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Scene5『かえるぴょこぴょこ②』


今思えば、あれだけ大人数で大騒ぎしていたのだから、誰かしら先生に気付かれても不思議ではない。


ゆえに、熱血先生の突然の乱入は、別段おかしな話では無かったのだ。


もしくは、帰れコールが始まった時に立ち去った誰かが、先生を呼びに行ってくれたのかもしれない。


ともかくそんなわけで、暴力沙汰や流血沙汰になる前の絶妙なタイミングで先生が介入してくれ、一大事は免れることとなり。


当時のオレは、先生からの依頼の下、桜川優斗(さくらがわゆうと)を探す運びとなったのであった。


「てか...なんでオレなんだよ...」


校内を走りながら(途中ですれ違う先生方に「廊下を走るな」と窘められながら)、重大ミッションを任された事に対して首を捻っていた。


後々、熱血先生に「なんであの時オレに優斗を追わせたのか」と、聞いてみた事がある。


理由は2つあったらしい。


1つは「あの時お前は手拍子してなかっただろ?」とのこと。


児童一人一人に目を向けてしっかり向き合う、あだ名通りの熱い先生だったが、あの狂気に染まった群衆の中でもよく観察していたものだ。(「でもあの状況を黙って見ていた事は許さん」とキッチリ怒られたが。)


そしてもう1つが、「お前なら、優斗も心を開いてくれると思ったから」とのことだった。


「お前なら.....ねぇ.....」


思わず苦笑した。


つまるところ、オレはそういう評価の子どもだった。


誰とでも仲が良くて、話せて、遊べて、クラスのムードメーカーとか潤滑油なんて言われる、サッカー小僧とは似て非なる点で評価を得ていたのだ。


だが、『誰とでも仲良くしていた』つもりは一切無くて。


波風立てないように、軋轢を生まぬように、嫌われないように、目を付けられないように、空気を読んで、必死に、慎重に、細心の注意を払っていただけで。


全て、自分が孤立しないように―――一人ぼっちにならないよう、頑張って立ち回っていただけなのだ。


まぁ、その涙ぐましい努力の結果、同学年のほぼ全員と遊びに出かけるほど顔の広い(がきんちょ)になったのは事実なのだが。


ただ一点、先生が間違っていたのは。


オレも当時の時点で、優斗とだけは、関りを持って無かった事だ。


「....どーすっかなー.........」


ここでのどーすっかなーとは、「あのサッカー小僧を相手に単騎で喧嘩を売るヤベー奴に、どういう風に話を切り出そうか」という悩みである。


先生が呼んでるから来い、とシンプルに伝えようか。


しかしそこで反抗されたらどうしよう。奴には、自分が納得しなきゃ梃子でも動かぬ『スゴ味』があった。


まぁ流石に手は出してこないだろうから、喧嘩にはならないだろうが。


なんて、うんうん唸りながら探していると。


案外簡単に優斗は見つかり。


結論から言って、オレがしていた心配は、全て杞憂に終わった。


「...あっ.....」


近くに川が流れている、校舎裏の日陰地帯。その誰も居ない空間で、優斗は一人、ぽつんとしゃがみ込んでいた。


さめざめと泣いてるのかと思ったが、そうでは無いようで。


手には先ほどのプラカップを持ち、それを草むらに向けて構えていて、やがてそこから大きな塊が、草むらへ飛び出すところを確認した。


「.....どこまでもカエルかよ」


一貫してブレない行動原理に、呆れと尊敬が入り混じった感情を抱いた。


いきなり教室から飛び出したのは、囚われのカエルを逃がすためだったようだ。


先生が介入して有利な状況になったにも関わらず、その状況を捨てでも逃がすことに拘るとは、過去にカエルに助けられた事でもあるのだろうか。浦島太郎の逆バージョン的な感じで。


まぁともかく、何事も無くて何よりだ。


と、思っていたのだが。


何事も無かったわけでは無かった。


「なぁ、先生が―――」


声を掛けるべく、優斗に近付くと。


途端に、鼻を啜るような音が聞こえてきて。


オレが当初想像していた通りに、優斗は校舎裏で、一人さめざめと、泣き始めてしまった。


「............」


一貫して冷静に喧嘩を売っているように見えた優斗は、しかしそういうわけでは無かったようで。


四面楚歌のあの状況は、ちゃんと怖かったし、しっかり辛かったらしい。


無理もない。オレだってあんな事をされたら泣くし、そうでなくても直ぐにあの場から逃げ出す。奴らに言われるまでも無く『帰る』だろう。


怖くないわけでも、悔しくないわけでも無かったのだ。


それでも、コイツは立ちはだかったのだ。


たった一人で。


自分の事でもないのに。


「.....すげぇな、お前」


気が付けば―――今思い返してもビックリだが、オレは優斗に、そんな風に声をかけながら、背中をさすってやっていた。


膝を抱えて泣きはらしていた優斗は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で振り返り、一言。


「..........だれおまえ」


「.........................」


いやまぁ確かに。ロクに絡んだことの無い奴から急に話しかけられれば、そんな言葉が出ても不思議では無いだろうが。


仮にも慰めようとした奴に、それもクラスメイトに向かって吐く言葉としてはどうなんだろうか。2ヶ月一緒の教室に居たんやぞオレ達。


当時抱いた(※今も抱いている)なんとも複雑な想いを押し殺しながら、オレは優斗の背中をさすり続けた。


「オレは瞬。よろしく」


「.....う˝ん。よろじく..........」


そう答えて、再び俯き、はらはらと涙をこぼし続ける優斗。


なんとなく、その隣に座って、そのまま黙って二人で過ごした。


梅雨入りしたばかりの校舎裏は、じめじめして、少しひんやりしていて、めっちゃ蚊に刺されて。


結局、熱血先生がオレ達を探しに来るまで、優斗と一緒に座り込んでいた。


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