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科学文明探訪【Web版】  作者: 橋本禰雲
第六章 ダンサー
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「みなさん、突然の予定変更、失礼しました」


 スピーカーからダンサーの声が聞こえた。低く重々しい声だった。


「今日は私がトピカの代理として、トピカの新しい方針について説明させていただきます」


「新しい方針……?」


 ルチアノが不満そうに低く呟いた。


 高官たちもざわめいた。


「私をダンサーという名で記憶されている方もいるかもしれない」


 スピーカーからのダンサーの声は少し面白がっているようにも聞こえた。


「そう呼んでくれてかまいません。トピカの偉大さに比べれば私のような、いち端末の名などどうでもよいこと」


「ダンサー!」


 前のほうで誰かが大きな声を出した。


「こんな荒れ地に我々を連れてきて一体どういうつもりなんだ!?」


 続けてそう言った。男の声だった。


 高官たちはそれにつられてざわざわと文句を言いはじめた。


 ダンサーはステージの上で動きを止めた。最初に声を上げた男に向かって指をさした。


「……静かにさせろ」


 ダンサーがスピーカー越しにそう呟いたのが聞こえた。


 最初に声を上げた男は手振りを加えて喚きはじめたようだ。周りの高官たちもヤジの声を止めない。


 ダンサーの腕が突然伸びて弾けた!?ようにつむぎには見えた。


 パンパンパン!!


 乾いた銃声が聞こえた。


 ダンサーの腕が銃器のように変化して先程の男を狙撃したらしい。男は前のめりに倒れた。男の近くにいた女性が金切り声を上げた。しかし他の高官たちは騒ぐのを止めた。


 どうやら幾人かは高官たちの護衛役なのだろう。立ち上がって小さな武器をダンサーに向けたようだ。


 ダンサーは腕に組み込まれた武器から淡い煙をくゆらせながら、逆の手で自分のしっかりした顎を抑えた。


 いつの間にかステージの奥のほうからたくさんの人影が現れて仮設スタンドに近づいてきていた。 グレーと赤茶の迷彩服模様のような戦闘服を身に着けた兵士たちだ。機械的な動きには見られないので定かではないがアンドロイドの兵士なのかもしれないとつむぎは思った。


「静粛に願う」


 ダンサーの声がスピーカーを通して響いた。


「さらなる血をここで流さないために」


 ダンサーはステージ上で動きを止め、高官たちも静かになった。どうやら高官について来ていた護衛役たちも武器を収めて静かにこの次の展開を確認しようとしているようだ。


 ここでつむぎが驚いたことに隣に座っていたリンが立ち上がり、タッタッタッと仮設スタンドの階段を降りて行った。


 正木はリンの動きを見たが何も言わなかった。


 ダンサーもステージの上から金髪の少女がやってきて、先程自分が撃った男に駆け寄るのを静かに見守った。


 リンは撃たれた男の側に行き男の体に手を伸ばした。


 !!


 つむぎはようやくリンが男の治療に向かったのだと気付いた。と同時にリンが大きな声を出した。


「ズルも来て!修復魔法も必要そう!」


 つむぎは立ち上がってズルを促した。ズルと一緒になって階段を降りてリンと男の側に駆け寄る。


 リンはすでに治療魔法を男にかけはじめていた。男は腕と腹を撃たれて瀕死の重症に見えた。どうやら体を機械に変えている部分があって、それが生命維持に大きく関わるので、リンは機械の修復魔法をズルに手伝わせようと思ったようだ。ズルも修復魔法の術式を組み立てはじめた。


 つむぎは治療魔法も修復魔法も得意ではない。つむぎが治療を手伝えそうなことはなかった。


 その代わり、つむぎはリンの前に立ち、ステージを見上げた。ダンサーに杖を向けて彼を睨む。


 リンに何かしようとしたら絶対に許さない……!


 ダンサーは赤毛の少女が自分を見上げて、目付きの悪い子狐のように睨んでくるのを見た。


「自称魔法使いという者たちですね……」


 ダンサーの言葉はスピーカーに乗って流れ、皆が聞いた。


「私の演説を邪魔しないのであれば好きにしてもよいでしょう」


 ダンサーは腕の武器を収めながら言った。


 トピカの兵士たちはステージと仮説スタンドの周りを囲うように配置され、手にしたライフル銃をいつでも構えるように胸の前に持っていた。


 つむぎは計算した。兵士は二十名くらいだろう。彼等が武器を使ったとしても動的魔法による防御フィールドによって初弾からは守られるはずだ。そのうちに簡易的な魔法フィールドを張ればリンとズルを守ることはできるだろう。その間に正木とデニとリリーが兵士たちを何人か倒すはずだ。


 戦闘になったとしても私たちは生き残れる。


 そうつむぎは判断した。それで少し心に余裕ができた。


 高官たちは半数以上殺されてしまうだろう。


 リンは誰でも助けようとする。それでリン自身を危険にさらしてしまう可能性があるかもしれない。


 でも私はあの高官たちが死んでしまおうとも別にかまわないわ。


 とつむぎは思った。リンだけは何が起きても私が助ける。それに集中していれば良いと思った。その思いが目つきに現れて、ダンサーが感じている不愉快な思いを上回っていた。 

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