろう。良い勝負ができるだろうとつむぎは思った。デニとだったら集中していれば距離を取ることはできるだろうし、技の読み合いで上回れば勝てる気がした。


 結局は相手のレベル次第なんだ。


 そのレベルを高めるために、魔法使い冒険者は日頃から研鑽を積んでおかなければならないのだ。


「リンだったらどう戦う?」


 つむぎは尋ねた。リンは召喚魔法が得意なサマナー系魔道士だ。戦い方は違ってくるだろうが、参考になるかもしれない。


 リンは首を傾げながら人差し指を唇に当てて考える様子を見せた。


「リンはねえ……。相手がどんな戦い方をするのか良く分からないから、とりあえず近接攻撃ができる召喚獣を出して戦わせる! リンは距離を取るようにして、召喚獣とは反対属性の遠隔魔法攻撃をしてみるかな!」


 基本通りのやり方だ。近接職メレーの味方がいる場合にも同様な戦法を取ることになるだろう。味方には遠隔魔法攻撃の属性に対する動的防御魔法をかけておく感じだ。


 召喚士サマナーはいいよね。味方を召喚できるんだから。


 でも、似たようなことができないわけじゃない、とつむぎは思った。


「参考にするね。ありがとう」


「うん! がんばって」


 訓練場の中心にレジスタンス側の士官が一人出てきて声を張り上げた。


「これより魔法使い冒険者、つむぎと、レジスタンス軍兵士、アマンダの戦闘訓練試合を行う! 両者とも正々堂々戦ってもらいたい。銃器には訓練用ゴム弾を使うこと。魔法攻撃は威力を抑えてもらう約束となっている」


 つむぎは攻撃魔法の威力を大幅に抑える指輪の魔具を確認した。古代の魔法使いが作った訓練用の魔具である。これを身に着けていれば自分で魔法レベルを抑えることをしなくてすむし、より安全だ。念のため効果を確認するため攻撃魔法を詠唱してみる。


 つむぎは魔法の杖を天井に向けた。光り輝く紋様が刻まれた魔法陣が杖を取り囲んで、そこから天井に向けて稲妻のような光がほとばしった。


 バチン! と猛烈な音がして天井とつむぎの杖がまばゆい光で繋がったように見えると、周りのレジスタンス兵が驚きの声を上げた。


 オーケー。ちゃんと威力は抑えられている。でも、あれ?


 周りの兵士たちの顔には驚きと恐怖の色が浮かんでいた。攻撃魔法の派手な見た目は、はじめて見るのであれば驚いてしまうのも無理はない。


「……アマンダは木剣ぼっけんを使う。つむぎ……の杖は木製であるな」


 観戦者たちから軽い笑いが起きた。


「致命傷となりえる攻撃を受けた場合は試合終了とする。それでは両者こちらへ」


 アマンダは颯爽とした足取りで訓練場の中心まで進み出た。グレーの戦闘服は真新しいものに変えられており、腰には木剣を提げ、ライフル銃を手にしていた。拳銃のホルスターも腰についていた。拳銃にもゴム弾が装填されていますように、とつむぎは願った。


 つむぎも歩いて前に進み出たが中央までは行かずに距離を取った。邪魔になるので魔法拳銃のホルスターは置いてきた。魔法の杖だけで戦うことにする。


 レジスタンス士官が退避するため歩き出す。


 つむぎは手早く構築してあった魔法術式から動的防御魔法を自分にかけた。加えて、防御魔法フィールドを二箇所設置する。最近、並列して準備できる魔法術式の数が増えたのも、自分の戦闘力が上がってきたなと感じる点だ。


 士官が観戦者がいるほうへ退避してから叫んだ。


「試合開始!」


 アマンダはライフルを両手で掴みはしたが、すぐには動かなかった。先程見せられたつむぎの雷撃魔法を警戒しているのかもしれない。あれを撃たれ、命中すればしびれて動けなくなるに違いない。魔法の威力を抑えていなければ致命傷となるだろう。


 つむぎも魔法の杖を構えたまま動かなかった。相手がどのような動きをするのか様子を見たかった。とにかく距離を詰められてはいけない。近づいてきたら離れなくては。


 アマンダがゆっくりとした動作でライフルを構えて引き金を引いた。


 バーン。


 乾いた銃声がした。


 つむぎは杖を繰り出し、杖に仕込んであった魔法の防御シールドで弾丸をはじいた。杖の防御シールドが弾丸をはじくときに丸い板状に光ったので、観戦者にはつむぎが防御に成功したのが視覚的に分かった。感嘆の声が上がる。


 バーン、バーン、バーン。


 アマンダが続けて三弾連射した。


 つむぎは杖を巧みに動かし、頭部、脚部、胴体部への射撃をはじいて防いだ。


 アマンダは猛然と前に進んできた。よく見るとライフル銃への装填操作をしながらだ。


 つむぎもじっとしてはいなかった。とにかく接近戦になるのはまずい。右後方に走る。同時に雷撃魔法の詠唱を開始した。


 観戦者にはアマンダが前に走るスピードも人間とは思えない尋常でない速度に見えたが、つむぎのスピードも同等に見えた。


 アマンダは脚部の機械化により、人間よりも数段上のパワーとスピードを備えていた。


 つむぎの体はホムンクルスという魔法を使って造られた人造人間であったが、脚力のような力は人間と同じだった。しかし、つむぎは事前に脚力を強化して地面に伝える自己強化魔法をかけていたのだ。


 つむぎの魔法の杖の先が光り輝き、雷撃がアマンダに向かってまっすぐ向かって行った。


 アマンダは尋常ならざるスピードで体を横にずらしてそれをさけた。雷撃はアマンダの体のすぐ横を通り過ぎて行き、まっすぐ観戦者のほうへ向かって行く。


 危ない!


