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科学文明探訪【Web版】  作者: 橋本禰雲
第七章 ビアネの崩壊
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 正木は肩越しに手を上げ、手の形を次々と変えていく魔法界流の手信号を見せた。


 もう!魔法拡声通信で言えばいいのに!


 こんなときでもつむぎを訓練代わりに試そうというのか。


 つむぎは手信号を読み取った。


 離れずに。ついてこい。


 正木は振り返った。つむぎは了解の意で杖を持った手を胸に近づけて見せた。デニも同じ仕草をした。


 そこからは正木のアクロバットな飛行についていくのでやっとになった。右に、左に、上に下に。


 敵機が近づいてきて、さらにそいつらが放った銃弾が迫り来る。正木はそれらをかすめるように回避行動を兼ねた飛行を続けた。


 デニは正確に正木の航跡をトレースしていく。つむぎは必死だ。垂直落下したあとに上昇気流を捉えて急激に高度を上げつつ旋回する動きには、危うくついて行けなくなりそうだったが、つむぎは愛鳥イムールに少し無理をしてもらってなんとかついていった。


 人がスプリントで走ったときと同じように、イムールは数秒間全力ではばたいたせいで、荒い息づかいが手綱を通じてつむぎに伝わってきた。このようなとき魔獣鷹まじゅうたかは完全に乗り手の操作に従って動く。そうでないと一体となった動きはできないからだ。


 悔しいけれど、あの正木の動き、私を気遣って少し緩めている!!


 訓練時にときおり見せた正木とラオールの本気の飛行術はもっとスピードが早く、回転半径も小さかったように思える。


 つむぎは必死になって魔獣鷹まじゅうたかを操縦し、なんとか正木についていった。つむぎの少し前を飛ぶデニも、動きからはそれほど余裕がないように見える。


 先頭の正木と正木の愛鳥ラオールは優雅に右に左に飛んでいるように見える。美しい飛び方だ。つむぎとイムールのばたばたとした航跡とは対象的だ。


 正木隊三機はそのように一段となって敵機の周りを駆けた。トピカの空兵と戦闘ヘリコプターはその三機に多くの銃弾を浴びせかける。戦闘ヘリコプターからはミサイルも発射された。


 正木に必死についていくだけで向かってくる銃弾を避けていける。ミサイルが向かってくる。正木は急降下をし、つむぎもそれにならうとミサイルはつむぎをギリギリでかすめて後方に飛んでいき爆発した。距離があったので被弾は免れた。


 正木が一瞬前につむぎが回避できるように急降下をしたに違いないと気づいてつむぎは瞠目した。


 正木がさらに右に左に愛鳥を揺らす。その航跡を正確にトレースできないと被弾してしまうのでつむぎは必死になって魔獣鷹まじゅうたかの手綱を操作した。


 正木は自身の一機だけではなく後方から追いかけてくるデニとつむぎの飛行も考慮に入れて、飛び交う銃弾をかいくぐっているのだとしたら神業に近い!とつむぎは思った。


 つむぎは空兵隊長だったこともあるが、今の正木と比べることもできないほど、正木のリードは凄いと思った。いや、誰とも比較などできない領域に正木はいると思った。


 手綱を操作するつむぎの腕力と、それに応じる魔獣鷹まじゅうたかイムールの翼の力も、限界に近づいていた。しかし、正木が先頭で強めの上昇気流に乗った先は、敵機すべての後方に回り込んで、どうぞ撃ってくださいと言わんばかりの絶好の位置に正木たちを躍り出させた。


 正木が腕を上げて素早く手信号を伝えてきた。


 デニ。大きい方。狙え。


 デニには火炎魔法による戦闘ヘリコプターを攻撃しろという指示だと解釈し、つむぎは正木に続いて、一人乗りのトピカ空兵に電撃魔法を打ち込んでいった。


 一機、二機、三機、……


 狙い澄まして打ち込む電撃攻撃にやられ、敵兵は墜落していく。正木もライフル魔銃で電撃弾を撃った。


 デニは大きな火球を杖から発射して戦闘ヘリコプターを一機破壊した。すぐに次弾の詠唱に入る。


 つむぎがもう一人、空兵を打ち落とす間に、デニは回避行動を取っている戦闘ヘリコプターをもう一機撃墜した。なかなかの射撃の腕前だ!


 その後は乱戦になった。


 すでに敵機は戦闘ヘリ一機、空兵は三機にまで減っておりつむぎたちにも充分対等に戦える数ではあった。


 しかしつむぎは正木が戦闘空域の外側を飛行し、乱戦には加わらない意志を示していることに気づいた。


 もう!こっちは腕の力がもう限界なのに!


 つむぎは戦いながら怒ったが、自分でも乱戦は得意だと自信を持っていた。右に左に銃弾を回避しつつ、大きい戦闘ヘリコプターを火炎魔法で仕留めた場面は、この日の空戦のハイライトだったと自画自賛した。


 デニも空兵の一機を打ち落としたところで勝負はあった。 敵の残り二機は戦闘空域を必死になって離脱していった。


 リンたちが乗った大鷲おおわしは上空の遠い点となって見えた。


 軽やかな風に乗って飛ぶ正木のラオールに、つむぎとデニは魔獣鷹まじゅうたかを寄せて行った。


「やったな!俺たち」


 デニがつむぎに声をかけてきた。


 デニが喜ぶのも無理はない。機数でいえば五倍以上の敵を相手に完全に勝利したのだ。


 つむぎは勝利に導いた正木の卓越した飛行能力と指揮能力に脱帽だった。悔しくもあり、賞賛する気持ちもあり、色々な思いがないまぜになって頭が爆発しそうだった。


 正木の愛鳥ラオールがすぐ近くに近づいてきて言った。


つむぎ。乱戦の中で相手に二度後ろを取られそうになっただろう」


「!!」


 あんたが乱戦に参加しなかったから四対二で苦労させられたのよ!そう言おうとしたが頭に血が上ったのと、疲れが限界になって口にしきれないでいると……


「それ以外はつむぎもデニも良くやった」


 と正木は静かな口調で言った。


 つむぎはきょとんとした。


 今まで良くやったと褒められたことなどなかったから。


「へへーん。良かったなつむぎ


 デニが笑顔で言った。


 この筋肉バカは疲れることがないのかしら。私はもうへとへとだわ……。


 前へ上へと、つむぎと愛鳥イムールを運んでくれる柔らかな感触の上昇気流に乗って、つむぎは心地よい勝利の余韻を味わった。




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