2人だけの時間
2人だけの時間
◆ 水無瀬紗弥 ◆
7月21日――今日は終業式。
天海くんと別れたことから始まった高校二年の一学期ももう終わり。長かったような短かったような。
楽しいことも辛いこともたくさんあった三ヶ月だったけど、今思い返してみれば我ながら青春してたなぁ、って思う。
それにこの三ヶ月は付き合っていた頃より天海くんのことをたくさん知れた。
こんな夢のような日々がいつまで続くかは分からない。だけどできればもう少しこんな日々が続けばいいなと思う。
それにあわよくばもう一度天海くんと……。
私は家の鍵を閉めると普段よりも軽いスクールバッグを肩にかけ直した。
教室に着くと、私の机の上にはたくさんのお菓子の箱でできた家? があった。
「あっ! さやちー来た!」
教室に入った途端、駆け寄ってきた明里に手を引かれ私は四人が囲む自分の席へと着席させられる。
「さやちー、お誕生日おめでとう!」
「「「おめでとう」」」
パンッという破裂音が4つ、教室に鳴り響き、私は驚いて机を蹴り上げてしまった。
バラバラとお菓子の家は崩れ、周りの四人はそれを慌てて拾い集める。
「ごめん、ありがと」
四人は再び手早くお菓子の家を作り直すと、改めて祝いの言葉をかけてくれる。
「これはお城だよ! 誕生日のさやちーはいわば主役――お姫様なんだよ!」
これお城だったんだ。
「ありがと。だけど私たちもう高二だし、お姫様っていうのは少し恥ずかしいかも」
「女の子はいつまでもお姫様なんだよ! あかりのままだって永遠の17歳って言ってるし!」
私、明里のお母さんと同じ歳になったんだ。
「何はともあれ、さや――誕生日おめでとう」
「ありがと。お菓子放課後にみんなで食べよ!」
チャイムが鳴ると大量のプリントを抱えながら教室に入ってきた先生が今学期最後となるHRの号令をかけた。
放課後。私のお誕生日会兼一学期お疲れ様会兼お昼ご飯を明里と真央と三人で食べに行き、そこで明里からは犬のマグカップ。真央からはいい匂いの日焼け止めを誕生日プレゼントとして貰った。
いつものファミレスでドリンクバーを片手に何時間話したのだろう。店を出た頃には夕日が空を茜色に染めていた。
家に帰ると居間から天海くんのおかえりという声が聞こえてくる。
「今日はピザでも取る?」
「じゃあ私、サラダだけ簡単に作っちゃうね」
たしかレタスが半玉残ってたはず。
天海家の冷蔵庫の中身は完全に熟知している。
使い慣れたキッチンで手早くサラダを作り、ピザが来るまで冷蔵庫に入れておく。
「そういえば、ご両親は夏休み帰ってくるの?」
「父さんも母さんも今年の夏はパリで日光浴を楽しむから帰ってこないってさ。水無瀬さんは一旦家に帰る予定とか家族で旅行の予定とかないの?」
「どこかで顔は見せようと思ってるけど、ママもお父さんも帰ってくるなら天海くんも連れてこいってうるさいんだもん」
苦笑いの天海くん。
「そういえば、この前夏休みに田舎のおじいちゃん家に行くって」
「毎年お盆になったら親戚一同集まるんだ。今年も行っていいか聞いたら、父さんと母さんいなくても来ていいってさ。水無瀬さんの分も交通費も出してくれるって」
親戚一同……。そんなところに私がお邪魔してもいいのかな。
それから夏休みの課題や遊ぶ予定なんかを話していると、注文していたピザが届いた。
「それじゃあご飯も揃ったし、水無瀬さんの誕生日パーティーってことで――カンパーイ」
天海くんの音頭で私もコーラの入ったグラスを掲げる。天海くんいわく、ピザにはコーラらしい。
二人でMピザを二枚。食べ切れるか不安だったけど、案外ペロリと無くなるものだ。
とはいえ、さすがに食休みっと。
満腹のお腹をかかえてソファーの背もたれに体重を預けると隣に小さな袋を持った天海くんが腰かける。
「水無瀬さん、改めて誕生日おめでとう」
お礼を言って、差し出された小袋を受け取り、中の小包を開けると、しっぽが持ち手になっている猫のマグカップが現れる。
「え、かわいい。ありがと」
天海くんは安心したような顔を小さく笑う。
それがなんだか落ち着く。
きっと三ヶ月前ならその笑みに一々ドギマギしていたんだとおもう。
きっとこれは、この天海くんと二人屋根の下っていう生活に、良い意味でも悪い意味でも慣れたってことで。少し前の私なら今のこんな姿天海くんに見せられないもん。
天海くんを横目で盗み見ようとするとタイミング悪くか、天海くんも私を見ていたのか、ばっちりと目が合ってしまう。
反射的に目を逸らしてしまったが、よく考えれば別にやましいことをしているわけではない。それに……。
私は頭をゆっくりと天海くんの肩に預ける。
一瞬、肩から驚きと戸惑いを感じたけど、すぐにそれは鳴りを潜める。
ああ、いつまでも……なんて贅沢は言わない。だけど、もう少しだけこのまま。
明日から夏休みが始める。少しぐらい夜更かししてもいいよね。
私は天海くんの体温を頭で感じながらゆっくりと瞳を閉じた。
◆ ???? ◆
この国ともお別れか。今思えば長くてつまらない退屈な日々だった。
聞きなれた英語の機内アナウンスを片耳に入れながら小さな窓からせわしなく働く作業員を眺める。
やっと離陸の準備が終わったのか、改めて機内アナウンスが始まると私は日本にいるあの人のことを思い浮かべる。
ゆっくりと動き出した飛行機は数分で滑走路に乗り、すごいスピードに加速すると日本へ向けて飛び出した。
「もうすぐ会えるね――兄さん」




