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森の奥の小道をさらに進んでたどり着いたのは、入り組んだ岩が複雑な山の斜面を形成しているところにある、木々や蔦の葉などでカモフラージュされている洞窟の入り口だった。
洞窟は暗く狭かったがしばらく進むと人工的な広々とした地下施設に入った。
たくさんの人が働いていて、ある区画では何かの機械を作製しているように見えた。
「あれ! あれは機械獣の脚じゃない?」
リンが作業台を指さして言った。
「そうだ。破壊したものや遺棄された機械獣の部品を集めてきて修復しているんだ。二台目の機械獣を造りたくてな」
フェルミが説明するとデニが口を挟んだ。
「あと二、三日でできあがるとは思えないが……」
トピカがレジスタンスを攻撃するまであと六日ほどしかないということを念頭に置いての台詞だった。
フェルミは鋭い目つきでデニを睨んだ。睨んだだけで、デニを無視して先に進み案内を続けた。
「こっちだ。司令部へ来てくれ」
フェルミが入っていった部屋は司令部とは言ってもガラクタのような機材が部屋の隅に置いてあり、大きな机とその回りに腰掛けれるようにチェアが置かれているだけの殺風景な会議室だった。十五人は座れる会議机があるので話し合いには良さそうではあった。
長い黒髪に細面の三十代くらいの男が一行を迎えた。
「ルチアノ。ビアネは残念だったな……」
そういって男はルチアノと握手した。
「バーシ。君の力を借りに来た。トピカはレジスタンスも一掃すると言っているしな」
ルチアノは旧知の間柄といった態度でバーシと呼んだ優男と接した。
優男。そう呼ぶに相応しい人物だった。レジスタンス軍の幹部というよりは、どこかの大学の研究員といった感じで白衣を着ていて、様々な技術書が並べて置いてある作業机で、いつも仕事に没頭しているという感じだ。
「私がレジスタンスのリーダーではあるが、実質的にレジスタンス軍を動かしているのはチーフのバーシだ」
フェルミは皆にそう彼を紹介した。
「そんなことはないよ。私は精一杯フェルミを補佐しているだけだ」
この男は危険だ。紬はそう思った。女性のものよりも綺麗かも知れないと思わせるくらい、流れるような長い黒髪。それはまっすぐに腰まで伸びていて艶々していた。甘ったるい声のトーンに知的な眼差し。紬は嫌いなタイプではなかった。だから危険だと思ったのだが……。
一通り紹介と挨拶をすませたのち、フェルミとバーシは少し待ってくださいと言い残して部屋を出ていった。これまでの話しを客人のいないところで共有したいんだろうなと紬は思った。
「お待たせしました」
しばらくすると、バーシ自らが人数分の冷たいお茶が入ったグラスをトレーに乗せてやってきた。
紬は冷たいお茶が喉を潤してくれたおかげで、バーシを良い人間だと先入観を持たないようにしようと思った。それくらい乾いた喉にお茶は美味しかった。
バーシが戻るまで正木は席に座って、隣に座らせたズルと何やら相談をしていた。主に正木が小声でズルに話しかけ、ズルはうんうんと頷きながら聞いていた。時折ズルが疑問に思うことを質問して、正木がそれに答えるとズルがまた頷く。それの繰り返しだった。
この相談によってそう決めたのか、バーシが席につくと魔法使い側の意見は主にズルが発言するようだった。
「では相談をはじめさせてください。最初に今分かっている状況を整理したいと思うのですがよろしいでしょうか」
レジスタンス側はバーシとフェルミが隣り合って座っていたがバーシが問題ないと答えた。ルチアノもズルに確認されて頷いた。
「まずトピカですが……彼らの主張はビアネの一件のときに聞いたとおりです。あの演説はレジスタンスのみなさんは聴いたのでしょうか?」
「何が起きたのかと、トピカの主張に関する要約は読んだのだが、ダンサーだろう? やつの演説が聴けるのなら確認したいが」
バーシは机を見回した。
「再生できます」
答えたのはハクだった。
「トピカの端末アンドロイドだな。再生してくれ」
バーシは依頼した。
ハクは瞼を閉じ、再度開けたときには映写するための機械が目の部分に現れた。机の上に立体映像が再生された。ダンサーの主張の一部始終である。途中で自由都市ビアネがミサイル攻撃されるシーンがあり、ルチアノは顔をそむけた。
「ダンサーを引きちぎって豚の餌にしてやるのもミッションに入れてくれ」
映像を見終わってからフェルミが怒って言った。
「この脅しを客観的に考えると、トピカに反抗する都市は多くなさそうだ」
バーシが深刻な顔をした。
「実際、ビアネの一件の後に、我々に協力するために接触してきた都市は一つもない」
それは新しい情報ね、と紬は思った。これ以上悪い情報はもう聞きたくないけれど。
「彼の主張で一つ分からないのは、『無垢な子供たち計画』というものです」
ズルが言った。
「ああ、それならトピカから説明のような放送が追加であった」
バーシが答えた。続けて説明をする。
「大気汚染、土壌汚染、それから人の行きすぎた機械化によって健全な子供が育成できない状況にあるのは知っているかな?」
正木やズルは頷いた。
「このままでは戦争によらなくとも何世代か後には人類は滅亡してしまいそうでね。レジスタンスとしても協力してくれる都市連合と共に対策を検討していたのだが、有効な手段がみつからなかった」
バーシはその件での苦労を思い出したのか、苦い顔を見せた。
「ところがトピカは十数年前からその問題に機械らしく冷たく取り組んでいたんだ」
「あら、冷たくなんて人聞きの悪い。必要なことだったのよ」
割り込んで言ったのはニーナだ。
バーシはニーナを睨んだ。
「トピカのアンドロイドだな。千番台以内というのはお前か」
「ニーナって読んでね」
ニーナはそう言いながらリンにウインクした。




