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「みなさん!まもなく時間です。その前に説明してしまわなければ。どうかご静聴ください」
ステージの下から杖を片手に睨んでくる赤毛の少女のことは無視して、ダンサーはマイク越しにそう語った。
仮設スタンドの席では自由都市ビアネの外務大臣ルチアノが苛々した様子でいた。
「時間!?一体なんの時間なんだ。ダンサーめ」
ルチアノは足をゆすりながら独り言ちた。
「昨日まで」
ダンサーはがっしりとした顎を動かして言った。
「各国と個別にトピカは交渉しましたが、一国も妥協点の見えない状況でした」
「トピカの交渉を受け入れろなんて、それのどこが交渉だというのだ」
ルチアノの独り言である。独り言ではあるがすぐ後ろに座っている正木には丸聞こえであった。
「この状況で全体的な会議を行うことは無意味であるとトピカは判断し、昨晩一つの決定を下しました」
ダンサーは腕を組んで、次の言葉は少しトーンを落として言った。
「かなり前からこの状況を予期していて準備をしていたのではありますがね」
ダンサーはここで腕を上げて何かを確認する仕草をした。腕時計を見て時間を確認したのかもしれないと正木は思った。
「では、ここに集まった各国には最後の通告です。指定した期日までにトピカの永世友好国となるか、ならないかを決めてください。これから述べる条件を守って友好国になると宣言した都市以外はすべて敵性国家としてトピカが対処することになるでしょう」
「友好国だと?ものはいいようだな」
ルチアノの苛々は最高潮に達し両足をゆすりだした。
「条件は……」
ダンサーが厳しい声音で言った。
「もう回りくどい言い方はしません。みなさんが理解しやすいように言いましょう。永世友好国となる場合はこれから述べる条件をすべて遵守してもらいます。例外はありません」
各国の高官たちはざわついたがダンサーが人差し指を立てる仕草をするとすぐに静まった。先程の男のように撃たれてはたまらない。
「永世友好国となる政府は立法権、行政権、司法権をトピカに委ねること。潜伏するレジスタンスを壊滅させるため、また市民の治安を維持するために軍事組織の行動は許可するが、そのためにトピカの査察軍を受け入れること。軍事指揮権はトピカ査察軍司令官に帰属すること」
あまりの横暴な要求に高官たちはまたざわついた。
ざわざわ。ざわざわ。
今やダンサーはそのざわめきを無視して続けた。
「検討期日は七日間だ。七日目の正午までに永世友好国となる通告がない都市は敵性国家とみなし……」
「そんな条件のめるはずがない!」
ルチアノが大声で言った。高官たちは一斉に振り返ってルチアノを見た。またダンサーが銃をぶっぱなすかと思って耳を塞ぐ者もいた。
「なにが友好国だ。その条件ではトピカの支配下に入れということじゃないか。そんな条件のめるはずがない!」
ルチアノが激して不満を述べたせいで高官たちは逆に静まりかえった。
「ではこのまま都市国家間の戦争を続けてもよいというのかね?ルチアノくん」
ダンサーは仮設スタンドの上方に座っているルチアノを見上げて言った。
「そうは言っておらん。だからこうして解決できないか相談する会議へ参加しにきたのだ」
ルチアノはダンサーに聞こえるように大声で返した。
「相談は平行線だ。ずっと埒があかない状態だ。メトロポリスは、万能の人工知能による中央政府トピカ発足からは、実は防衛に徹している。何よりも賢いトピカに任せれば良いと話し合いを続けてきたのだが、覇権争いをやめないのは君たちではないか」
「……」
その点について、ルチアノは反論できないようだった。
「その間、戦争によって土壌汚染は進み、ここ十年ほどは、人間の子供はまともに生まれてこなくなってしまったではないか!」
高官たちはルチアノも含め、この話しにも反論できないようだ。
正木は傍らのハクに訪ねた。
「今の話しは本当か?」
ハクは頷いた。
「人間の繁殖状況は非常に悪いです。子供が生まれても病弱なケースがほとんどで、すぐに機械化が必要な場合が多いです。繁殖数そのものも少ないのです」
正木は理解したことで頷いたが、それは憂慮すべき事態だと思った。
「ルチアノくんのおかげで時間になったようだ。まずはトピカの敵性国家とみなされた都市がどのようになるかお見せしよう」
ダンサーはそう言って上空を指さした。
「何っ!?」
ルチアノは驚いて空を見た。




