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Scene2『What a beautiful fxxking kidding』

人間ってほんとくだらねぇなって


そんな偏見を抱えながら生きています


『いいか!お前たちは選ばれた存在なんだ!』


『『『はい!』』』


『誇りある我が校の生徒なのだ!』


『『『はい!』』』


『少年よ!少女よ!大志を抱け!希望を持て!その熱い想いを胸に、明日もまた精進しろ!』


『『『はい!!』』』


『声が小さぁい!!』


『『『はい!!!』』』


『よし!!では解散!!』


『『『ありがとうございましたぁ!!!』』』


全員起立し、教壇に立つ教師に深く礼をする。教師はこれから戦地に赴くがごとく、颯爽と教室を出ていった。


一方のオレ達生徒は、礼の姿勢のまま、沈黙を保つこと5秒。


以上の異常なHR(ホームルーム)を以てして、晴れて放課後となるのであった。


「はぁー...」


教師が立ち去ったことを確認し、大きく息を吐く。


よくやるわ毎回―――なんて思いながら、改めて席に腰掛ける。


ため息を隠せないオレとは裏腹に、クラスメイトは誰一人として首を傾げず、帰り支度をする者、友人と話をする者、部活用のクソデカバッグを担いで走り出す者―――などなど。


その光景は、普通の学校の普通の放課後、と呼ぶに相応しいモノで。


今し(がた)行われていた『(たち)の悪いファシストの決起集会』みたいなHRなんて初めから無かったようだ。


こんな普通のクラスに、まさか毎日、毎朝、毎放課後、欠かさずアレが行われているとは到底思えない。


思いたくない。


あんなのがオレ達の日常の一部だなんて認めたくない。


「しかしまぁ...現実って非情だよなぁ...」


ぼやきつつ、諦めて帰り支度を始める。


一応、あの儀式について、何の目的で何がしたいのか、教師陣に聞いてみた事がある(もちろん言葉遣いとご機嫌取りには細心の注意を払って)。


曰く。


「これをやる事で生徒の気を引き締める事が出来る」


のだと言う。


具体的には、校門を出た後も、家に帰ってからも、朝起きて学校に登校してくるまでの間も、生徒達はこの『自鍾伸学(じしょうしんがく)高等学校』の生徒である事を自覚して行動できるようになる。らしい。


