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「通信できていたときは、トピカっていう親玉みたいなのと話し合っていたの?」
「トピカと話し合うということはありません。トピカ端末は検知した事象、他個体と会話した内容など、すべてを要約データにまとめてトピカに送信します。トピカは全端末からのデータを蓄積、および、分析して、共有すべきデータ、指示などについてブロードキャストしてきます」
「ブロードキャスト?」
「全員に同じ情報を流すという意味ですね」
サイの手綱を握りながらサイを操縦しているズルが言った。聞き耳を立てていたらしい。
「興味深い……」
「でもほら。トピカ了承って言うときは答えをもらってたんじゃないの?」
紬は聞いた。
「重要事象に従事する端末には優先ポートを割り当てられます。優先ポートを通じてトピカから即時の裁定を受信することが可能です」
「優先ポートがない場合に何か問題が起きたときはどうするんだい?」
ズルが問うた。
「裁定可能なレベルの事象であればトピカ端末において判断、処置することができます。処置には、犯罪が発生した場合の犯人の拘束、処刑措置といったものも含まれます」
ハクはお決まりの文句ですという感じで言った。
「裁定可能ではないレベルの事象だったときはどうなるのかな?」
「優先ポート割り当て要求を発します。通信が不可能な場合は待機行動手順に沿って行動します」
「では、君は今、待機行動手順に沿って行動しているわけだね」
ハクの瞳が一瞬チカッと瞬いた。
「はい。私は敵対勢力に対する武力を有さないので積極的待機行動を行うことができません。そのため、消極的待機行動を実践中です」
「ハク」
紬は呼びかけた。
「私たちを敵と言うのは考え直してくれないかな。あなたも都市が消されるのを見たでしょう? あんなことやめさせないとだめ。私たちと協力してトピカを止めるのを手伝ってほしいの」
ハクは瞳を白く輝かせてから、首を小刻みに振った。
「トピカとの通信不可。トピカとの通信不可……」
機械的にそういうだけだった。
「明確に聞かなきゃだめよ」
今まで紬とハクの話しにそっぽを向いていたニーナが、ハクのほうを向いて言った。
「端末五三八九。あなた自身の考えではどう思ったの? 都市が消失した件について」
ハクはすぐさまニーナのほうに頭を向けて答えた。
「あの攻撃は私の理解を超えています。計算が合いません。計算が合いません」
「彼の考えでは、賛成している訳ではないようね」
ニーナは言った。ハクは下を向いて、計算が合わないというつぶやきを繰り返した。
「ニーナは自分から私たちについてきたいって言ったんでしょう? あなたは自分の考えで行動することができるのね」
「あたしは初期端末として作られたからよ。千番台以降の端末のようにあらゆるプロトコルに縛られているわけじゃないの」
「法螺話だ」
ルチアノが握り拳で腰掛けている鞍を叩いて言った。
サイがグオーと大きな声を上げ右に左に体を震わせた。騎乗している人々は振り落とされないように鞍にしがみつかざるを得なかった。
「サイに刺激を与えないでください」
ズルが大声で注意した。
「す、すまない……」
ルチアノが素直に謝罪した。揺れが収まってからルチアノは言葉を追加した。
「この女が」
とニーナを顎で示しつつ。
「トピカの意を受けて行動している可能性について、君たちは考慮し続けるほうが良いだろう」
ニーナはルチアノには反論しないと決めているようだ。視線を落として何も言わなかった。
紬は会話からの情報を整理して記憶しておこうと思った。情報が大切だと、正木にいつも言われていることだった。
トピカとアンドロイドにも立場や、やれることが異なるようだ。
トピカはすべての配下の端末から情報を受け取り、指令を下す。
ハクは決まったルールにそって行動している。しかし自分の思考を持っていて、トピカのすること全てに納得しているわけでもなさそうだ。
ニーナはハクと違って『しょき端末』なので、自らの考えで行動を起こすことが可能なようだ。ルチアノに言わせれば、トピカの命を受けた偽装であるそうだが……。
前方を馬で走っていた正木が手を上げて停止しているのが見えた。ズルはサイの手綱を引いてゆっくりと停止させた。リンとデニの馬は森の中のさらに前方をゆっくりと動いているようだった。
「何かが近づいてくる」
正木は遠くまでは聞こえないように注意しながら魔法による拡声で言った。魔法使いたちは魔法による拡大視界で前方を注意しはじめた。
紬はそれを行わず周りを警戒した。
「あれは……」
目の良いスナイパーのリリーが前方を見つめながら呟いた。
「あのときと同じやつだ」
「あのとき?」
紬は心配になってきた。
「機械獣だよ!」
紬は大怪我させられた嫌な経験を思いだして鬱々とした気分になってきた。
「何匹いるの?」
どうかたくさんではありませんように。
「一匹だけね。他に車両が何台か。四、五台はありそう」
リリーが目をこらしながら言った。
「さすがリリーさん。僕にはまだぜんぜん見えないや」
ズルが残念そうに言った。
紬は近くにだけ拡声するように魔法をかけながら正木に言った。
「正木!私、魔獣鷹で飛ぼうか?」
正木は馬の上で手を振って答えた。
「待て。待機だ」
リリーは魔銃ライフルを取り出して狙撃の準備をしだした。紬も念のためそれに倣った。
しばらくの間、じりじりとした時間が過ぎた。やがて紬の目にも機械獣の金属の体に陽の光が反射するのがキラキラと見え出した頃、機械による拡声音が聞こえてきた。
「こちらはトピカの警備隊である! 森への侵入者よ。そこを動くな!」
紬には女性の声に聞こえた。
「動いたら、撃つ!」
すでにズルと紬によって銃弾に対する防御魔法フィールドをサイの周りには展開済みだが、時間がないため弱い防御しか張れていない。機械獣が口から発射してくる主砲には防ぎきれるかどうか心配だった。
「あの声は……」
ルチアノがそう呟いてから正木に向かって大声で言った。
「正木さん!私が話しをしに行く! あれはトピカではない!」
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