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紬が正木とリンの仲間になってから一番驚いたのは、やはりゲートの存在だった。
紬が生まれ育った星は魔法使いの文明だったが、まだゲートを行き来する魔法界に属しているわけではなかった。人々は魔法を使って暮らしてはいたが、古代人が残した宇宙に張り巡らされたゲートの大魔法の存在は知らなかった。
ゲートは設置されている星としても遺跡という形で認識される。古い石造りの遺跡の内部に、知らなければ何に使うか分からない遺物が安置されているのだ。それを使う方法を知った魔法使いは、ゲートを使ってその遺物が繋がった次の惑星に、同じように設置されたゲートまで瞬時に移動できるのだ。
ゲートを使った旅の途中で紬は疑問を口にしたことがあった。
「これって本当に宇宙の遠くにある星に移動してるの?なんだか大きいお屋敷の扉を通ってるくらいな感じ。すごく遠い距離を移動した感じはまったくしないね」
「リンもそう思うことある」
「ゲートの大魔法は、」
正木が説明しようとした。
「古代人が残した遺物の中で最も偉大で最も巨大な魔法でできている」
紬はその時ゲートを通った遺跡の中で正木の説明に耳を傾けた。
「……」
しかし正木はそれ以上は何も言わなかった。
「ねえ!どう偉大でどんなふうな魔法でできているのか説明してくれないの?」
「めんどうくさいな」
「無口な正木が説明してくれるって期待した私がバカだったわ」
「正木さまにそういうの、期待しちゃダメ」
リンも少し笑いながら言ったものだ。
「……いつか、そういう話しが得意なやつに説明させるよ」
むくれた紬の頭をぽんぽんと叩く正木であった。
「ちょっとお、子供扱いしないでよ。髪型もくずれちゃうじゃない」
「悪かった。ごめんごめん」
正木は悪びれずに言った。
「もう!」
「……リンが聞いたのはね、ゲートはものすごーく遠く離れたところにある星と星を繋げてるんだって」
リンが言った。
「ものすごくってどれくらい?」
「夜空にお星さまがたくさん光ってるでしょ。ゲートはそのどれかに繋がっているんだよ」
リンが得意げに答えた。
「そんなはずないわ。あんなに小さい星に行っても意味ないもの」
「すごーく遠くにあるから小さく見えるんだよ」
「そうなの?ゲートを通ってもなんだかそんなにすごい遠くまで来た感じはしないよ。どのくらいの距離なの?何メートル?何キロメートル?」
「遠すぎてそんな単位じゃ答えにくいようだぞ」
正木が言った。
「聞いた話しじゃゲートを一つ通ると百光年から千光年くらいは移動できるらしい」
「こうねん?」
「光の速さで進む距離の単位だ。百光年なら光の速さで百年進んだ距離のことだ」
「……リン、また正木がおかしなことを言い出したわ。光に速さなんてあるわけないのに」
「紬ちゃん……光にも速さはあるんだよ。リン知ってるもん」
「……?」
このように紬にはなかなか理解しずらいことが多かった。
「私はこういうことを昔から知っていた。科学文明の星の出身だからな。だがうまく説明はできん。これも今度詳しいやつに説明させよう」
紬からの質問攻めにあうと正木はそう言って逃げることが多かった。