27
都市に起きた大爆発を目の前にして、トピカ側ではない者の中で、ただ一人だけ冷静に行動していた者がいた。
正木涼介である。
彼は経験豊富な魔法使い冒険者として、都市を焼き尽くす科学文明の武器についての知識があり、今回のように間近でそれを経験したことも過去にあった。
ダンサーが上空を指さし、陽光を反射して輝きながら自由都市ビアノに進む巡航ミサイルを目撃したときから、彼は、彼がリーダーを務める魔法使い冒険者チームをどのように動かすべきか、次のアクションをどうするべきか思考を巡らした。
人工知能トピカがこの星を支配下に置くべく、強い態度を示し始めたことは明らかだった。期限を七日間と設定して、他の都市に恭順するように求めるのだろう。
自由都市ビアノが最初の炎に包まれるのを見ながら正木は思った。この都市は、恭順しないのであればこうなるという見せしめにされたのだ。
これは科学文明が陥る災厄のはじまりになるだろう。それを防ぐには最大でも七日間しかなく、正木は行動を急ぐ必要があると思った。
正木はどうするか決断した。
この地を離脱し、トピカから自由になる。それには一戦交える必要があるかもしれないが、離脱できたら、トピカに敵対している都市連合か、地下組織レジスタンスに接触することにしようと決めた。
周りの者は、デニとリリーも含めて、都市が燃え上がるのを見ながら呆然としていた。正木は一人冷静に立ち上がり、魔法ザックから輪っかの形をした魔具を取り出した。近くに座っているハクに近づく。
正木は無言でハクの首に魔具を巻き付けた。これはアンドロイドを制御する首枷だった。正木はハクの着衣の首筋のところを掴んで立ち上がらせた。
「デニ、リリー。行くぞ」
鋭く、しかし小声で彼の仲間に呼びかけた。
都市が大きな煙に包まれる恐ろしい光景が目の前にあったが、リリーは正木の指示を聞いて立ち上がった。正木に近づいてくる。正木がデニの方を見て困った様子をしているのを見て取ると、リリーは振り返ってデニの背中を手の平でバン!と叩いた。
「デニ!行くよ!」
デニは目の前の光景から目を離して正木とリリーを見た。呆然としながらも立ち上がった。
デニはなんとかついてこれそうだと正木は思った。
次に正木はルチアノの側に行った。
ルチアノは今まさに自分の都市が焼かれているのを見ているのだった。
「ルチアノさん」
正木は声をかけた。
「我々はここを脱出します」
正木は言った。ルチアノは手足をブルブルと震わせながら目の前で都市が煙りに包まれる光景を見ていた。
「あなたにも付いてきてほしいのです」
正木からの要請が耳に入っているかどうか。
「ルチアノさん」
正木は再度呼びかけたが衝撃的すぎる光景を前にルチアノは反応を示さない。
人間であるルチアノに対して、正木は魔具の首枷で制御するようなことはしたくなかった。電脳化しているルチアノに、あの魔具は効果がありそうではあるが。
「すぐに仮設スタンドの下、あの辺りから出発します」
正木は仮設スタンドから下りたところにある地面を指さしながら言った。
ルチアノは正木の顔を見た。しかしすぐに都市が燃える光景のほうに視線を戻してしまった。
正木は振り返り、仮設スタンドを降りることにした。ルチアノは連れて行きたいがあきらめるしかないと思った。
「デニ、ハクを頼む」
力が抜けてただ歩くだけになっているハクをデニに預けた。
「あそこまで降りるんだ。私は急いでリンたちを連れてくる」
デニはハクの腕を掴むと正木に頷いて見せた。




