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魔法使い冒険者たちに割り当てられた会議室で、正木はトピカアンドロイドを相手にトピカタワー潜入作戦の細部を検討していた。安っぽいパイプ椅子に座り、両脇には正木がチームを離れた場合に指揮を引き継ぐデニとズルもいた。頑丈なだけが取り柄のように見える金属製の大型デスクの向かいにはニーナとハクがいた。
ニーナは手首から映写機を繰り出して、デスクの上に立体映像を表示させていた。トピカタワーの図である。ニーナは思い通りに映像を操作し、トピカタワーの図を拡大したり、内部の断面図を表示したりできた。
正木たちはトピカタワーの図とニーナの話を聞いて、中央人工知能トピカは、トピカタワーの地下部分に存在する可能性が高いという結論に達しようとしていた。
もしトピカが自由都市ビアネが受けたような核攻撃にさらされた場合、地上から上の部分は破壊されてしまうだろうからだ。地下部分であればそういった攻撃に耐えられる強度をもたせられることが可能だ。核シェルターと呼ばれる防護施設は地下に造られることが前提になってもいた。
トピカ破壊作戦の潜入部隊は、先に述べたように、人工知能トピカを発見できなかった際、核爆弾を設置してトピカタワーを破壊するBプランとも呼べる作戦を構想から排除してはいなかった。正木たちはこう検討した。トピカタワーの地下に向かって潜入し、トピカの位置を探る。もし発見できなかった場合は地下に核爆弾を設置して爆破させる。
バーシに聞いた潜入部隊が持っていく核爆弾の性能をハクに伝えて、トピカタワーの地下に設置した場合、トピカタワーを破壊できるかと問うた。
「私は中央政府トピカの端末です。トピカの不利益になる質問にはお答えできません」
「……では、トピカタワーと同規模のビルディングがあったとする。トピカのメトロポリスではない都市にだ。その場合はどうなる?」
正木は同じことではあるが、聞き方を変えて質問した。
「先ほど伺った核爆弾の性能では半径200メートルのあらゆる物体を超高温度で消滅させる威力を有します。そのビルディングの地下部分が核シェルターとなっていたとしても、壊滅させることができるでしょう。さらに地下部分が破壊されると地上部分のビルディングは倒壊することになります」
ハクはこのようにして正木たちに有用な情報を提供してくれた。
「トピカの設置場所もそうですけど、さらに問題は、例の『無垢な子どもたち計画』ですね」
ズルが言った。
「その子どもたちの居場所が分からないことには、いくら正木さんでも救出することなんてできませんよ」
「そうだな」
正木は同意した。
「ニーナ。何かないか?」
正木が問うとニーナは呆れたような顔をわざとらしくした。
「正木。なんでもあたし頼りなんじゃない。あたしが連れてってって言わなかったらどうするつもりだったの?」
からかうようにニーナが言った。正木の眉間にシワが寄ったのを見てデニとズルは、表情だけでニーナに、正木を怒らせるなと必死にアピールした。
ゴホン。
ニーナは一つ咳払いすると続けた。
「一つ考えがあるわ。あの計画を主導した者なら子どもたちの居場所を知っていると思うの」
「それは誰だ?」
正木が小さい声だが鋭く尋ねた。
「あなたたちも良く知っているトピカの高官よ」
「ダンサーだな」
デニが誰よりも先に言おうとして勢い込んで言った。ニーナは頷く。デニが続けて聞いた。
「子どもたちはどこにいるんですか~ってダンサーに聞きにいくのか?」
「あなたたちなら警備の者を倒してダンサーに近づけるんじゃないかなって思っただけよ」
「ダンサーの居場所なら分かるのか?」
正木の声は少し期待が籠もっているように、デニとズルには聞こえた。
ニーナは言葉では答えずに、デスクの上の立体映像を操作した。トピカタワーの映像がタワーの上部に拡大される。タワーの中に入り込み、広々とした部屋のある断面図を示した。
「地上……295階ですね。地下とは真逆だなあ」
ズルが示された文字を読んだ。指にはめた魔具のおかげでこの星の文字でも読めるのだ。
「どうしてダンサーがここにいることを知っているんだ?」
「ダンサーには何度か呼び出されたことがあるのよ……。夜にね」
正木の問いにニーナは即答した。意味深な言葉の最後に、ニーナは不快そうな表情をした。
「あいつを捕らえて、あなたたちがこの首枷とかを」
そう言ってニーナは自分の首に巻きつけられた魔具を手で示した。
「使って、無垢な子どもたちの居場所を聞けばいいんだわ」
本当だとすれば、なかなか有益な情報だった。正木は腕を組んで考え込む。
