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「どうです?素晴らしい成果じゃないですか?」
ステージの上でダンサーが自慢げに言った。巨大なきのこのような形をした煙に自由都市は包まれている。
「トピカの技術は核兵器を、巨大都市を破壊できるまでに威力向上することに成功しました。トピカは自信があるようでしたが、私もこれを見るまでは半信半疑だったと告白します」
ダンサーは聴衆に背を向け、惨劇の都市のほうを見ながら語っていた。
その隙に正木はリン、紬、ズルに近づいて三人にこの場を脱出することを伝えることができた。
「トピカは長らくこのための準備を進めてきました。すでにこの星の全域を対象とした、核兵器搭載可能巡航ミサイルを一万発以上作りました」
ここでダンサーは高官たちのほうを振り返った。
「あなた方に選択肢はもうない。トピカの永世友好国となって、ぜひ生き延びてください」
正木はリンたちを連れて仮設スタンドの柱と柱の間に入った。中は空洞になっていてダンサーからは彼らの姿が見えなくなった。
「たとえ都市の破壊がこれで最後になったとしても、レジスタンスを根絶やしにするためにトピカはかなりの数の彼らの拠点に核攻撃を行うでしょう。トピカは地上を放棄するつもりです。数十年間は人が住める状態ではなくなりそうですからな」
高官たちは黙ってダンサーの演説を聞いていた。都市が破壊されている衝撃的な光景を目の当たりにしながら、その意味が理解できているかは分からなかったが。とにかくこれ以上何か悪いことが起きないようにと願っている者が大半だった。
「そのため地下都市の建設も進めています。一定数のクレジットを提供できる者には移住も許可します。希望者がいれば地上の汚染が回復する二百から三百年後までコールドスリープすることも許可しましょう。人間にとっては魅力的な『無垢な子供たち計画』についても後日詳細をお知らせします」
ダンサーの演説が続く中、正木は仲間たちを仮設ステージの脇に目立たないように集結させた。正木たちの動きを見ているトピカの兵士が何人かいたが、敵対行動を取っているわけではまだなかったので、何も言われなかった。
「ここから脱出する」
正木は仲間たちに小声で言った。
「紬。しっかりしろ」
正木は誰よりもぼーっとしているように見える紬の肩を両手で掴んで言った。紬は正木に腕を引っ張られながらここまで連れてこられたが、先ほどの都市が破壊される光景が頭から離れず、何も考えられない状況に陥っていた。
「紬!今はお前の空兵としての力をあてにしたいのだ」
正木に小声だが強い調子で呼びかけられて、紬は、はっとした。
正木が私を必要としている……。
瞳に力が戻り、唇を噛みながら頷いて見せた。
「よし……。リンは魔獣大鷲を召喚」
リンが頷く。
「デニと紬は魔獣鷹に乗って大鷲を護衛だ」
「魔獣鷹に騎乗」
「はい」
デニが復唱し、紬も答えた。
「ズルはハクを連れて大鷲に騎乗。動的防御フィールドを張り続けてくれ」
「はい」
「リリーも大鷲に乗って追ってくる敵を打ち落とせ」
「わかった」
「私も大鷲に乗って、そこから指揮する。必要なときは空戦に加わろう。離脱先は……あの都市には近づかない方が良いだろうな。トピカからも離れたい。恒星が沈む方角とは逆の方向とする」
そう言って正木は煙る都市の右手のほうを指さした。
「防御フィールド展開!リンは召喚を開始しろ!」
正木が行動開始を合図した。
紬とズルが魔法による防御フィールドを構築するため杖を掲げて術式を組み立てはじめた。
リンは目の前に杖を浮かせ、手を組み、目を閉じて召喚魔法を開始した。
仮設スタンドの横にまばゆい光りが出現し、次の瞬間、大きな鷲の形をした巨獣が現れた。大鷲は二階建ての家ほどの大きさがあり、鋭い目つきで辺りを見回した。
「なんだ!?」
ダンサーはステージ上で大鷲の出現を見て驚いて言った。
「撃て!撃て!」
すぐさま例の自称魔法使いたちの仕業と気づいて、周りのトピカ兵に攻撃を命じた。
大鷲は召喚者たちが騎乗しやすいように少しかがんだ。大鷲の背には複数人が騎乗できるようになっている特殊な鞍が付いていて、その鞍に繋がっている革紐を掴んでリンを先頭に魔法使いたちが鞍の上に登りはじめた。
その間、乾いた銃声が断続的に聞こえた。トピカ兵たちがライフル銃を構えて大鷲を狙撃したのだ。的は大きかったが大鷲に届く前に、空中で白く光って銃弾は四散してしまった。魔法による防御フィールドの効果だ。
紬とデニは魔具から召喚した一人乗りの魔獣鷹に騎乗して飛び上がり、大鷲の周りを小さく旋回しはじめた。
大鷲の鞍にリンに続いてズルとハク、リリーと騎乗していく。最後に正木が鞍の革紐を掴もうとしたとき、黒髪の女が近づいてきて艶のある声で正木に言った。
「あたしも連れて行って」
ニーナだった。瞳が赤くちかちかとまたたいていた。
正木はなぜだ?という顔をした。
「あれを見て考えたのよ」
