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ハクとニーナが玄関まで歩いて行く足音が聞こえた。
「……?」
急にだまりこんだ仲間たちを不思議に思って紬は首をかしげた。
「み、……」
みんなどうしたの?と言いかけた紬に、リンが真剣な眼差しで見つめてきたのを見て言葉を飲み込んだ。
ハクとニーナが玄関から出て行った様子。
正木が、手にしていたバックから何やら小さな魔具を取り出して食堂のテーブルの上に置いた。小さな球体のその魔具はテーブルの上で浮いたかと思うと、かすかな淡い青い光りを出してから消えた。
正木は立ち上がり、近づいてきたデニとリンに頷いて、バックから魔具をいくつか取り出して二人に渡した。
魔具をいくつかずつ受け取った二人は足早に食堂を出て行った。
正木はゆっくりとバッグを持って食堂を出てリビングに戻ろうとする。ズルとリリーもそれに付いていこうとしているので紬も立ち上がった。
なんなのよ。みんな黙って何をしているの!?
内心訳が分からずそう毒づいていたが何かあるらしいと思いおとなしくしていることにした。
リビングで正木はさきほどの魔具を三つほど設置したようだ。
食堂では一つだったのに、ここでは3つ。リビングが広いから?
紬は腕を組んでその様子を見ていた。
リンとデニは寝室のほうへ行ったようだ。しばらくすると両端の寝室に続く扉から出てきた。
二人は正木に近よって頷いて合図をした。
「よし、自由にしゃべっていいぞ」
正木が言った。
「えっ!?今まで自由にしゃべっちゃいけなかったの?」
紬は驚いて聞いた。
「盗聴されている恐れがあったからな」
デニがそう言いながら落ち着いた様子でソファに腰掛ける。
「と、とうちょう……?」
「紬さん、こういうことです」
ズルも椅子に腰掛けて話しはじめた。
「科学文明でこういった状況では、僕たちの話す内容を盗み聞きするための機械を設置されることが多いんです」
「盗み聴き……」
「はい。彼らだけでは僕たちの翻訳魔具の効果外ですが、今まで話し、理解した内容からそろそろ音声言語を学習して単独で意味を理解することも可能でしょうしね」
「……」
「盗聴されるということだったら魔法界でもよくあることですが」
「ごめん、私知らなかった……」
「大人のおどろおどろしい世界では、です。魔法で防御フィールドを張って対処する手もありますが、それだと相手は僕たちが盗聴に気づいて対処したということが分かってしまいます。今以上に、敵対行動を取るかもしれないと警戒させてしまうでしょう」
「そうね」
「そこで正木さんが使った魔具の登場です。あの古代人の魔具はそういう科学文明の機械にも対処できる優れもので。適度に僕たちの声を作って盗聴器だけに流してくれるんですよ」
「私たちの声を作って?」
「はい。勝手に魔具がうまいこと捏造してくれるんです」
「そうしたら盗み聞きしている者には私たちが盗聴っていうのに気づいたことが分からないってことね」
「ご名答」
紬は正木のほうを向いた。
「私知らなかったから。変なことしゃべったりしてなかったかな」
「大丈夫だ」
正木は落ち着いた声で答えた。
「お前は科学文明にまだ詳しくないし、盗聴に気づいていなかったとしても当然だ。それにこういった経験をお前に積ませることが今回の大きな目的でもあるからな。正直、それに比べれば私にとってはこの星の災厄がどうなるとしてもさしたることではなかった」
紬はそれを聞いて心臓が早鐘を打ちはじめたのを感じた。
この星のことよりも私のほうが重要って言わなかった?今……さらっと言った愛の告白かしら……
「とはいえ、関わり合ってしまえば何とかしてやりたいと思ってしまうのだがな」
「そうですよ。ハクもニーナも悪いアンドロイドじゃないと思う」
リンが言った。
「盗聴は対処できたんだろうけど」
リリーがソファの上から言った。
「映像で盗み見されちゃうようなことは大丈夫かしら」
紬はリリーのおへそ丸出しの格好を見て、それを気にするなら露出高めのその格好も気にするべきと思った。
「監視カメラのようなものはなかった。大丈夫だ」
正木が言った『カメラ』という言葉の意味はよく分からなかったが、きっと盗み見するための機械なのだろうと紬は理解した。
「で、どうするんだ?明日の会議には参加するとして……」
デニが正木に問うた。
「そうだな……」
正木は少し考えてから続きを言った。
「ハクの話しで存在することが分かったレジスタンスが気になるな」
「そうですね。人工知能や機械に反抗する人間たちの組織なのでしょう。テロリズム的な破壊活動を行っていると言っていましたが」
ズルは照明の光を眼鏡できらりと反射させながら言った。
「明日は二手に分かれて、俺のほうがレジスタンスと接触を試みようか?」
デニが提案した。
「いや。まだ別行動は危険だ。固まって行動しよう」
正木は即座に答えた。
「まずは明日開催される会議での情報を得て、それから考えたいが、レジスタンスに接触することは必要だろうな」
「はい。僕もそう思います」
ズルが同意した。
「オーケー。じゃあ俺は筋トレでもしてから寝るかな」
デニはそう言って自室に向かった。
今日はいろいろあって疲れた。紬は思った。
はじめて科学文明の星に来てデニたちともはじめて会って、科学についての知識を頭に詰め込んだ。
頭の芯のほうが重い感じ。疲れた感じ。
私の体、本当に土人形なのかな。疲れまで人間として生きていたときと同じ感じがする。
「紬。疲れたね」
リンが優しく言った。
「お風呂に入って、今日はもう寝よう」
「うん」
そうしよう。お風呂に入ってさっぱりして寝よう。
明日はまた経験したことないことがたくさん起きそうだ。
紬はそう考えてリンと連れ立って寝室に向かった。




