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正木の指示でサイから下ろされたルチアノは、紬を護衛役にして前方へ歩いて行った。
森の中は木漏れ日が辺りを照らしていて、とても居心地のよい気候だった。小鳥たちのさえずりが聞こえる。風が木々の葉をさらさらと揺らしている音もした。何気ない森の散歩であれば快適だったろう。しかし紬は緊張した一歩一歩を進めていた。ライフル魔銃は置いてきた。魔法の杖はこの世界では攻撃的に見えないという理由で持ってきていた。
「動くなと言っている!!」
拡声音が聞こえて、銃弾が紬とルチアノの横のほう、離れた位置の土をえぐった。
二人は立ち上がり両手を挙げた。
「私だ! 自由都市ビアネのルチアノだ!」
ルチアノは大声で前方に向かって叫んだ。今や機械獣は二百メートルほどの位置に見える。
ルチアノの言葉を聞いて機械獣がドスンドスンと進んできた。大きい。
紬は急いで防御魔法フィールドをこの場所に張った。時間がないので、術式は簡易的なものだったため、銃弾を数発しのげるくらいだろう。
五十メートルほど前方で機械獣は停止した。三台の車両がそのまま近づいてきた。
車両からピンク色の長い髪を揺らした女性が出てきた。女性はうごきやすそうなぴったりとした赤い戦闘服を来ていて、その戦闘服のボトムスは女性らしくスカートになっていた。 スラリとしたスタイルのピンク色髪の女性は、腰に提げたホルスター以外は武器を持っていなかったが、女性の後ろからついてきた男性の兵士姿の三人は、ライフルを構えながら紬たちのほうに近づいてきた。
女性の顔がはっきりと分かるくらいに近づいてきた。女性は若く、紬には二十代前半のように思えた。この星でよく見た造られた綺麗さではない、自然な美しさを備えた美人だと紬は直感的に思った。
だって完璧とは言えない感じだもの。でもこのほうが好感が持てるかわいさだと思う。
紬はそんなふうに思っていたが緊迫している状況は続いていた。しかしそれほど心配しなくて良いのではとも思えてきた。ルチアノが緊張を解いている様子だったからだ。
「ルチアノ! 生きていたのか」
女性はそう言いながらさらに近づいてきた。そう聞いてきたのは、自由都市ビアネに何が起こったのかこの女性が知っていることを示していた。
「フェルミ。久しぶりだな」
フェルミと呼ばれた女性は三歩手前で立ち止まり、杖を握りしめてルチアノの隣に立つ紬を警戒している様子を見せた。
「こちらは紬。説明が難しいのだが、時間がない。簡単に説明させてくれ」
ルチアノがそう言うとフェルミは頷いて後方の仲間の兵士たちに合図した。兵士たちはライフルを構えるのを止めた。
「私たちは昨日、ビアネが破壊されるのを一緒に見ていた。……トピカに見せられていたのだ」
「会議がビアネで行われる予定だったよね。てっきりあなたもあの攻撃の中にいたと思っていたわ」
「ビアネからは離れた場所から高官たちに見せつけたのだ。あの攻撃を」
「ひどい……」
「紬たちはトピカ軍から脱出するのを助けてくれたのだ。紬の仲間は六人。それからトピカの端末アンドロイドを二体捕獲してある」
「それは大変だったね。脱出するのにさぞかし多くの犠牲を払ったことでしょう」
「いや。紬たちはトピカのアンドロイドを連れ去ったが、一人の犠牲もなくやってのけた。私は脱出行に便乗しただけなのだよ」
フェルミは可愛らしい顔に似合わない鋭い視線を紬に向けた。
紬のこの星では見ない戦闘服姿を見て不思議に思っているようだ。
「何者……?」
「異世界から来たと主張している。そうとしか思えない能力も見てきた。彼らはこの星の災いを阻止するために君たちレジスタンスと相談したいと言っているのだ」
フェルミは新しい情報を必死に理解しようとしている様子を見せた。視線があちこちをさまよう。
「異能の力を持った者たちが現れたという噂は聞いているが……」
「彼らは信用できる」
ルチアノは言った。フェルミはルチアノの顔を覗き込むように凝視した。
「あなたがそう言うのなら問題ない。しかしトピカのアンドロイドはだめ。私たちのアジトに入りたいのなら破壊してもらわなくては」
「破壊なんて! だめ」
紬が鋭く反応して言った。
「ハクもニーナも悪い子じゃないよ。通信をできなくする魔法の首枷も付けているし、心配ないから」
フェルミはどういうことだ? という問いを込めてルチアノのほうを見た。
「不思議な力を持つ道具でアンドロイドの通信を遮断しているのは本当のようだ。それに、紬たちのリーダー正木は、トピカの行動を阻止するために捕獲したアンドロイドを使おうとしている」
「……そう言われても……難しいな」
「君もビアネが破壊されたのは知っているのだろう? 映像を見たか?」
フェルミは頷いた。
「だったらトピカが何を言ったのかも聞いたのだろう。あらゆる都市とレジスタンスの君たちをトピカは抹殺しようとしている。私を信じるならば受け入れてくれ」
「……」
「時間がないんだ。六日後に攻撃を受けるのは君たちなんだぞ」
「分かった。……私は甘いとバーシは怒るだろうな」
「怒るひまはもうないのだ」
ルチアノは憮然としながら言った。
フェルミは周りの兵士に向かって指示を出しはじめた。
「アジトに戻るぞ。彼らも一緒だ」
兵士たちはフェルミを崇拝しているかのように指示に対して即座に行動をはじめた。
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