で、効果があるのかと言うと、



『帰ったらE:ros(イーロス)やろうぜ!』


『いいね!じゃあ先に射訓(しゃくん)行ってるわ!』


『いいなー、オレもPC欲しい...』


『E:rosならCSでも出来るぞ?』


『マジで!?どうやんの!?』



―――少なくとも、自宅学習の意欲には貢献していないようだった。


なぁーにが「明日からも精進せよ」だ。今日から精進しろよと。まだ8時間以上も残ってんだぞ『今日』は。その半分でも勉強に充てれば世界が変わるだろうに。


しかし、そういう具体的で現実的なアドバイスはせず、曖昧でぼんやりとした激励で『気分だけ』一流に育て上げ、それで満足するのがここの教師達なのだ。


明日も糞茶番祭典(これ)かぁ―――なんて億劫な気持ちを押し殺しながら、教材を鞄の中に突っ込んでいると。


「なぁーにため息ついてんだよ、影山」


3人のクラスメイトが、オレの机を取り囲むように集まってきた。


正面の男子を佐藤、右側面のを加藤、そして左側面を伊藤という。


校則順守、短髪黒髪、テストも体育も平均前後という、モブと呼ぶにふさわしいパッとしない連中で、いずれも仲良くしてい『た』面子だ。


つい先程、突然ハゲに呼び出された、昼飯を食べている時までは。


「別に。宿題かったりーなーって思ってただけだよ」


「嘘つけよぉ~。どうせさっきの件だろ?」


さっきの件、と言うのがまさに、そのハゲに呼び出された時の話で。


アレ以降ずーーーっと、その詳細を教えろと、この3人に粘着されているのだ。


「なぁ言えって...お前、何やらかしたんだ?」


その3(バカ)の内の一人、正面で仁王立ちをしている佐藤が、意地の悪い笑みで尋ねてくる。


今にも漏れ出しそうなため息を、頑張って押し殺しながら、テンション高めに返す。


「だーかーら!さっきも答えたろうがよ!なんもやってねーって!」


「あー、いいってそういうの。ほら言えよ。オレら友達だろ?」


そう言って肩を組んでくるMOB(モブ)その2、加藤の表情は、しかし友達に向けるソレでは無かった。


「どうやってコイツで遊ぼうかな」とでも言いたそうな、クソみたいなワクワクに満ちた顔をしている。


つまるところ、コイツらは『本当の事が知りたい』のではなくて。


『オレの事を無条件に貶めていい理由(エピソード)』が聞きたいのだろう。


「何もしてねーってば。中学の同級生について聞かれたんだってのー。隣のクラスのさぁー」


友達なんて上等な言葉よく吐けたもんだな気安く触んな〇ね気色悪い―――と言って振り払いたい気持ちを、ぐっとこらえながら。


努めて冷静に、そして心底気だるそうに、友人とじゃれ合っているように見える形で、肩を組まれたまま答える。


「隣のって...あの不登校の?」


反応したのは、後方腕組みMOBの最後の一人、伊藤。


「あれ?お前知ってんの?」


思わず聞き返してしまった。


部活にも入らず、(あの担任教師(ファッキンハゲ)曰く)自分のクラスですら交友関係が皆無だった優斗が、別のクラスのモブ、もとい伊藤達と面識があるはずが無い。


にも関わらず、どうして伊藤(コイツ)優斗(アイツ)の事を知っているのだろうか。


答えはシンプルなもので。


「みんな知ってるよ。付いてこれなかった落ちこぼれだろ?」


実に嬉しそうなニタニタ顔で、佐藤が語ってくれた。


聞くと、学校の教育プログラムに付いて来れず、1学期終了を待たずして不登校になった生徒が居る―――なんて話を、聞いても無いのにわっざわざ隣のクラスの奴が教えに来たらしい。


で、その隣のクラスとウチのクラスの連中(バカども)


「脱落者が出た!」

「やはり自分達は選ばれた存在!」

「オレ達は優秀な生き残りなんだ!」

「エリート教育万歳!」


みたいなプチお祭り騒ぎになったのだとか。


「................えぇ」


そんなんで騒ぐの?てかそんな事触れ回っちゃうの?しかも万歳とか言っちゃうのぉ?ていうかこの学校の教育方針クッッッソ(ゆる)いって知らないのぉ?


なんてツッコミが大渋滞して、一瞬思考が停止してしまった。思わず漏れ出たガチ引きボイスに、佐藤達(さんばか)が同時に反応を示す。


「あ?」


「え?」


「なに?」


「あーいや、そんな騒ぎ気付かなかったなーって...」


「期末テストの朝だったからな。ほら、お前いつもギリギリに来るじゃん」


まぁね。


「普段から勉強してるからなお前らと違って」


「あ゛?」


oops(ウープス)。本音と建前間違えた。


「ごめん。つい本音出た」


「んだとぉー!?ちょっとテストの点がいいからって!!」


「わーごめんごめんごめん!!ごめんって!!」


「謝るんならテストの点寄越(よこ)せや!!」


なんて言いながらチョークスリーパーを仕掛けてくる加藤。シンプルに不快だったが、自分の失言が原因なので、甘んじて喰らっておく。本気で抵抗すればそのままトラブルに発展しかねない。


それこそ、こいつらが望んでいる『理由(エピソード)』が生まれるような。


「で、結局何聞かれたんだよ?その落ちこぼれ君について」


「続けんのかよその話...いや、向こうの担任に『なんで不登校になったか知ってるか?』なんて聞かれてさ。知らねーよって。当事者じゃねーんだから」


「ほぉ~ん?」


「で、『知らない』って答えたら『そうか』で終わり。オレはそのせいで授業を欠席にされて、それに関してあの教師から謝罪も弁明も無し。おまけに、あれからずぅーっとお前らにいじられ続けてさ。やってらんねーよほんと」


