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Scene1『Rise of Middle finger』

本編はこちら...→ https://ncode.syosetu.com/n7019ip/


定期試験が明けてから、優斗が学校に来なくなった。


その件について、どういうわけか優斗とは別のクラスに属するオレが、別名『最終処分場』と呼ばれている生徒指導室へ呼び出しを受けたのであった。


「うーむ.....お前なら何か知っているかと思ったんだがな.....」


そう言って困った表情を浮かべているのは、オレをこの場に呼び出した張本人、優斗のクラスの担任教師だ。


同じ中学出身で、特別仲が良かった(と、教師間で認知されているらしい)オレに、あいつが不登校になった原因を聞き出したかったようだが―――


「知らないですよ、クラスも違うんですし。なんでオレに聞くんですか」


わざと大げさに迷惑そうな素振りを見せると、担任は大きくため息をついた。まるで唯一の頼みの綱がこれで切れてしまった、とでも言いたげな様子だ。


「そうか、参ったな.....」


「参ってるのはオレの方ですよ。昼休みに急にクラスに来て「ちょっと生徒指導室に来い」とか言われて.....生きた心地しなかったんですからね」


当然、入学してからのこの2ヶ月、いわゆる『悪いこと』をした覚えは無い。普段の素行にも抜かりはなく、提出物もテストの点数にも、呼び出されるような心当たりは一切無い。


それにも関わらず生徒指導室(こんなところ)へ連れ込まれるなんて、一体なんの濡れ衣を着せられてどんな魔女裁判が始まるのかと、まだ半分も食べていない弁当をリバースしかけたほどだ。


おまけに、ようやく信頼関係を築きつつあったクラスメイト達に、「えぇアイツそういう奴だったの?」なんて言いたそうな白い目で見送られたのだ。こちらとしては、ぜひとも5時限目の授業が始まる前に、彼らに向けて弁明の会見を開いて欲しい。切実に。


「そいつはすまなかったな」


口頭では謝ってきた教師は、しかしこちらの目を見て謝ったわけでも無く、頭を下げたわけでもなく、大して「すまない」と思っている様子も無さそうだった。


まぁ―――そりゃそうか。


コイツは、自分は一切悪くない、と思っているのだろうから。


オレに対しても、優斗に対しても。


「.....で、さっきも聞いたんですけど、なんでオレなんですか? そっちのクラスの仲良い奴らに聞けばいいじゃないですか」


至極真っ当に思える指摘をすると、しかし担任教師は、難しい顔をし始めた。


コイツには難しい日本語を使っただろうか。そう感じたのなら一刻も早くジョブチェンジしてきて欲しいのだが。


「それがなぁ.....どうにもアイツ、クラスの中に友人を作っていなかったみたいでな.....」


「...............」


マジかよ。


親友のあまりにもどぎつい新学期ムーブに、思わず閉口してしまう。なんてロックな高校生活を始めてやがるんだアイツは。


クラスメイトや友人とトラブルがあった、なんてありきたりな理由を想像していたが―――そもそも友人を作っていない、ときたか。


「なもんでな、クラスの誰もアイツの連絡先を知らんようだし、なんで学校に来なくなったのか、誰も知らんそうだ」


そもそも不登校の原因ぼっち(ソコ)じゃね? とも思ったが、口には出さなかった。


連絡先を知らんようだし。

誰も知らんそうだ。


コイツの口調は、いちいち『他人事』感が漂っていて、心底吐き気がする。


この担任が直接の原因ってのもありそうだ。オレだって一秒も長くコレと会話していたくない。早く戻って息を落ち着けて昼飯を食べたい。


なんて願いが、最悪の形で聞き届けられたようで。


―――キーンコーンカーンコーン


無情にも、昼休み終了の鐘が鳴り響いた。


「げぇ!? 休み終わり!?」


そんなに長く話していたつもりは無かったのだが、時計を見ればちゃんと13時。とっとと切り上げたかった呼び出しで昼休みが全部潰れるとは、なんたる皮肉、なんたる無情。


ちなみに、このチャイムは、昼休みの終了を意味すると同時に、授業の開始を意味する。


さらに、(無駄に厳しいことに)この学校では授業開始時点で着席していない場合、いかなるケースにおいても【欠席】扱いとなるのだ。


つまり、今ここにいる時点でタイムアウト、欠席の確定演出である。


あゝ無情。ほんと無情。


「いかんな。早く授業に行きなさい」


あたりまえだのクラッカーな発言をし、緩慢な所作で生徒指導室から出ようとする担任。


思わず「は?」と素で呟いてしまった。


「桜川の事、何か分かったら教えてくれ。さあ授業頑張ってこい」


「いやっ、ちょ.....はぁ!? それだけ!? 頑張ってこいも何も欠席確定なんですけど!?ていうかオレまだ昼飯も食べ終わってないんですよ!?」


これまで校則を遵守してきた敬虔な男子生徒の必死の訴えは、自分は悪くないと思っているどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()教師の耳には、悲しくも届かず。


ごく自然な動作で鍵を施錠した担任は、去り際に一言、


「すまんかった。これで許してくれ」


そう言って、後ろ手をひらひらと振りながら、優雅に立ち去っていった。


あまりにもな処遇に、思わず呆然としてしまい、次第にふつふつと怒りが湧いてきて。


(許すわけ無ぇだろハゲ!!!! 〇ね!!!!!)


去り行くレフ板に呪詛のこもった小声で絶叫し、しっかり中指を立ててから、慌てて教室へと戻る。


廊下を全力で走りながら、もういっそ優雅に社長出席でもしてやろうか―――と、一瞬だけ考えて、やめた。


あの拘束しやがった張本人が後々弁明してくれるとは限らないし、何より優雅に遅れてきた生徒に対して、この学校の教師が温情をかけるとは思えない。


心証は良いに越した事は無いのだ。


おそらく優斗は、そういうところも嫌になったのだろうが。


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