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翌朝は夜明け前からリンが皆を起こしに各寝室を回り、手早く全員で戦闘糧食の朝食を済ませると魔法テントを撤収した。この日も天候は良さそうだった。払暁のオレンジ色の光が荒れた大地を照らす中、大鷲と護衛の魔獣鷹は飛び立った。
上空に達してから電脳コンピュータによって現在位置を確認したルチアノは、正木たちが驚いたことにトピカに近づくルートを示した。ルチアノが手首に仕込まれた投影機によって立体映像の地図を表示させて、レジスタンスの本拠地がある深い森を指し示すのを見てズルが言った。
「トピカのメトロポリスとそれほど離れていませんね」
「遠かろうが近かろうが発覚してしまえば同様の危険だと言っていたな。それよりもアクションを起こすときには近いほうが良いと」
ルチアノは言った。
「あくしょん!いまこそ、その時。ですね!」
リンが大鷲を操縦しながら言った。
「リンさん、僕が地形を見ますから右旋回 むぎ》の邪魔にならないように、飛ぶのは僕に任せてくれよと言っているように、ギャッと短く鳴いてハミを自らひっぱった。
おっと、いけない。紬は自分の役割も忘れないようにしなくてはと気を引き締めた。360度を見渡して警戒する。敵が近づいてくるなら私が一番に見つけないとだめだ。でも日差しは暖かく、風に揺れるイムールの背中の上は心地よすぎて眠くなる。
幸い目的地の森に近づくまで何事もなく、紬とイムールは大鷲に続いて高度を下げて行った。
長く続いた荒野の先に現れた大きな森。森の中に比較的大きな川が流れているのが見えた。その川の川岸に、一行はまたカモフラージュの動的魔法フィールドを張りながら着陸した。
ルチアノの説明によるとここから三時間ほどは森の中を歩いていくようだ。この時間を短縮するため、魔法使いたちは騎乗できる魔獣を召喚することにした。正木、リン、デニは馬を召喚して騎乗した。残りの六人はリンが召喚してくれた大きな魔獣サイに乗った。サイの背中の上にはちょうど六人が乗れる鞍が付けられていた。 サイの鞍の先頭にはズルが乗り込み、手綱を握った。紬は魔獣サイに乗るのははじめてだった。サイはドスンドスンと歩き出したが、魔法がかけられた鞍の上は最低限の揺れと震動しか感じず、とても快適だった。
三頭の馬と大きなサイは深い森の中を進んだ。
紬はビアネが消失した一件以来塞ぎ込んでいるように見えるハクに声をかけた。
「ハク。調子はどお?」
ハクはサイの動きに揺られながら紬を見た。無表情はいつものことだが、瞳がちかちかと瞬くこともなく、何の感情も伺わせなかった。
「私の調子は良好です」
ハクは単調に答えた。
「その首枷……ごめんね。辛くない?」
紬はハクの首にはめられている首枷を指さしながら言った。紬も以前、正木と敵対関係にあったとき、同じように首枷を付けられたことがあった。そのときは首枷の魔具によって紬に魔法を禁じる効果があり、とても辛かったことを思い出したからだ。
「辛いという感情にはなっていません。私はアンドロイドですから」
「そう……」
「ただし、自己分析プログラムを実行したところ、このクビカセというものを装着されたことによって、私の中の幾つかの機能が正常に動作しなくなってしまいました。それで私の性能は85パーセント低減している状態となっています」
「私が聞くのは変な感じでしょうけど、どんな機能が正常に動かなくなったの?」
紬は首枷の魔具について詳しくなかった。それで興味があって聞いてみたのだ。
「外部との無線通信ができなくなりました。有線通信についても仮想シミュレーションの結果は『シエキシャ』による許可命令がないと実行できないようです。それから『シエキシャ』、現在は正木に設定されているのですが、『シエキシャ』とその友好関係に設定されている人物、および、資産については敵対行動を取ろうとすると内部コア動力がカットされてしまい、正常動作することができなくなります」
「そ、その使役者の友好関係って順番があったりするの?」
「私が仮想シミュレーション結果から判断するに、『シエキシャ』の友好関係設定のデータ型は真偽値です。つまり友好関係か、そうでないかのどちらかです」
「そ、そう」
「私が行った正木の感情分析の観察結果についてお知らせしますと、首枷の友好関係設定とは異なり、正木の紬に対する友好関係は最上位の値となっています」
ハクの報告を隣で聞いていたリリーは唇の端を歪めて少し笑ったようだった。
「よ、余計なことを報告しなくていいの!」
紬は顔を赤らめながら慌てて言った。
「紬について、正木の感情分析は余計なこと。了解しました」
ハクはそう言ったが紬は複雑な気持ちになった。私が言ったことだけどそうではないの。この微妙な気持ちがアンドロイドには分からないようだ。でもホムンクルスの私は人間として生きていたときと何ら変わらず思考していると思える。やはり魔法のほうが上なのでは? でもあの核ミサイル攻撃という破壊力を見ると、魔法では科学文明が作ったあの攻撃力に対応できそうにない。
一長一短なのかな、と紬は思った。
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