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正木たち一行はハクに案内され、トピカタワーを出て昨日と同じ自動車に乗り込み、また飛行場に案内された。昨日、乗ったのと同じ型の飛行機が五機あった。
ハクの説明では一つの都市ごとに二、三名の高官とその随員がトピカに来ており、二十都市分の高官たちと一緒に、会議が行われる別の都市へ移動するという。
駐機場で飛行機のタラップを登って機内に入るとすでにニーナがいて、彼女が担当している三つの都市の高官たちと談笑していた。
ニーナは正木たち一行を他の星から来た魔術師団であると紹介した。言葉としては間違ってはいなかったが、芸能の一座であるかのようなニュアンスだったので、高官たちは面白おかしく解釈したようだった。
「あっはっは。ニーナ。面白い者たちを呼んできてくれたなあ」
高官の一人は正木たちの見慣れない衣装を見てそう言った。
リンが紹介されたとき、高官たちはざわついた。
「パーフェクトなルックスカスタマイズモデルだ」
「あのモデルを手に入れたい。端末二七たのむ」
見た目の意匠モデルの二次販売権の交渉をニーナに持ちかける高官もいた。
紬は高官たちを見て思った。
若くて美男美女ばかりだと。高官だけあって裕福なせいだろう。街行く人々の体型はまちまちだったが、高官たちはスタイルも良かった。進んだ科学の技で見た目を変更したおかげなのだろう。
紬には違和感しか感じられなかったが。
デニが魔具を使って調べたらしく、小声で正木に報告した。
「あいつらはみんな人間だぜ。だいぶ外見はいじられているみたいだがな」
正木は了解の意で頷いた。
一人だけ中年の容姿で顔もそれほどハンサムとは言えない男がいた。しかし独特の厳しい目つきをしており、正木と同じくらい背が高く、印象的だった。容姿のままと受け取れば四十代後半の年齢だろうか。男は会議の会場となる自由都市ビアネの外務大臣ルチアノと名乗った。
飛行機が離陸し水平飛行に移って安定してからルチアノは正木に近づいてきた。
「少し話せるかな?」
正木は頷いて自分の目の前の椅子を手のひらで示した。
機内は乗車した十五名ほどがゆったりと過ごせるほど広かった。まるで街中の喫茶店のような雰囲気で談笑しながら過ごせる設備が整っていた。
「トピカの端末が君たちのことを異星人と説明していたが、非常に興味深く思えてね」
ルチアノは正木の正面の椅子に腰掛け、足を組んでリラックスした様子で話しかけてきた。
正木の近くには魔法使いの一行が固まって座っており、ハクもすぐ側にいた。
正木は質問されたわけではなかったので何も言わなかった。
ルチアノは気にした様子もなく続ける。
「実に不思議だ。私の電脳翻訳アプリは最新で性能も高いはずだが、君たちの言語は理解不能とエラーが出ている。それでいて君たちの言葉が理解できている」
これにも正木は何も言わなかったがリンに目配せしてから、かすかに頷いて見せた。
「リンたちは皆、こういう魔具を身につけているの」
リンはルチアノに右手を見せた。人差し指と薬指に指輪がはめられていて、どちらも青い小さな宝石が埋め込まれていた。
「古代人の魔法がこめられていて、ほとんどの言語の意味が分かるようになるんだよ」
ルチアノは感心したような様子。
「リンが話している相手にもその効果は発揮されるの。だからリンが何を言っているのか、あなたも理解できるでしょ?」
ルチアノは頷いた。
「素晴らしい!」
ルチアノはそう言ってからリンに指輪を良く見せてほしいと依頼した。リンは人差し指から指輪を外してルチアノに見せてあげた。
「はめてみてもいいよ」
リンは言った。
ルチアノはこんな小さなサイズの指輪は小指にだってはめられないと思ったが、リンがルチアノが持っている指輪にウインクしてみせると、持っていた指輪が少し大きくなったように感じた。ルチアノは自分の人差し指にはめてみた。ぴったりだった。
ルチアノは目を閉じてしばらく考え事をしているような仕草をした。
「おお、電脳翻訳アプリを停止しても彼らの言っている意味が分かる!」
そう言って近くの座席に座って談笑している、別の都市の高官たちのほうを指さした。
「よかったですね」
ズルが横から声をかけた。
「脳を機械化しすぎると、その指輪の効果は発揮されないのですが、あなたはまだ大丈夫なようだ」
ルチアノはそれを聞いて妙に納得したような顔をした。
「リンさんと言ったか。私はぜひこの指輪を入手したい。私に売ってくれる分を持っていないだろうか?お金はいくらでも出す」
リンは指をパチンと鳴らした。
するとルチアノの指から指輪は消えて、リンの人差し指に戻った。
「これはそんなに価値があるものではないよ。あなたがゲートを通って旅をする機会があったら、魔法使いがこれを貸してくれるでしょう」
「……そうか。残念だ」
ルチアノは心底がっかりした様子を見せた。
紬は、ルチアノが体を機械化していたり、脳を電脳化していたりするので、ゲートを通ることはできないだろうなと思ったが何も言わなかった。
「君はずいぶんと美しい顔立ちをしているが、それも魔法の効果なのだろうか?」
「リンは宇宙一かわいいホムだからね」
リンは自分でそう言って笑った。
「でもホムンクルスだからと言って、顔を作ったわけじゃないよ。リンは生きていたときからこうだから」
「ホムンクルス……?」
ルチアノは意味が分からなかった。
「魔法で造られた人造人間のことです」
ズルが説明する。
「リンさんも紬さんもすごい魔力を持った特別製ですけどね」
ルチアノはリンを見、次に紬を見た。
「私はどうせホムに造られるのなら、すごい美人に造ってもらえば良かったな~」
紬が自嘲して言った。
「何言ってるの!?紬はさいっこうに可愛いよ」
リンに言われて、紬はリンの左右の頬を両手でつまんでひっぱって変顔を作ってやった。
「あんたに言われたくないわよ、ちんちくりんにしてやる~」
「やめてよーつむぎー」
リンも紬の頬をつまんで二人でじゃれあいはじめた。
「はっはっは、こりゃ愉快な子たちだ」
ルチアノは楽しそうな様子を見せた。
ひとしきり紬とじゃれあった後、リンはルチアノに聞いた。
「リンからもルチアノさんに質問してもいい?」
「おお、よいとも」
「ルチアノさんはどうして他の人みたく若くてかっこいい見た目にしていないの?」
「ほほ。親父臭くてかっこ悪いと思われてしまったかな」
「そんなことないよ。渋い感じで良いと思う」
リンが答えた。
「ははは。ありがとう。おじさん嬉しいよ」
ルチアノは笑って答えた。




