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大国間に勃発した戦争は激化の一途をたどった
大国は長く続く戦争によって力を失い城塞化した都市が人々を支配するようになった
都市国家間でも戦争は続いた
戦争に用いられた化学兵器や核分裂反応を用いた原子爆弾によって大地の汚染は広がった
少なくなった汚染されていない土地を巡って戦争はさらに続いた
コンピュータ科学が最も進んだ都市で中央人工知能トピカが開発された
その都市では一切の政治を人工知能トピカに委ねた
トピカは都市メトロポリスを極限まで効率化、城塞化し人間への抑圧を強めた
他の都市でもトピカを模範する動きも見られはじめている
しかし、人工知能の支配に対抗する地下組織レジスタンスが現れ、トピカの機械活動にテロリズム的な破壊活動を行うようになった
レジスタンスの活動資金は敵対都市国家が供与しているとトピカは疑っており、それが最近の都市国家間戦争の激化に繋がっている
「当初はあなた達のこともレジスタンスの一派かと思ったのよ」
ニーナが言った。
「レジスタンスというゲリラ組織までいるとはな。戦争にも終わりは見えないし」
デニがうんざりした様子で言った。
「心配しないでちょうだい。もうすぐこの戦争もトピカが全部終わらせるわ」
「どうやって?」
正木が鋭く問うた。
「端末には具体的なことは知らされていないけれど、大きな計画はずっと進められてきたのよ。明日はその第一歩を各都市国家の要人に示すことになると聞いたわ」
「……僕たちがここに派遣されたタイミングといい、おそらくそれが災厄……すくなくともその引き金のようなものかもしれませんね」
ズルが怖い顔をして言った。
「そうだな……」
正木も憂いのある表情だ。
「トピカと話をさせてくれ。私たちの経験から助言できることがあるかもしれない」
正木がニーナに向かって言った。
「トピカは誰かに意見を聞いたりしないわ。すべてを把握して指示を出すだけ」
「そんなことはないはずだ。人工知能といえど思慮深いものは人の意見も聞く」
正木は食い下がったがニーナは両手を挙げて首を振った。
「では明日のことに我々も参加させてくれ」
「……トピカ了承」
ハクが機械的な声で言った。
「トピカは最初からそのつもりのようです」
沈黙が流れた。
明日、各都市の要人を集めておいて何が起こるのだろう。人間たちは紬も含めて、それぞれに心配な気持ちでいた。
チーン
キッチンのほうから何かが鳴る音が聞こえた。
ぱっとリンが立ち上がる。
「焼けたわ!食後のデザートにと思ってお菓子を焼いてたの。コーヒーも煎れるからちょっと待っててね。紬、手伝って」
「う、うん」
リンは朗らかに言って紬を連れてキッチンに歩いていった。
「みんなしけた面しやがってさ。明日のことは明日になってみねーと分からないんだから心配したってしょうがねえよ」
デニが周りを見回しながら言った。
「まあそれもそうだな」
正木は渋々といった様子で同意した。
「あたしは何も心配なんかしていないよ。早くライフルをぶっぱなしたいだけ」
「リリーさんはそれでもいいかもしれないですが、僕はドッキドキですよ」
「ズルは心配症ねえ。今度撃ち方の練習してあげるわ」
「リリーさんみたくこんなときでも落ち着いていられるようになるなら、そうですね是非お願いします」
「スカッとするわよ」
リリーは少し自慢げに言った。
リンが作った焼き菓子はとてもおいしかった。外側はパイ生地がサクサクで、中にはチョコレートがとろけている生地が絶妙な甘さだ。
紬はリンのことを召喚魔法使いの大家だと思っていたがお菓子作りに関しても、もう追いつけないくらい腕を上げたなと思った。
人数分よりも多く焼き上がった良い匂いのする焼き菓子を、おかわりしようかとも思ったが年ごろの紬は太ってしまうことを気にしてやめておいた。
あれ、私はホムンクルスなんだから太らないかも?でも戦闘訓練で鍛えると筋肉痛になるし、筋肉だって増えてきた気もするからここは我慢しないとね。ほんとこの体は良くできてるんだから。
焼き菓子を食べながらハクが明日の予定について説明した。
明日は各都市の高官たちとトピカ上層部の者が一緒になって、とある都市に行き、トピカを中心とした新しい政治体制についての会議を行うそうだ。
正木たちにはその会議に参加し、傍聴することをトピカが許可してくれたと伝えられた。
「その会議の内容を把握できるのは僕たちにとってかなりプラスですね。トピカが言う新しい政治体制というのは重要そうですし」
ズルが指先で眼鏡の位置を直しながら言った。
「そうだな」
正木も頷いた。
「喜んで参加させてもらおう」
正木はそう言ってからコーヒーをすすった。
明日の予定が決まり、ハクとニーナはコンドミニアムを辞すると言った。
「明日はあの時計で」
と言ってハクは壁に掛けられた丸い時計を指さした。
「八時三十分に迎えにきます。それまでにどうぞ外出の支度を済ませておいてください」
ハクは正木、デニ、リリーの顔を見てから付け加えた。
「武器はメトロポリスを歩いたときのようにしまっておいてください」
正木とリリーは頷いた。
「へーい」
デニが軽い声で答える。
ハクがリンと紬、ズルにも声をかけた。
「できれば魔法の杖もしまっておいてもらえると助かります。そうしてもらえると、各国の高官に若者がなぜ杖を持っているか説明するのを省けますから」
「分かった」
リンが朗らかに言った。
「ではみなさん、おやすみなさい」
ハクが丁重に挨拶して食堂を出て行こうと歩き出した。
ニーナも立ち上がりハクに付いていきかけたが、ツカツカとリンの近くに歩いてきて言った。
「あ、あのお菓子……とってもおいしかったわ。また今度作ってもらおうかしら」
リンはパッと明るい笑顔になって答えた。
「うん!いいよ!もちろん」
ニーナも笑顔になり、おやすみなさいと挨拶してから食堂を出て行った。