「それに……。あいつはトピカの居場所も知っているかもしれない。知っていなくても、あいつはあたしなんかより上のアクセス権限を持っているはずだから、ダンサーの権限でトピカのネットワークにアクセスして、情報を調べれば分かるかもしれない」
ここで扉が開いて紬が部屋に入ってきた。
「正木! 聞いて」
つかつかとデスクに近づくために歩いてくる。
正木は手を上げて紬を制した。大事な話をしているから少し待てという意味を込めて紬に視線を走らせた。紬は立ち止まってデスクを囲む者たちを眺め回した。
「ズル。どう思う?」
正木はズルに問うた。
ズルはこのような状況で正木が自分の意見を聞いてくれたことに嬉しさを感じたが、同時に難しい質問だと思った。少し考え込む。
「……今はトピカの居場所も漠然と地下にあるだろうという予想しか立てられていません。何の手がかりもなく潜入しても、あの核爆弾を使わざるを得ない状況になってしまうと思います」
「あれはできるだけ使いたくない」
正木は思い出したくない光景を追い出したいと願うように頭を振った。
「でもなぁ、正木」
デニが難しい顔をする。
「それならニーナを信じてダンサーをとっ捕まえにいくしかないぜ」
「あら。デニはあたしのこと、信じられないっていうの?」
ニーナは顎を上げてデニを見下すような仕草で言った。デニは両手を広げた。
「自分の国を簡単に裏切るような奴は信用できないね」
ニーナは舌打ちして横を向いた。機械の人工知能で動いているとは思えない人間ぽい動作だった。
「可愛い子ねと思っていたのに。あーあ。嫌になっちゃう……。ズル。あなたには可哀想なニーナを信じてほしいのだけど」
ニーナにそう言われて、ズルは目をぱちくりとした。
「信じる信じないということではなく、他に可能性がないのなら、このダンサーに接触する案を実行するしかないかなと」
「罠だったらどうするんだよお」
「疑ってしまえばきりがないよ」
「ニーナはトピカのアンドロイドなんだぜ。疑ってしかるべきだろ」
「警備は厳重だろうから対策は充分に考えるとして、ニーナだって僕たちと一緒に来るのにかなり危険な橋を渡っているんだ。そこも考えて上げるべきだよ」
「俺だってそこは考えてやりたいとこだが、見方によっちゃあダンサーが機械を使い捨てにしてる可能性だってあらあな」
「それは言い過ぎだよデニ」
「言い過ぎない程度に話し合って、突っ込んでったら罠でしたじゃ済まないから言ってんだ。失くすのは俺たち全員の命なんだからな」
「だけど……」
デニとズルの言い合いはずっと続くと思われたが、正木が手を上げて制すと二人はすぐに黙った。
「もういい……二人とも」
正木はそう言ってテーブルの傍らに立つ紬に視線を向けた。
「お前はどう思う?紬」
紬は聞かれると思っていた。この星に来てから正木はなにかに付けて紬に試練のようなことをさせてくる。こういう会話などでもそうだ。
「話を途中からしか聞いてないから良く分からないけれど……私、ニーナは信用しないほうが良いと思う」
ニーナは口を開けて上を向いた。そして首を曲げて紬を睨んだ。
正木はどうしてニーナは信用できないと思うのだ? とは聞いてこなかった。デニとズルの言い合いと同じことになるだろうと思ったのかも知れない。
「これで二対一だぜ」
デニが勝ち誇ったような声を出す。
「リンを呼んでこようか!?」
ズルは食い下がった。
「リンならきっとニーナを信用するって言うと思う」
確かに、と紬は思った。
「あの子はだめよ」
紬は言う。リンがそう考えられることを羨ましく思いながら。
「人を疑うことをしない子なんだから」
「二対二です」
ズルは正木にそう報告したが、正木に一蹴された。
「多数決で決めるものじゃない」
たしなめられてズルは消沈したがデニはいい気味だという顔をした。
「ふむ……」
正木はデスクの上で手を組んで考え込む様子を見せた。
ニーナはふてくされた様子でそっぽを向いている。
「ニーナ。そう怒るな。情報には感謝している。……作戦は当日までに私が決めておこう」
それでこの場の方針会議は終了となった。正木という百戦錬磨の冒険者リーダーがいると周りは楽だ。情報を与えられるだけ提供する必要はあるが、決断するという苦労は正木がやってくれる。彼が決めた作戦を集中して遂行すれば良いのだ。
正木は今まで、間違った決断を、少なくとも大きく間違った決断をしたことはないはずだ。だからこそ冒険者稼業を長年やっていて生き残っているのだ。
「それで? 紬。なにか言いたそうにしていたが?」
正木にそう言われて紬はアマンダとの試合についてのことを思い出した。
「そ、そう! 正木! 私、アマンダと決闘することになったの!!」
正木は冷静な態度で紬を見返していたが、デニとズルは決闘という言葉に驚いた。