都市ビアノを覆っているキノコ雲を示唆した。
「あんたたちこの星の災厄を防ぐって言ってたでしょ。あれが災厄ね!?そのはじまりなんだわ。あたし知らなかったのよ!こんなことするなんて」
トピカのアンドロイドがいう言葉として信じて良いのか判断がつかず、正木にしては珍しく決断に迷った。
「正木さま!はやくはやく」
リンが大鷹の背の上から催促してきた。
「ハクにつけた首輪をあたしにもつけていいわ」
ニーナの表情は必死さにゆがんでいた。アンドロイドとは思えない複雑な感情を表しているように見える。
正木は悩みつつも決断した。
体を横に開き、
「乗れ」
と言った。ニーナは何も言わず革紐を掴んで大鷲の背の上に登った。正木もそれに続く。
「離陸しろ!」
正木が叫ぶ。
鞍の前部、大鷲の首につかまるような感じで騎乗しているリンが嘴から伸びている手綱を操作して大鷲に飛び上がるように指示した。
鞍に繋がった革紐でリリーは体を固定し、大きなライフル魔銃を構えて、下から撃ってくるトピカ兵を狙撃しはじめた。
パーン、パーン、パーン、パーン
四弾撃って装填動作に移る。
四弾はすべて命中し、四人の兵士を倒していた。
ニーナは鞍に登りながらアンドロイドの広い視野でその様子を見ていた。スナイパー専用として作られたアンドロイドだったとしても、こんな精度では狙撃できないだろうとニーナは瞳を赤く輝かせながら思った。
大鷲の鞍の上でニーナは正木に魔法の首枷を付けられた。加えて、鞍から伸びた革紐を腰に巻き付けられる。
「これで体を固定するんだ。留め具をきつく固定しろ」
正木にそう指示されてニーナは言われたとおりにした。
ニーナは自己分析してみた。
首枷を付けられたことによりすべてのネットワーク接続が遮断された。ローカルブロードキャストコマンドを通じてわめき散らすように聞こえていたダンサーからの指示も聞こえなくなって静かになった。
「もう少しおしゃれなデザインだったらずっと付けててもいいわ」
ニーナは独り言ちた。
正木がそれを聞いて首を傾げながらリリーと同じようにライフル魔銃の装填操作をし、トピカ兵への狙撃をはじめた。
リリーほどではないがかなりの精度でトピカ兵が倒されていく。
翼を開いた大鷲は物理法則からは考えられないほどのスピードで翼をはばたかせながら離陸した。
一人乗りの鳥に乗って、まわりをぶんぶん飛び回っているのは、食事のときに隣に座っていたあの可愛い坊やと赤髪の少女だった。二人とも杖から小さな炎や白い光りを放ってトピカ兵に攻撃している。
「この子たち……強い」
ニーナは思わず声に出して言った。
大鷲は上昇中。
正木が何かに気づいて仮設スタンドのほうを見下ろした。
「リン!ルチアノが連れて行けと言っている」
そうかしら?そうは聞こえなかったけど、とニーナは思ったが仮設スタンドの端のほうで確かにルチアノが大鷲に両手を伸ばして何か叫んでいるのが見えた。
「リン!降下して足でルチアノをつかまえさせろ!」
「正木さま!爪で大けがさせてしまうかもしれません!」
「かまわん!あとで直す」
「はい!」
リンが必死の声で答えたのと同時にガクンと大鷲の背が揺れ、急降下を開始した。
ニーナは人間の子供だった頃、遊園地で乗ったジェットコースターを思い出して悲鳴を上げた。 キャアアアア!
「紬!デニ!援護しろ!」
正木の声は魔法の力であろうか?増幅して辺りに響いた。
デニがひときわ大きな火球を杖から出してダンサーがいるステージめがけて落とした。火球はステージに落ちて爆発したがダンサーは人ならざるスピードでそれを避けた。避けたが、体制をくずしてステージの下に転がり落ちた。
いい気味だわ!!
いつも偉そうにしているダンサーの滑稽な姿を見てニーナは喜んだ。
それに空を飛ぶのってとても気持ちいい!
大鷲が風を切り裂きながら急降下して、ニーナの顔に冷たい風を当てていた。
次の瞬間、大鷲の背に押しつけられそうになる。どうやら大鷲が翼をはためかせて急降下をやめたようだ。ガクンとした軽い衝撃が足から伝わってきた。直感的に大鷲が鋭い爪の生えた足でルチアノの体を掴んだのだと分かった。
再び大鷲が翼を羽ばたかせて上昇していく。このときは大鷲を守っている何か、おそらく魔法によるものが弱まったせいか、トピカ兵が撃ってくる銃弾が何発か大鷲の翼に当たった鈍い音が聞こえた。しかし大鷲は力強く翼をはためかせ、トピカ兵の射程外へと上昇していった。
正木たちってなんて面白いやつらなの!?
ニーナは思った。
街が焼けるのをみて気分はこれでもかってくらい落ち込んだけど、そのあとの余興は悪くない。正木についてきて正解だったわ。
ニーナは微笑を浮かべた。
大鷲が器用に足を背に回してきて鞍の上にルチアノを落とした。ズルが慌ててルチアノを鞍に固定し、大鷲の足の爪に刺されて怪我をしているルチアノの太ももを治療しはじめた。
ニーナはこの光景を後で見返せるように内部記憶に録画した。何度でも繰り返し見て楽しめそうだと思った。




