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「さーて、あなた達は……」
ニーナはそう言ってしばらく考え事をしているかのように無言になったが瞳に赤い光がまたたいた。
「バカじゃないの!?禁断の森に入って警戒機材を破壊したですって?」
「トピカからは処刑指示が出ています」
ハクが言った。
「じゃあ決まりね。おつかれさまでした~」
ニーナはそう言って立ち上がり、立ち去ろうとした。
「待ってくれ」
正木が言った。
「我々はこの星の住民ではない。他の星から来たんだ。君たちの星で何かが起ころうとしている。それが何なのかを見極め、危険なことだったら阻止することに協力するために」
ニーナは振り返って正木を見た。瞳が赤く光る。
そこへ紬がトレーを持ってやってきた。ニーナの前に琥珀色の液体が入ったグラスを置く。シチューの入った小皿とスプーンも置いてあげた。
ニーナはそれらを見下ろしていたが、やがて席に座り直した。スプーンを持ちシチューを一口すくって口に入れた。
「あら、おいしいわこれ」
そう言って紬を見る。
「ありがとう」
と続けてニーナは言った。
紬は感謝されて笑顔になるわけでもなく恥ずかしくなって目をぎゅっと閉じてごまかした。
「この方が正木涼介です」
ハクが正木を紹介した。
「リン、紬、こちらがリリー、ズル、デニ・モーラです」
続けて全員の名を告げた。
「ニーナ了承。ふふ」
ニーナはリンのほうを向いて少し笑いながら言った。どうやらあだ名を気に入ったらしい。
リンもにっこりと笑顔を見せた。
「五三八九。あなたはどう思うの?」
ニーナはハクを見て言った。それをリンが遮る。
「ニーナ。彼はハク。ハクよ」
「えっ」
「ハク」
「あだ名ね。分かったわ。じゃあハク。あなたの考えは?」
「正木の言うことは本当のことのようです。彼らは不思議な力を持っています。そのことに関してはトピカも関心を抱いているのです」
「それを踏まえてあなた自身の考えにしてみて」
ハクは瞳を白く輝かせた。
「正木たちはトピカに利益をもたらすことができる可能性があると思います。少なくとも現時点で正木の要求をのむことで今後のトピカの不利益はなさそうです」
「警戒機材を破壊された不利益があるのでは?」
「はい。ですが処刑してしまえばその損害だけが残ります」
「正木の要求とは?」
「この星の状況とトピカの立場を彼に説明することです」
「それを説明することでトピカには将来的にリスクが生じるのでは?」
「それは否定できません。ですがあの森の中から未知の武力が出現するリスクに対する対応策も同時に検討できる点を考慮すべきです」
「……裁定」
ニーナはそう言って全員に向かって言い渡すということを明らかにするために、一度端から端まで皆の顔を見回した。
「トピカ了承。正木以下六名がトピカ機材を破壊した行為についての処分決定は無期限で延期することとする」
ニーナはあまり感情のこもっていない口調で言った。
「なんだよ、延期って。俺たちの命を握ってますって感じで気にくわねえな」
デニが言った。
「警告はしたので次からは容赦しませんって感じでしょうか」
とズル。
「助かりましたって感謝すべきかな?ニーナ」
正木は無表情のまま口調も淡々とした調子で聞いた。
「感謝など不要。あんた達が敵対行動を取らなければ問題ないんだからそう腐ることないわよ」
高飛車な調子に戻ってニーナが言った。
「それに、今、他の都市の高官を招待して交渉をしてるんだけど、そいつらと同じくらい良い待遇なのよ。この部屋だって悪くないでしょ?」
「確かに……な」
正木は渋々同意した。
「じゃああんた達は何者なの?どこから来たの?そっちから教えて」
「分かった」
正木は素直にそう答えて静かに語り出した。
自分たちが魔法使いであること。
魔法のゲートを通って遠い星からやって来たこと。
この星の災厄を心配していて、それを防ぐ手伝いをしに来たこと。
魔法評議会のことや他の科学文明の星の存在などは話されなかった。ズルに説明させず正木が自分で話したのは、そういった開示する情報をコントロールするためなんだなと、途中で紬は気付いた。
ニーナは正木が説明し終わるまで何も言わずに静かに聞いていた。琥珀色のお酒の入ったグラスを片手に、時折それの匂いを嗅いだり少しだけ口にふくんだりしながら。
「その魔法のゲートとやらを破壊してしまえば、あんた達は元の世界に帰れなくなるし、向こうからあんた達みたいなのがまた来ることもなくなるのかしら」
正木が語り終わるとニーナは質問した。
「私はあの森のゲートがこの星で唯一のものだと言った覚えはない」
ニーナはそれを聞いて瞳を赤く光らせた。
「もう一つだけ教えて。この星にそんなおせっかいをしにきた理由はなんなの?あんた達にどんな利益があるの?」
「私たちはしがない冒険者チームでここには仕事として来たのだ。依頼を成功させればかなりの報酬がもらえる。大成功とはいかないまでも、情報を持ち帰るだけでも、それなりのな」
「……」
「機会があれば私たちの依頼主に聞いてみるしかない。私も知らないのだ。だが推測するに……この星の誰かからの間接的な依頼なのかもな。災厄が起これば不利益はこの星に住むおまえ達だけのものなのだから」
ニーナはちかちかと瞳を赤く光らせた。
「分かった。トピカはあんた達にたくさんの質問をしたがっているわ。だけど明日のことが終わってからにするそうよ。ひとまずはあんた達の話を信じましょう。警戒機材を損害もなしに破壊したのもあんた達がその魔法とやらの力を持っていることの証だろうし」
「一体破壊されかけたがな」
「一体……?」
「ニーナ。リンと紬はホムンクルス、こちらの世界で言うアンドロイドのような人造人間なのだ」
ハクが説明した。
ニーナはそう聞いてリンと紬を注意深く眺めた。
「そうなの?普通の人間のように見えるけれど……それに人造人間ならもっと完成度高く作るような気もするけど」
ちょっと!私を見ながら言うのひどい。
紬は内心で怒った。
そりゃあリンと比べちゃったら私なんてって思うけど……。
「我々のあのタイプの機材を死者なしで破壊した敵は今までいなかった。それでトピカはあんた達にとても興味を持っているの」
「お褒めにあずかりましてこりゃどうも」
デニがおどけて言った。
「戦術結果ビデオを見たわ。あの最後のスナイパーの腕はなかなかのものね。この星の敵もあれを狙ってくるけどほとんど成功したことない」
みんなが一斉にリリーを見た。
「何よ……」
リリーはそう言ってそっぽを向いた。リリーの横顔を見て耳が少し赤くなっているのに紬は気づいた。
「それで?この星のことについて教えてほしい。明日何かあるということだが」
正木が言った。
「明日のことは今の状況が分かってからね。ハクに説明させましょう」
ニーナに促されてハクが語りだした。それはこの星の大国間に戦争が起きてからの歴史だった。




