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シリーズ第二弾の『科学文明探訪』を読みやすくしてWeb版を連載開始します
こちらはまだ未完なので、完結できるようにがんばります
どうぞよろしくお願いします!
はるか数万年前の昔
神位魔法を操る古代人は約百個の銀河を支配していた
彼らは魔法と科学の技を使って銀河を縦横無尽に行き来できるゲートを建造し、
奇跡的な秘術で、数々の魔道具も作った
それらの力を人間たちに分け与えた
しかし人間と科学の組み合わせは世界を破滅させる危険があることに古代人は気付いていた
古代人たちがさらなる進歩を求めてこの宇宙を去るとき、
すべてのゲートには機械を通さない秘法が施された
こうしてかつて古代人がいた領域は科学を使わず慎ましく生きる魔法使いたちのものとなった
――――
紬は長い赤毛を後ろで束ねていた。大きく左旋回すると束ねた赤毛は右にゆらゆらと揺れた。細身の小さな体は魔獣鷹という戦闘にも使える、飛行する大きな鳥の背に乗っており、その形に合わせて作られた鞍の上で、嘴に付けられたハミから伸びた手綱を左手だけでぎゅっと握っていた。紺碧の海面を見下ろせるが、それは紬と魔獣鷹が空を右に左に、上に下に方向転換するたびに、見かけ上の水平線が振り子のように揺れて見えた。
紬は魔獣鷹に回避行動を取らせた。左に大きく旋回したあと下方向へと、つまり左下のほうへ降下し、すぐさま方向転換を試み、上昇気流を捉えて右上に上昇していく。後方から稲光のような雷撃が紬の乗る魔獣鷹をかすめていった。紬は空を飛行しつつ敵の乗る魔獣鷹に追われていた。
中天にある恒星の光が眩しい日中だった。視界は良好。眼下はどこまでも続く青い海だった。雲一つなく晴れ渡った空で、人間たちは愚かにも争い合っていた。
紬は首を巡らして状況を把握しようとした。常に回りに気を配れといつも念を押されていたからだ。
敵は三騎。
後ろから紬を追ってくる電撃を放つ魔法使いが一騎。
右下から並走しつつ紬の様子を伺っている一騎。
左上からこちらに向かってくるのは氷魔法のやつだ。
包囲したつもりか!?
紬は思った。それならこうしてやる!
紬は左上に旋回上昇して氷魔法の敵に向かっていった。衝突コース。後方の電撃の敵は……ついて来ている。いいぞ。それから右手に持った魔法の杖を振って火炎魔法を繰り出した。飛ばすのではなく空中に置くような感覚で。
氷魔法の敵は突っ込んでくる紬を見て、右に避けようとした。紬は小さな火炎弾を杖から打ち出しながら、敵に合わせるように右に旋回。敵は火炎弾を容易に避けつつ紬に魔法を打ち込もうとしている。そのとき、後方で火炎の猛烈な爆発が起きた。紬がさきほど置き放った火炎弾魔法だ。後方から紬を追っていた雷撃魔法の敵は回避行動を取ったはずだ。紬と交差するように飛び交った氷魔法の敵も一瞬は炎の爆発に気を取られただろう。そして視線を紬に戻す。しかし紬は魔獣鷹の背にはいなかった。紬は魔獣鷹から飛び降りて爆裂を左に回避するように旋回した後方の、雷撃魔法の敵へ正確に狙いをつけて、逆に雷撃魔法を放って命中させた。
間を置かずに今度は左上に杖を向けて先ほど交差した氷魔法の敵を雷撃した。
これも命中。
敵からしたら予期しない方向から狙撃されたようなものなのだから仕方なかっただろう。
しかし、今、紬は無防備な状態で落下している。敵はもう一騎いるのだ。最初に紬から少し離れた右下のほうで並走していたやつだ。その敵はさきほどの戦いを見ていたはずだ。そして当然、今、紬が自由落下していることも分かっているはず。味方を撃ち落とされた怒りを抱いてやってくるだろう。
空中であるので相対的なものだが、落下している紬に向かって、降下しつつ敵が近づいてきた。杖を紬に向けている。
撃ってくる攻撃が瞬時に敵に届く雷撃魔法だったら、紬にも避ける自信はあまりなかった。
しかし敵が撃ってきたのは火炎魔法だった。
自分の得意な魔法を使ったのかな?
紬は思った。何にしろ助かった。
紬は杖を横に向け風圧魔法を使うと火炎弾を間一髪で避けることができた。それを見た敵は驚いた様子を見せたが、次の攻撃を撃つために杖を振ろうとした。
紬には一弾を回避することで自分の戦いを有利にするには十分だった。なぜなら愛鳥が紬を救おうと急降下して向かっているのを知っていたからだ。信じていたからと言い換えてもいい。
紬の愛鳥イムールは時折羽ばたきながら急降下して、紬と同じ高度まで達すると、翼を開いて横からかっさらうようにして紬を背に受けた。
敵の第二弾は空を切り裂いただけだった。
これで紬は魔獣鷹の背に戻り、今や敵とは一対一だ。しかも紬は敵の後方の位置を取った。こうなれば、紬は生まれ育った星では「紅の魔女」と異名を取ったほどの空兵の手練れだった。雷撃弾を敵に当てて撃墜するのにそう時間はかからなかった。