 観戦者の皆が思ったが、雷撃は観戦者のすぐ手前で、何かの壁に当たったかのようにまばゆく光って消えた。


 これはあらかじめリンが観戦者を守るために設置しておいた、防御魔法フィールドのおかげであった。


 アマンダは走りながら射撃体勢を取った。両足が惰性によって地面を滑って行く。滑りながらつむぎに向かって連続して射撃した。


 バンバンバンバーン!


 つむぎは走りながら杖で三弾目まではうまく弾き返したが、四段目が右腕に当たった。


「痛っ!!」


 ライフル銃で撃った弾丸はゴム弾とはいえ、当たるともの凄く痛かった。しばらく右腕では杖を握れそうにない。


 しかし、片腕ででも杖さえ持てればまだ戦える。


 つむぎは距離を取るためのスピードを緩めずに走った。しかしアマンダはまっすぐつむぎに向かっているのに対して、つむぎは円を描くように訓練場の周囲を巡っているものだから、走るスピードは同じくらいでも、自ずと距離は縮まった。


 つむぎは杖を振って魔法攻撃を繰り出した。今度は火炎の魔法である。しかしそれはアマンダには届かず、地面に横一文字を描くようにして放たれた。


 地面から猛烈な火炎が三メートルほどの高さのある壁のように沸き立った。


 アマンダは、炎の壁を通ることの危険を感じてスピードを緩め、それを迂回するようなコースを取った。


 その隙に、つむぎは距離を取って、魔法攻撃の態勢を取ることができた。魔法を撃つためにスピードを緩めざるを得ないが、アマンダに向かって雷撃魔法を放った。それも二弾続けて。アマンダは前方に走りつつ、横っ飛びで一撃目を避けた。二撃目は曲芸のように上空にジャンプして避けたから観戦者から大きな声が挙がった。


 しかもつむぎは魔法攻撃を連続で行ったことで移動スピードが抑えられ、アマンダが肉薄することを許した。アマンダはライフルを捨て、木剣を手に取って最大戦速でつむぎに近付いてくる。


 しかし、これはつむぎが最初から仕込んでおいた巧妙な罠だった。つむぎが、戦闘がはじめる前に設置した防御用の魔法フィールドがあった。そして戦闘を続けるうちに、訓練場を周回してきて、今や最初の位置まで戻ってきたのだ。


 アマンダは泥の沼地に陥るように下半身が地面にめり込んでしまい、つむぎの目前で足止めされた。必死に脚を動かすが、重い泥にはまってしまったように脚が動かない!


 つむぎが設置した特殊な魔法フィールドは、水分で地面を重い泥に変えてしまう巧妙な罠だった。しかも泥の外見は元のままなのである。


 つむぎは攻撃魔法と自分の移動ルートによってここにアマンダを誘った。そして見事アマンダはその罠にはまってしまったというわけだ。


 つむぎはアマンダが泥にはまって動けなくなってしまったのを見た。


 見た……その見たという刹那の時間がいけなかった。


 気づいたときには背後から猛烈な殺気を感じ、振り向いた。視界にはアマンダがいて、自分の頭に向けて木剣を振るっているのが見えた。


 木剣はつむぎの顔の直前で止まった。


「それまで!」


 レジスタンス士官の声が響いた。


 攻撃を頭にまともに食らっていたら、いくら木剣といえどもつむぎは重傷では済まなかったかもしれない。ホムンクルス体だが、人間とほぼ同じように造られているのだ。


 つむぎは訳が分からなかった。アマンダが泥にはまって動けなくなった。あとは自分が雷撃魔法でアマンダを仕留めるだけだったのに……。


「油断したな、つむぎ


 アマンダは言った。彼女はなぜか下着姿だった。


 つむぎは呆然としながら自分の設置した泥の沼の罠のほうを見た。


 そこにはもう一人のアマンダがいた。罠にはまって動けないアマンダ……いや、映像がちらついてかき消えた。立体映像だったのか……。罠の沼にはアマンダの戦闘服だけが残されていた。


「罠にはまった私を見たお前は一瞬隙を見せた」


 その隙を使って、立体映像で私の目をカモフラージュしつつ、戦闘服を脱いで上空にジャンプして私の背後に回った!? 戦闘服を一瞬にして脱ぐなんて私には無理だけど、機械化したアマンダなら可能だったってわけね……。


 つむぎは悔しさが募ってきて唇を噛んだ。


「アマンダの勝利!」


 士官の声が響くと観衆は一斉に拍手をして歓声を挙げた。


 アマンダの部下が近寄ってきて上着をアマンダにかけてあげた。


「あの隙がなければ私の負けだった」


 つむぎが躊躇せずに雷撃魔法で罠にはまったばかりのアマンダを撃っていればという意味だ。


つむぎは強いな。潜入作戦も楽しめそうだ」


 アマンダはそう言って観戦者のほうに手を上げつつレジスタンス兵たちのほうへ歩み去って行った。


 アマンダは強いと言ってくれたが、つむぎは悔しさと情けなさで顔を真っ赤にして動けなくなった。


 正木とリンが近付いてきた。リンはすぐにつむぎの腕に修復魔法をかけてくれた。痛みがすーっと引いていく。


 正木はつむぎの目を覗き込んで、悔しさの炎が目の中に燃えているのを確かめただけで何も言わなかった。


 リンが修復魔法をかけおえ、つむぎのようすを確認してから、


「もう大丈夫」


 と言うと、正木も安心したような顔をした。

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