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科学文明探訪【Web版】  作者: 橋本禰雲
第一章 群青
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 空中戦が行われた空域には魔法の威力を低減する防御魔法フィールドが張り巡らされていた。今回の戦闘は訓練だったのである。撃墜された敵の魔法使いたちは、防御魔法フィールドの力によって大きな怪我をすることなく、それでもかなりの打撃を受けたのでしばらくは打撲などの痛みを伴うだろうが、あとで訓練が開始された島に戻れるだろう。


 勝者として空に残ったつむぎだけが悠々と魔獣鷹まじゅうたかの背の上で勝利の余韻を味わっていた。


 今回の相手、魔法界の冒険者チームの魔法使いも、空兵としてなかなかの手練れだった。それを三騎も相手にして勝利できるまでにつむぎは自分の戦闘能力の成長を実感していた。

 これなら正木も手放しで褒めざるを得ないだろう。


 つむぎ魔獣鷹まじゅうたかをゆっくりと砂浜に着陸させた。波が白い泡を立てて砂浜を洗っている。ヤシの木が多く茂っていて島の中央に見える火山は小さな煙を上げていた。砂浜に降り立ったつむぎに水着姿の少女が近づいてきた。片手を伸ばしてつむぎに抱きついてくる。


つむぎ!やったわね。見てたわよ。三騎も相手にして勝っちゃうなんてすごいすごい」


 金髪を肩までふわりと伸ばし、小さめの水着を着たこの少女はリンという。つむぎと同じようにまだ幼さの残る表情と体型をしていたが、ふとつむぎはリンの胸の膨らみを見て、あれこんなにこの子大きかったかしらと不思議に思った。

 土を盛っているんじゃないかしら。


 リンは片方の手で持っていたバスケットから林檎を取り出してイムールの嘴の前に差し出した。魔獣鷹まじゅうたかであるイムールはキエエエエと喜びの鳴き声を上げてから林檎をパクリと食べた。


 リンは青い水着を身に着けていて可愛らしかった。普通の人間として見れば十五歳くらいだろう。どうやら生まれたときから年を数えたらリンはそのくらいの年令であっているらしい。つむぎも同い年だった。


 夏の恒星を頭上に、砂浜の海を背景にしたリンは、時折通りすがる若者たちの視線を集めていた。とてもホムンクルスには見えなかった。リンは魔法使いが作る土人形とも言われるホムンクルス(人造人間)なのだ。強大な魔力を持った特別性のホムンクルスであるのだが。


 私も……とつむぎは思った。


 つむぎもまたホムンクルスなのだ。つむぎがそうなってからおよそ三ヶ月が経った。自分の体の感じ方で言うと、普通の人間だったときと自分では何も変わらない感覚だった。つむぎもまた強大な魔術師としての力を持ったままホムンクルスとして作られていた。とある事件の中で命を落としたつむぎだったが、生前と見た目は変わらないホムンクルスの体に、その魂を封入して復活させてくれたのはリンと……、


「まあまあだったな」


 この正木涼介だった。


 正木はいつもの黒ずくめの格好ではなく白いワイシャツに短パン、目にはサングラス、足にはビーチサンダルという夏の海によくいる格好をしてゆっくりと近づいてきた。暑い夏の砂浜にいるので、いつもの黒ずくめの戦闘服でいれば暑くて耐えられなかっただろうから当然ではあるが。


 正木は自身のことを語ることは少なかったが、三十歳を少し超えたあたりの年齢だった。今はそんな格好をしていると普段より若く見えた。


「しかし、奇策が過ぎるな。二度は通じない手だぞあれは」


 正木にそう言われてつむぎは頬を膨らませた。


「いいのよ。あれで撃墜された敵は本当だったらもう二度と私の前には出てこれないんだから」


「あのレベルの敵兵でも、もっと技倆で圧倒できるようにならないとだめだ」

「はいはい、がんばりまーす」


 つむぎは戦闘服の革のベルトを緩めながら口を尖らせつつ答えた。


「まともに魔法をくらってたからあの人たちしばらくは動けないわよ。私もリンと一緒に海で遊んできていい?」


「だめだ。次は私が相手してやる」

「うへー」


 今度はおそらくつむぎが撃墜されてしまうだろう。魔法フィールドのおかげで大怪我はしないまでも、打たれればそれなりに痛い。勝てれば撃たれなくて済むのだが、まだ正木には勝てる気がしない。つむぎは顔をしかめて残念がった。


「それに、リンには孔雀くじゃくに行ってもらう」


孔雀くじゃくに!?」


 つむぎとリンが同時に言った。


「ああ。先日もまたデボラさまから依頼が幾つか来ていただろう。評議会に行ってあれらの中からまだ片付いていない一件を手伝うと伝えてきてくれ」


 孔雀くじゃくというのは魔法界を統べる魔法評議会がある惑星のことである。つむぎも一度連れていってもらったことがある。緑の多い美しい星で、評議会からの依頼を受ける、高位の魔術師たちの冒険者チームが数多くいることでも知られていた。


「評議会の依頼を手伝うなんて珍しいですね!」


 リンが言った。確かに、とつむぎは思った。時折届く魔法通信便の手紙の中には、魔法評議会からの依頼があって、正木はそれにはすべて目を通すけれど、よっぽどのことがない限りその依頼に応じることはないとリンが教えてくれたのを思い出した。実際、つむぎが正木とリンと暮らすようになってからは一度もそういった依頼に応じたことはなかった。


「そろそろつむぎに実戦の経験を積ませてもよいと思ってな」


 正木はつむぎを見つめながら言った。

 つむぎは正木に見つめられると、いつもは、なぜだか恥ずかしい気持ちになってしまうのだが、今日は正木がかけているサングラスのおかげか強気になれた。


「もっと早くてもよかったわよ!」

「ふふふ、リン……だとさ」


 リンがつむぎの腕をさすりながら言う。


つむぎ、油断しちゃだめだよ。評議会の依頼で行くってことはきっと行き先は……」


 つむぎは分からずにリンと正木の顔を見比べた。


「え?なになに、どこなの?」


正木はリンに頷きながら言った。


「そう。科学文明の星だ」

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