「そりゃあ、オレ達は心配してますからね?」


「ほう?何を?」


「お前も落ちこぼれないかってさ」


「はぁーー?なんだよそれ」


笑いながら抗議する。佐藤も加藤も伊藤も笑っている。


何が面白いのだろう。こちらは親友を散々「落ちこぼれ」呼ばわりされ、はらわたが煮えくり返る心境だというのに。


こいつらの感性は理解しかねるが、とりあえず笑っておく。


それで万事うまくいく。クラスは平和、交友関係は良好、今日も地球は回ってくれる。


気に入らない事を言われても、真に受けず、同じ言動を取って、曖昧に笑って、心の中で中指を立てればいい。


こんな連中と仲良くなんか成れないし。無理に仲良くなろうとしたところで、痛い目を見るのは自分だ。


なわけで、今日ものらりくらりと、0.02mmよりも薄い関係を保つべく、仮面を被って適当にやり過ごすのであった。


「そうだ、お前今日ヒマ?E:rosやろうぜ」


優斗の話題は飽きたらしく、また突拍子も無い事を提案してくる佐藤。


誰がテメーらとなんざやるかバァーーーカ、と、喉から出かかった言葉をぐっと飲み込み。


代わりに、気になった事を聞いた。


「お前らでパーティ満員だろ?オレが入る余地無くないか?」


世界が熱狂している覇権ゲーム『E:ros(イーロス)』、それは3人1組で戦うFPSであり、つまりは友達と一緒に遊ぶとなった場合、自分含めた3人で限界なのだ。


で、この佐藤・加藤・伊藤の3モブは常に一緒にE:rosをプレイしているので、当然オレが入る余地など無い。


が、しかし。


「それがな~、加藤が今日は来れないらしくてさー」


「わり☆」


今日は珍しく、その余地が生まれたらしい。


いつものオレなら、親交を深めるべく、二つ返事で了承するところだが。


「悪い。今日は先約があるんで」


「はぁ?珍しく付き合いわりーな。彼女?」


「だったら嬉しいんだけどな~」


言いながら、会話のせいで中断させられていた帰り支度を済ませる。


「他の奴とE:rosやるんで。戦場で会ったらヨロシク」


カバンを引っ提げ、軽く手を振る。後ろで「応よボッコボコにしてやるぜ!」とか言っていたが、アイツらとは文字通りランクが違うので、エンカウントすることは無いだろう。修行して出直しこい。


まぁ、エンカウントしたところで、オレ達の敵には到底ならないだろうが。






『今学校出た。30分ぐらいでログインする』


校門を出たところで、メッセージを送信。スマホをポケットにしまい、駅に向かって走り出す。


すると、走り始めて10秒も経たない内に、ポケットが震えた。


『今射訓。はよ来い』


「30分かかるっつってんだろうが」


画面越しに文句を言いながらも、気持ち足早に帰宅する。


人の話を聞こうとしないこの友人は、驚くほどのマイペースで、容易く人を振り回す存在で。


しかしオレにとっては、16年間生きてきた中で、唯一「友人」と呼べるかもしれない、そんな奇妙な存在。


最近は学校に通わなくなったため、鰻上りにE:rosの腕が上達している超長時間利用者(ヘビーユーザー)


名を 桜川優斗(さくらがわゆうと) と言う。


今日は―――というか、今日もアイツと、戦場へと繰り出すのだ。



:補足知識:

自鍾伸学高等学校(じしょうしんがくこうとうがっこう)

 関東のどこかに存在する私立の高校。共学。影山瞬(かげやましゅん)桜川優斗(さくらがわゆうと)が在学中。

 進学校を自称しているが、偏差値が50を下回っている事と、それを裏付ける緩い学習カリキュラムを採用しているため、名前の通りの「自称進学校」という評価に落ち着いている。

 一部の界隈からは「奴は自称進学校の中でも最弱...」と揶揄されている。

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