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コンドミニアムの中には、大きな食堂もあって、正木たち全員とハクの七人が座ってもまだ半分の空席があった。
リンがニコニコしながら席を決めて皆を座らせた。所謂お誕生日席にハク。ハクの右手には正木チームで正木、紬、リン。左手のほうにデニチームでリリー、ズル、デニ。
給仕はリンと紬がテキパキと動き回って進めた。暖かいシチューの香りが食堂内に漂った。焼きたてのパンも支給され、その香ばしい匂いも相まって、デニは給仕中にも「はやく食べさせろ」と催促した。
「さあ!召し上がれ~」
リンが給仕を終え席に座ってから楽しそうに言った。
「材料がたくさんあったから大きなお鍋二つ分も作ったの。おかわりできるから言ってね」
かちゃかちゃと食器の鳴る音が響いた。
「おいしい」
とリリー。
「うん、うまい」
パンを頬張りながらデニも言った。
紬もシチューを一口食べてみてなかなかおいしくできたと思った。
「ハク。どうかな?」
リンが聞いた。
ハクは、食事を取る能力は備わっていた。他の者と同じようにスプーンを使いシチューを口に入れた。瞳に白い光がちかちかとまたたいた。
「このシチューは良好な味がします。私は気に入りました」
「あはは。良かった」
リンが心底嬉しそうに言った。
「たくさん食べてね」
と付け加える。
「端末五三八九。食べながらでいい。この星のこと、トピカという都市のことについて教えてくれないか」
正木が落ち着いた口調で言った。
「正木さま!ハクですよ。ハク」
リンが隣の正木に強めの調子で言った。
「ハク」
正木は仕方なく言い直した。
「承知しました。ですがもう少しだけお待ちください。お約束したとおり裁定担当端末と一緒に説明したいのです。もう間もなく到着します」
「分かった」
正木はすぐに了承した。
しばらくは皆静かに食事を進めた。これからどのような話し合いになるのか不安を抱えつつ。なにしろトピカ側は正木たちを処刑すると言っていたのだ。だがリンや紬の働きもあって、端末五三八九、ハクとは友好な関係を築きつつあるように思われる。
まずはこの星の状況についての知識を得たいものだが。正木は考えた。そうすればこの星の災厄を未然に防ぐという自分たちの目標に向かってどのようにすれば良いか、やっと考えることができるだろう、と。
しばらくしてからコンドミニアムに誰かが入ってきた気配がした。パタパタという足音が食堂に近づいてきて一人の女性が現れた。
女性は二十代で、豊満な肢体にぴったりとしたスーツのような服装を着用し、ボディラインを強調するように、体に密着しているスカートを履いていた。足下には高いヒール。
紬はこの女性の口元に印象的に思えるほくろがあるのに気づいた。
「五三八九。ここにいたのね」
女性は艶のある声で言った。
「都市連合のじじい共の相手で疲れたわ。見た目は若いのに話題がじじい臭いからすぐ分かるっつーの」
そう言いながら空席を見つけてデニの隣に座った。
「あら、かわいい子ね」
女性はデニを見つめて言った。
「ど、どうも」
デニははち切れそうになっている女性の胸部にちらちらと視線を投げつつ言った。
「最後にはじじいならじじいらしくもうちょっと外見カスタマイズを考えなさいよって言ってやったわ。若いアイドルみたいな外見でさ。心と体が合ってなくてキモいって。あたしに言い寄るくそじじいもいてウザかった~。夜にセクサロイドをあてがってやるから待ってなって言ってやったの」
「……この人がハクが言っていた裁定担当の人?」
ズルが問うた。ハクは無表情で頷いた。
「はい。端末二七です」
「端末ってことはあなたもアンドロイドなの?なんかそんな感じしないけど」
紬が女性に向かって言った。
「こんな天然の巨乳があると思う!?」
女性はピシリと言い返した。と同時に少しわざと胸を揺らしたので隣の席のデニは目を見開いて凝視してしまった。
「ま、私は生きていたときの記憶があるから、ああいうじじい達には受けがよくってトピカには重宝されてるのよ」
「じゃあ二七とかじゃなくて名前があるんだよね。教えて」
とリン。
「そんなのもう忘れちゃったわ。あたしはトピカに捕らわれし名もなき女。ただそれだけ……」
端末二七はそう言って憂いのある目をして横を向いた。
「じゃああなたのことニーナって呼んでいい?二七だからニーナ」
「……?」
紬は思った。リンはこっちの言葉の響きであだ名を付けたみたいだから、向こうはよく分かってなさそう。
「よく分からないけど……悪くない響きだわ。じゃあそう呼んでちょうだい」
「うん!」
リンは嬉しそうに言った。
「あの、じゃあ、えと、ニーナ」
紬は立ち上がってニーナに言った。
「あなたもシチュー食べる?」
そう言われてニーナは紬を見た。
「あたしはアンドロイドよ。食べるわけないでしょ。でもそうね、お酒を持ってきてちょうだい」
なんだか矛盾する答えだなと紬は思った。
「アンドロイドでもお酒で酔えるの?」
「酔えるわけないでしょ。……でも、お酒の香りに酔いたいの」
「……分かった。持ってくる」
紬はよく分からなかったがそう言ってキッチンのほうに歩いて行った。




